ニュース検索で「などとして」を検索してみてごらん。歪んだ鏡に映ったニュースが拾えるよ。
仙谷長官は、先週の参議院予算委員会で、野党議員の質問を「拙劣」と批判したほか、政府参考人として出席した官僚をどう喝したなどとして、野党側から反発を受けていたが、
最近のマスコミ報道のゆがみにはこういう事例もある。多少長くなるが、ご参考に引用しておく(太字は私が強調した)。高久先生もコメントを発表されている。
2学会が朝日新聞に抗議 がんワクチンの記事めぐり
日本癌学会と日本がん免疫学会は22日、東京大医科学研究所が開発した「がんペプチドワクチン」の臨床試験に関する朝日新聞社の記事について、「大きな事実誤認に基づいて情報をゆがめた」などとして、記事の訂正や謝罪などを求める抗議声明を、癌学会のホームページに掲載した。
記事は、ワクチンで治療を受けていた男性の消化管からの出血に関し、ほかの病院に知らせていなかったことに関するもの。15日と16日に掲載された。
医科研側は記者会見などで「単独の臨床試験を(他施設との)共同研究のように報道された。ペプチドの開発者とされた教授は、開発者でも試験の責任者でもない」などと反論している。
同教授の研究成果を基に、治療薬開発などを目的に設立され、記事で取り上げられた川崎市のベンチャー企業も22日、朝日新聞社社長などに抗議文を送った。
2010/10/22 23:49 【共同通信】
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高久史麿
2010年10月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2010年10月15日の朝日新聞朝刊1面に、『「患者が出血」伝えず 臨床試験中のがん治療ワクチン 東大医科研、提供先に』と題する記事が掲載されました。報道には医学的誤りが多数含まれ、患者さん・一般読者の方々の不安を煽る内容となっており、看過できるものではありません。
記事は、東京大学医科学研究所附属病院での「がんワクチン」臨床試験中に、膵臓がんの患者さんに起きた消化管出血が、「『重篤な有害事象』と院内で報告されていたのに、医科研が同種のペプチドを提供する他の病院に知らせていなかった、また医科研病院は消化管出血の恐れのある患者を被験者から外したが、他施設の被験者は知らされていなかった、と報じるものでした。一般の読者がこの記事を読まれた場合、「東大医科研が、臨床試験でがんワクチンが原因の消化管出血が生じているにもかかわらず、他の施設に情報を提供せず隠ぺいした」という印象をお持ちになられると思います。
しかし医学的真実は異なります。医科研病院が情報隠蔽をしていたわけではありません。
まず、この臨床試験は難治性の膵臓がん患者さんを対象としたものであり、抗がん剤とがんワクチンを併用したものでした。難治性の膵臓癌で、消化管出血が生じることがあることは医学的常識です。当該患者さんも、膵臓がんの進行により、食道からの出血を来していました。あえて他の施設に消化管出血を報告することは通常行われません。また、別の施設(和歌山医大)で抗がん剤とがんワクチンを併用した患者さんで、消化管出血を起こしたことが既に報告されており、関係施設には情報が共有されていました。さらに、この臨床試験は医科研病院単独で行われたものであり、他の施設に報告する義務はありませんでした。以上から、医科研病院が情報隠蔽をしていたわけではないことがわかります。
さらに記事には問題があります。それは、日本のトップレベルの業績を持つ中村祐輔教授を不当に貶める報道内容であったことです。
2010年10月15日の朝日新聞社会面は、「患者出血「なぜ知らせぬ」ワクチン臨床試験協力の病院、困惑」「薬の開発優先批判免れない」となっています。本文中では、中村祐輔教授が、未承認のペプチドの開発者であること、中村教授を代表者とする研究グループが中心となり、上記ペプチドの製造販売承認を得ようとしていること、中村教授が、上記研究成果の事業化を目的としたオンコセラピー・サイエンス社(大学発ベンチャー)の筆頭株主であること、消化管出血の事実が他の施設に伝えられなかったことを摘示し、「被験者の確保が難しくなって製品化が遅れる事態を避けようとしたのではないかという疑念すら抱かせるもので、被験者の安全よりも薬の開発を優先させたとの批判は免れない」との内容が述べられています。
