- 内壁がテフロン(注1)表面のようにフッ素で密に覆われたナノチューブを超分子重合(注2)で開発した。
- このナノチューブは塩を通さないが、これまでの目標であったアクアポリン(注3)の4500倍の速度で水を通した。
- 海水を高速で真水に変える次世代水処理膜の開発に貢献する。
(注1)テフロン:
フッ素原子が多数含まれるフッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレンの一種。表面にはフッ素原子が密に覆われた構造をもち、高い安定性や高い撥水性などの特徴があることからフライパンのコーティングなどに利用されている。デュポンの登録商標。
(注2)超分子重合:
従来の重合反応では、原料となる小分子が強く不可逆的な結合によって連結し、鎖を形成する。一旦できた鎖は簡単には切断できない。一方、超分子重合では、弱い引力相互作用により原料となる小分子が互いに「接着」することで鎖が生成する。生成した鎖は容易に切断、再構築できる。
(注3)アクアポリン:
細胞の水取り込みに関係する細胞膜に存在するタンパク質で、内径〜0.3 ナノメートルの穴を水分子をのみが選択的に透過し、イオンや他の物質は透過させない性質をもつ。1991年にピーター・アグレらによって発見された。
(注4)ナノメートル:
1ナノメートルは1,000,000,000分の1メートル。
(注5)塩化物イオン:
塩を構成する二つのイオンのうちの一つ(Cl–)で、負の電荷をもつ。もう一方のイオンは正の電荷をもつナトリウムイオン(Na+)。
(注6)カーボンナノチューブ:
炭素の六員環のネットワークで作られるシート(グラフェン)が管状になったもの。0.4〜50 ナノメートルまでのさまざまな内径をもつものが存在する。1991年に飯島澄男によって発見された。
(注7)水素結合:
酸素や窒素のような電気的に負に帯電した原子が、電気的に弱く正に帯電した水素によって静電的に繋がった結合。
東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の伊藤喜光准教授、佐藤浩平大学院生(研究当時)、相田卓三卓越教授(本務:理化学研究所 創発物性科学研究センター 副センター長)らの研究グループは、テフロン表面のように内壁がフッ素で密に覆われた内径0.9ナノメートル(注4)のナノチューブ(フッ素化ナノチューブ)を超分子重合により開発した。このナノチューブは塩を通さないが、これまでの目標であったアクアポリンの4500倍の速度で水を透過した。一般に高い水透過能と高い塩除去能を同時に満たすことは極めて難しいが、ここでは、密なフッ素表面が水分子の結合を切断し同時に塩化物イオン(注5)の侵入を阻止するために、これまでにない圧倒的なスピードでの塩水の脱塩が実現された。この成果は、地球規模の飲料水不足に対応するための超高速水処理膜の開発につながると期待される。
本研究成果は、2022年5月12日(米国東部夏時間)に米国科学誌「Science」のオンライン版に掲載された。