公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

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橘孝三郎 愛郷を超えて行動へ

2025-02-11 15:21:00 | 日本人
以下「 」は
五・一五事件 橘孝三郎と愛郷塾の軌跡
 著 者 保阪正康

の一節だ

今日の農業荒廃は自然作用ではない。減反補助金という人工的荒廃である。工業化を国是に選んだための隘路に農業とその担い手が干上がり日本の農家は廃業を強く意識してきている。時代が100年近く回って昭和初期と同じ結果がやってくる。プロ農業企業によって愛郷の空白を埋めることは難しいだろう。

「孝三郎は反対意見をひとつひとつ否定しながら、そして言った。 「時期はすでにどうにもならないところにきている。どうにもならないところにきているんだ。愛郷会も愛郷塾もうまくいっているのはよくわかるが、そんなことをいってはおれない。このさいいっさいを捨てて政治運動に突進すべきだ。弾圧があろうと同志が離れていこうとそんなことは問題ではない。ただひたすら突進するのみ、突進するのみなのだ」 
 孝三郎は焦っていた。その焦りは愛郷会運動の歩みを捨てることさえ意味していた。その気魄にのまれたのか、あるいは〝血を見るのもやむを得ない〟と考えている孝三郎の変貌に驚いたのか、出席者たちは黙した。……日頃はあまり饒舌でない孝三郎だけに会員はよけいに驚いたと、同書では記述している。 「身を捨てて政治闘争に突進する」という意味の決議がなされた。村議会であろうが村治派同盟であろうが、どんな機会をも見のがさず積極的に政治活動にはいってゆくということが確認されたのである。しかし非合法への傾斜は、この幹部会でもまったく議題にならず、むしろ村治派同盟をよりいっそう政治的にするために、長野朗と手を結んでいくという了解もできた。孝三郎の知識を継承する杉浦孝はその方面へ熱心に加担していくことも決まった。 
 愛郷会が政治的行動を起こすと、それも多分に孝三郎の強引な申し出で決めてから、二、三日置いて古賀清志から孝三郎に連絡があった。霞ヶ浦の士官に農村の病弊を話して欲しいというのであった。古賀は教官クラスに、中村義雄は飛行学生に働きかけ、国内改造の必要性を呼びかけていたが、共鳴する者は多くても積極的にそうした運動に加担する意思はもっていなかったのでいらだっていた。それで孝三郎を通じて具体的に病弊の状況を語らせようというのであったろう。それになにより、ふたりもまた孝三郎とおなじように、焦慮を強めていた。  また彼らはすでに具体的な行動の計画までつくっていたのだ。昭和七年が明けてすぐに、日召系のメンバーは権藤の空家で談合を重ね、あくまでも起爆剤になろうと、二月十一日を期して特権階級の要人を暗殺しようと誓っていた。そのため地方に散在する同志に、四元義隆が連絡に行くとも決めていた。西田ら陸軍の将校たちと決定的に袂を分った彼らの独自の行動であった。このころ西田系は犬養内閣に入閣した荒木貞夫陸相に期待し、行動に走るのを抑えていたという。そしてこうした談合に孝三郎が加わっていなかったのも、日召が上申書(「梅の実」)で明らかにしているように、体質上不適当な事、性格温順に過ぎる事、学識を惜しんだ事のためで、愛郷塾は行動計画の埓外におかれていた。 
 孝三郎は昭和七年一月二十二日に土浦の料亭で、霞ヶ浦の小園安名ら六人の大尉と十人の飛行学生に講演をしている。農村の状況を語り、マルクス、マルサスを批判し、「愛国同胞主義による王道的国民協同自治組織」の建設のために、〝天意を与えられた志士の一団が起ち上ることが必要だ〟と言った。非合法の扇動であった。だから講演の末尾は「私議すべからざる事を私議したのでありますから、そのおつもりでお聞きとり下さったことと存じます」ということばで結ばれている。この話を聞いた古賀や中村は、ここに孝三郎がはっきりと変貌したのを確認したのでもあった。
  孝三郎はこの講演のなかで、ファッショとプロレタリア独裁に反対したが、彼の考えるファッショというのは、その質的相違や歴史的事情を無視したもので、「英国に代表される金力的政党ファッショ、イタリアの武断ファッショ、ロシアのプロレタリア独裁」というのであった。このころファシズムは論壇のなかでもっとも忌み嫌うことばとして使われていた。日本労働倶楽部は「反ファシズム、反資本主義、反共産主義」の三反主義を唱えていた。」

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