しかしながらこの記事の内容も誤っています。中村祐輔教授は、がんペプチドワクチンの開発者ではなく、特許も保有しておらず、医科研病院の臨床試験の責任者ではありません。責任を有する立場でない中村祐輔教授を批判するのは、お門違いであり、重大な人権侵害です。
この記事の影響により、関係各所のみならず多くの医療機関に患者さんやご家族からの問い合わせが殺到しました。
新たな治療法や治療薬の開発は、多くのがん患者さんにとって大きな願いです。しかしながら、誤った報道から、がん臨床研究の停滞や、がん患者さんの不安の増大が懸念されます。
朝日新聞社におかれましては、がん患者さんを含む一般市民の視点を考え、誤解を与えるような不適切な報道ではなく、事実を冷静に分かりやすく伝えて下さることを強く望みます。
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韓国籍の男が自首 動機はメディア報道内容
東京都渋谷区のNHK放送センター近くの路上で今月18日、男性が刃物で切りつけられて首を負傷した事件で、警視庁捜査1課が事件に関与した疑いが強まったとして、殺人未遂容疑で、韓国籍の男を30日にも逮捕する方針を固めたことが捜査関係者への取材で分かった。
査関係者によると、男は18日午後9時半ごろ、同センターを出た映像制作関連の男性会社員(48)の首に、いきなり刃物で切りつけた疑いが持たれている。男性は首を15センチ切る大けがを負った。
防犯カメラなどから逃走した男の行方を捜査していたところ、19日に男が「自分がやった」と出頭。男は出頭時、「NHKの報道内容に腹が立ってやった」などと話し、その後「日本のメディアに腹が立った」とも話したとされる。警視庁が不法滞在したとして入管難民法違反容疑で男を逮捕し、捜査していた。
東京大学医科学研究所・教授
清木元治
2010年10月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
平成22年10月15日の朝日新聞朝刊に東京大学医科学研究におけるペプチドワクチンの臨床試験についての報道があった。これに対して、10月20日に41のがん患者団体が厚生労働省で記者会見を開き、我国の臨床試験が停滞することを憂慮するとの声明文を公表した。朝日新聞は翌日21日に、"患者団体「研究の適正化を」"と題する記事(朝刊38面)を書いている。
この記事が記者会見の声明文の真意を伝える報道であれば朝日新聞の公正な立場が評価されるところだが、よく読んでみると声明文の一部分を削除して掲載することにより、声明の意図をすり替えているように読める。
声明文の一部をそのまま掲載すると:
「臨床試験による有害事象などの報道に関しては,がん患者も含む一般国民の視点を考え,誤解を与えるような不適切な報道ではなく,事実を分かりやすく伝えるよう,冷静な報道を求めます。」
全文は
http://pancreatic.cocolog-nifty.com/oncle/2010/10/37-3925.html
http://smiley.e-ryouiku.net/?day=20101019
http://lohasmedical.jp/blog/2010/10/37.php
ところが朝日記事の声明文説明では:
「有害事象などの報道では,がん患者も含む一般国民の視点を考え,事実を分かりやすく伝えることを求めている。」となっており、 なんと「誤解を与えるような不適切な報道ではなく」の部分が削除されている。
本来の声明文は、臨床試験を行う研究者・医師、行政関係者、報道関係者に向けられており、特に上記に相当する部分では報道に対して「誤解を与えるような不適切な報道」を慎んでほしいとの切実な要望が述べられている。
科学論文の世界では、事実の一部をなかったことにして解釈を意図的に変えることを捏造と呼んでおり、この捏造の定義に異論を唱える人はないだろう。朝日新聞の10月15日から始まった一連の関連記事を読むと、実際の事実関係と書きぶりによって影響を与えようとしている目的との間に大きなギャップを感じざるを得ない。社会に対して大きな権力を持ち責任を担う朝日新聞の中で、急速に報道モラルと体質の劣化が起こっているのではないかと思わせられ大変心配になる。「医療や臨床試験の中では人権保護が重要だ」と主張している担当記者の人権意識は、単にインパクトある大きな記事を書く為の看板であり、最も根幹である保護されるべき対象が欠落しているのではないかと思わせられる。
