ずいぶんと冷えてきました。
天候が急に悪くなりそうです。皆さんお大事に。
クリスマス前に風邪なんか引きたくないですからね。
不相応なしな(女としての現役感)と不自然なアンチエイジングで武装した女を嫌悪する『女ぎらい』という女たちが結構いるんですね。かといってすなおにおばちゃん(おばはん)にはなれない。『夫婦善哉』に登場する柳吉は二十歳の蝶子のことをおばはんと呼んでいたが、それが女としてうれしそうにしていた時代もあった。
天候が急に悪くなりそうです。皆さんお大事に。
クリスマス前に風邪なんか引きたくないですからね。
不相応なしな(女としての現役感)と不自然なアンチエイジングで武装した女を嫌悪する『女ぎらい』という女たちが結構いるんですね。かといってすなおにおばちゃん(おばはん)にはなれない。『夫婦善哉』に登場する柳吉は二十歳の蝶子のことをおばはんと呼んでいたが、それが女としてうれしそうにしていた時代もあった。
蝶子は柳吉をしっかりした頼 もしい男だと思い、そのように言 い触 らしたが、そのため、その仲は彼女の方からのぼせて行ったといわれてもかえす言葉はないはずだと、人々は取沙汰 した。酔 い癖 の浄瑠璃 のサワリで泣声をうなる、そのときの柳吉の顔を、人々は正当に判断づけていたのだ。夜店の二銭のドテ焼(豚 の皮身を味噌 で煮 つめたもの)が好きで、ドテ焼さんと渾名 がついていたくらいだ。
柳吉はうまい物に掛けると眼がなくて、「うまいもん屋」へしばしば蝶子を連れて行った。彼にいわせると、北にはうまいもんを食わせる店がなく、うまいもんは何といっても南に限るそうで、それも一流の店は駄目や、汚 いことを言うようだが銭を捨てるだけの話、本真 にうまいもん食いたかったら、「一ぺん俺 の後へ随 いて……」行くと、無論一流の店へははいらず、よくて高津 の湯豆腐屋 、下は夜店のドテ焼、粕饅頭 から、戎橋筋 そごう横「しる市」のどじょう汁 と皮鯨汁 、道頓堀 相合橋東詰 「出雲屋 」のまむし、日本橋「たこ梅」のたこ、法善寺境内「正弁丹吾亭 」の関東煮 、千日前常盤座 横「寿司 捨」の鉄火巻と鯛 の皮の酢味噌 、その向い「だるまや」のかやく飯 と粕じるなどで、いずれも銭のかからぬいわば下手 もの料理ばかりであった。芸者を連れて行くべき店の構えでもなかったから、はじめは蝶子も択 りによってこんな所へと思ったが、「ど、ど、ど、どや、うまいやろが、こ、こ、こ、こんなうまいもんどこイ行ったかて食べられへんぜ」という講釈を聞きながら食うと、なるほどうまかった。
略
新世界に二軒 、千日前に一軒、道頓堀に中座の向いと、相合橋東詰にそれぞれ一軒ずつある都合五軒の出雲屋の中でまむしのうまいのは相合橋東詰の奴 や、ご飯にたっぷりしみこませただしの味が「なんしょ、酒しょが良う利いとおる」のをフーフー口とがらせて食べ、仲良く腹がふくれてから、法善寺の「花月 」へ春団治 の落語を聴 きに行くと、ゲラゲラ笑い合って、握 り合ってる手が汗をかいたりした。
深くなり、柳吉の通い方は散々頻繁 になった。遠出もあったりして、やがて柳吉は金に困って来たと、蝶子にも分った。
父親が中風で寝付くとき忘れずに、銀行の通帳と実印を蒲団 の下に隠 したので、柳吉も手のつけようがなかった。所詮 、自由になる金は知れたもので、得意先の理髪店を駆 け廻っての集金だけで細かくやりくりしていたから、みるみる不義理が嵩 んで、蒼 くなっていた。そんな柳吉のところへ蝶子から男履 きの草履を贈 って来た。添 えた手紙には、大分永いこと来て下さらぬゆえ、しん配しています。一同舌をしたいゆえ……とあった。一度話をしたい(一同舌をしたい)と柳吉だけが判読出来るその手紙が、いつの間にか病人のところへ洩 れてしまって、枕元 へ呼び寄せての度重なる意見もかねがね効目 なしと諦 めていた父親も、今度ばかりは、打つ、撲 るの体の自由が利かぬのが残念だと涙 すら浮 べて腹を立てた。わざと五つの女の子を膝 の上に抱 き寄せて、若い妻は上向いていた。実家へ帰る肚を決めていた事で、わずかに叫 び出すのをこらえているようだった。うなだれて柳吉は、蝶子の出しゃ張り奴 と肚の中で呟 いたが、しかし、蝶子の気持は悪くとれなかった。草履は相当無理をしたらしく、戎橋 「天狗 」の印がはいっており、鼻緒 は蛇 の皮であった。
「釜 の下の灰まで自分のもんや思たら大間違いやぞ、久離 切っての勘当……」を申し渡した父親の頑固 は死んだ母親もかねがね泣かされて来たくらいゆえ、いったんは家を出なければ収まりがつかなかった。家を出た途端 に、ふと東京で集金すべき金がまだ残っていることを思い出した。ざっと勘定して四五百円はあると知って、急に心の曇 りが晴れた。すぐ行きつけの茶屋へあがって、蝶子を呼び、物は相談やが駈落 ちせえへんか。
あくる日、柳吉が梅田の駅で待っていると、蝶子はカンカン日の当っている駅前の広場を大股 で横切って来た。髪 をめがねに結っていたので、変に生々しい感じがして、柳吉はふいといやな気がした。すぐ東京行きの汽車に乗った。
柳吉はうまい物に掛けると眼がなくて、「うまいもん屋」へしばしば蝶子を連れて行った。彼にいわせると、北にはうまいもんを食わせる店がなく、うまいもんは何といっても南に限るそうで、それも一流の店は駄目や、
略
新世界に二
深くなり、柳吉の通い方は散々
父親が中風で寝付くとき忘れずに、銀行の通帳と実印を
「
あくる日、柳吉が梅田の駅で待っていると、蝶子はカンカン日の当っている駅前の広場を