(2010年10月22日)
仙谷長官は、先週の参議院予算委員会で、野党議員の質問を「拙劣」と批判したほか、政府参考人として出席した官僚をどう喝したなどとして、野党側から反発を受けていたが、
最近のマスコミ報道のゆがみにはこういう事例もある。多少長くなるが、ご参考に引用しておく(太字は私が強調した)。高久先生もコメントを発表されている。
2学会が朝日新聞に抗議 がんワクチンの記事めぐり
日本癌学会と日本がん免疫学会は22日、東京大医科学研究所が開発した「がんペプチドワクチン」の臨床試験に関する朝日新聞社の記事について、「大きな事実誤認に基づいて情報をゆがめた」などとして、記事の訂正や謝罪などを求める抗議声明を、癌学会のホームページに掲載した。
記事は、ワクチンで治療を受けていた男性の消化管からの出血に関し、ほかの病院に知らせていなかったことに関するもの。15日と16日に掲載された。
医科研側は記者会見などで「単独の臨床試験を(他施設との)共同研究のように報道された。ペプチドの開発者とされた教授は、開発者でも試験の責任者でもない」などと反論している。
同教授の研究成果を基に、治療薬開発などを目的に設立され、記事で取り上げられた川崎市のベンチャー企業も22日、朝日新聞社社長などに抗議文を送った。
2010/10/22 23:49 【共同通信】
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高久史麿
2010年10月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2010年10月15日の朝日新聞朝刊1面に、『「患者が出血」伝えず 臨床試験中のがん治療ワクチン 東大医科研、提供先に』と題する記事が掲載されました。報道には医学的誤りが多数含まれ、患者さん・一般読者の方々の不安を煽る内容となっており、看過できるものではありません。
記事は、東京大学医科学研究所附属病院での「がんワクチン」臨床試験中に、膵臓がんの患者さんに起きた消化管出血が、「『重篤な有害事象』と院内で報告されていたのに、医科研が同種のペプチドを提供する他の病院に知らせていなかった、また医科研病院は消化管出血の恐れのある患者を被験者から外したが、他施設の被験者は知らされていなかった、と報じるものでした。一般の読者がこの記事を読まれた場合、「東大医科研が、臨床試験でがんワクチンが原因の消化管出血が生じているにもかかわらず、他の施設に情報を提供せず隠ぺいした」という印象をお持ちになられると思います。
しかし医学的真実は異なります。医科研病院が情報隠蔽をしていたわけではありません。
まず、この臨床試験は難治性の膵臓がん患者さんを対象としたものであり、抗がん剤とがんワクチンを併用したものでした。難治性の膵臓癌で、消化管出血が生じることがあることは医学的常識です。当該患者さんも、膵臓がんの進行により、食道からの出血を来していました。あえて他の施設に消化管出血を報告することは通常行われません。また、別の施設(和歌山医大)で抗がん剤とがんワクチンを併用した患者さんで、消化管出血を起こしたことが既に報告されており、関係施設には情報が共有されていました。さらに、この臨床試験は医科研病院単独で行われたものであり、他の施設に報告する義務はありませんでした。以上から、医科研病院が情報隠蔽をしていたわけではないことがわかります。
さらに記事には問題があります。それは、日本のトップレベルの業績を持つ中村祐輔教授を不当に貶める報道内容であったことです。
2010年10月15日の朝日新聞社会面は、「患者出血「なぜ知らせぬ」ワクチン臨床試験協力の病院、困惑」「薬の開発優先批判免れない」となっています。本文中では、中村祐輔教授が、未承認のペプチドの開発者であること、中村教授を代表者とする研究グループが中心となり、上記ペプチドの製造販売承認を得ようとしていること、中村教授が、上記研究成果の事業化を目的としたオンコセラピー・サイエンス社(大学発ベンチャー)の筆頭株主であること、消化管出血の事実が他の施設に伝えられなかったことを摘示し、「被験者の確保が難しくなって製品化が遅れる事態を避けようとしたのではないかという疑念すら抱かせるもので、被験者の安全よりも薬の開発を優先させたとの批判は免れない」との内容が述べられています。
しかしながらこの記事の内容も誤っています。中村祐輔教授は、がんペプチドワクチンの開発者ではなく、特許も保有しておらず、医科研病院の臨床試験の責任者ではありません。責任を有する立場でない中村祐輔教授を批判するのは、お門違いであり、重大な人権侵害です。
この記事の影響により、関係各所のみならず多くの医療機関に患者さんやご家族からの問い合わせが殺到しました。
新たな治療法や治療薬の開発は、多くのがん患者さんにとって大きな願いです。しかしながら、誤った報道から、がん臨床研究の停滞や、がん患者さんの不安の増大が懸念されます。
朝日新聞社におかれましては、がん患者さんを含む一般市民の視点を考え、誤解を与えるような不適切な報道ではなく、事実を冷静に分かりやすく伝えて下さることを強く望みます。
****
韓国籍の男が自首 動機はメディア報道内容
東京都渋谷区のNHK放送センター近くの路上で今月18日、男性が刃物で切りつけられて首を負傷した事件で、警視庁捜査1課が事件に関与した疑いが強まったとして、殺人未遂容疑で、韓国籍の男を30日にも逮捕する方針を固めたことが捜査関係者への取材で分かった。
査関係者によると、男は18日午後9時半ごろ、同センターを出た映像制作関連の男性会社員(48)の首に、いきなり刃物で切りつけた疑いが持たれている。男性は首を15センチ切る大けがを負った。
防犯カメラなどから逃走した男の行方を捜査していたところ、19日に男が「自分がやった」と出頭。男は出頭時、「NHKの報道内容に腹が立ってやった」などと話し、その後「日本のメディアに腹が立った」とも話したとされる。警視庁が不法滞在したとして入管難民法違反容疑で男を逮捕し、捜査していた。
東京大学医科学研究所・教授
清木元治
2010年10月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
平成22年10月15日の朝日新聞朝刊に東京大学医科学研究におけるペプチドワクチンの臨床試験についての報道があった。これに対して、10月20日に41のがん患者団体が厚生労働省で記者会見を開き、我国の臨床試験が停滞することを憂慮するとの声明文を公表した。朝日新聞は翌日21日に、"患者団体「研究の適正化を」"と題する記事(朝刊38面)を書いている。
この記事が記者会見の声明文の真意を伝える報道であれば朝日新聞の公正な立場が評価されるところだが、よく読んでみると声明文の一部分を削除して掲載することにより、声明の意図をすり替えているように読める。
声明文の一部をそのまま掲載すると:
「臨床試験による有害事象などの報道に関しては,がん患者も含む一般国民の視点を考え,誤解を与えるような不適切な報道ではなく,事実を分かりやすく伝えるよう,冷静な報道を求めます。」
全文は
http://pancreatic.cocolog-nifty.com/oncle/2010/10/37-3925.html
http://smiley.e-ryouiku.net/?day=20101019
http://lohasmedical.jp/blog/2010/10/37.php
ところが朝日記事の声明文説明では:
「有害事象などの報道では,がん患者も含む一般国民の視点を考え,事実を分かりやすく伝えることを求めている。」となっており、 なんと「誤解を与えるような不適切な報道ではなく」の部分が削除されている。
本来の声明文は、臨床試験を行う研究者・医師、行政関係者、報道関係者に向けられており、特に上記に相当する部分では報道に対して「誤解を与えるような不適切な報道」を慎んでほしいとの切実な要望が述べられている。
科学論文の世界では、事実の一部をなかったことにして解釈を意図的に変えることを捏造と呼んでおり、この捏造の定義に異論を唱える人はないだろう。朝日新聞の10月15日から始まった一連の関連記事を読むと、実際の事実関係と書きぶりによって影響を与えようとしている目的との間に大きなギャップを感じざるを得ない。社会に対して大きな権力を持ち責任を担う朝日新聞の中で、急速に報道モラルと体質の劣化が起こっているのではないかと思わせられ大変心配になる。「医療や臨床試験の中では人権保護が重要だ」と主張している担当記者の人権意識は、単にインパクトある大きな記事を書く為の看板であり、最も根幹である保護されるべき対象が欠落しているのではないかと思わせられる。
(2010年10月22日)