約600人が職を失う見通しだった。その後、雇い止めを待たずに理研を去った人がいるため、現時点では約400人がリストラの危機にある状況だ。
※※※※※※
「RNA新大陸の発見」から、はや5年。プロジェクト型の研究にもノーベル医学生理学賞が授与されるとしたら、林崎先生は日本人で世界のトップクラスだろう。
FANTOM2の終わりあたりからベンチャーキャピタルとしてお会いする機会があったが、包括系統的ライブラリーを用いた計算化学マッピング的な**オームサイエンスと言えば林崎グループが常に重要な部分に焦点を絞って先頭を走っている。SNPSなどには見向きもしなかった慧眼はさすがである。「エピジェノムバリアがあるはずだから分からないけれど、モレキュラー・ベースン(Basin)・ネットワークはとても大切」と林崎領域長は語った。と書いてあるが、この意味わかる記者はいたのだろうか???ベースンは造語だ。iPSもベースンの一種、しかも非常に意味のあるベースンだという。ベースンとは簡単に言えば物質と情報の一時的平衡状態。生きていること全体の情報表現ともいえる。
「FANTOM5への参加を募るジャズチックなポスターを作成した。プライマリーセルやバイオインフォマティクス、メディカルジェノミクスなど幅広い分野の方々にぜひ加わっていただきたい」──。理化学研究所オミックス基盤研究領域(OSC)の林崎良英領域長は2010年12月8日、神戸市で開催されているBMB2010のワークショップの口頭発表を締めくくった。林崎領域長は12月8日午後に開催された2W14-p「ナショナル統合データベース構築に向けて─統合DBプロジェクトの目的、現状、課題─」で「次世代シーケンサーによるデータドリブン型トランスクリプトーム解析とネットワーク解析の可能性」と題して講演した。
FANTOMは、2000年に理研のゲノム科学総合研究センター遺伝子構造機能研究グループ(当時、現OSC)が中心となって結成した国際的研究コンソーシアム共同集団(Functional ANnoTation Of Mammalian cDNA)の略称。林崎領域長の発案で哺乳動物(マウス)の遺伝子を網羅的に機能注釈することを主眼として発足し、その後、活動範囲を拡大して遺伝子ネットワークの解明に取り組んでいる。
FANTOMではまずマウス百科事典計画で完全長cDNAを集大成し、FANTOM3でCAGE(Cap Analysis of Gene Expression)法を導入してノンコーディングRNA(ncRNA)の大量発見という「RNA新大陸」を明らかにし、その発現制御に考察を加えた。FANTOM4では、CAGE法と転写因子結合部位予測を使って転写因子ネットワークを描き、急性骨髄性白血病細胞株を用いた単球分化過程に関与する重要な転写因子を同定した。FANTOM5では、さまざまな種類のヒト細胞を使って、転写開始部位の系統的マッピングに取り組む。
FANTOM5プロジェクトの開始に先だち、理研OSCは米Helicos BioSciences社と共同研究を行い、理研独自の遺伝子発現解析技術であるCAGE法を1分子シーケンサー「HeliScope」へ適用する技術を開発した。この技術は、従来のシーケンシングで必要なPCR法によるDNA増幅処理を行わずに、転写開始点を同定することが可能。そのため、データの再現性が非常に高く、測定感度の幅も広がり(ダイナミックレンジが5けた以上)、わずか100ngのRNAサンプルから、遺伝子発現量を定量できる。
再現性をチェックするグラフの相関係数が従来は0.65だったが、HeliScopeでは0.99にまで高まったことを、林崎領域長は示した。従来の1分子でない次世代シーケンサーを使った解析では、GC含量によってデータがぶれることも示した。HeliScopeを用いた成果の詳細は、12月8日夕方に討論時間が設けられたポスター発表で公開した。この関連の発表は6件連続していた。理研は現在、HeliScopeを4台所有している。
FANTOM5では、ヒト細胞における転写制御の仕組みを系統的に理解することを目標に掲げている。「エピジェノムバリアがあるはずだから分からないけれど、モレキュラー・ベースン(Basin)・ネットワークはとても大切」と林崎領域長は語った。
12月6日に理研が発表したプレスリリースには次のように記されている。「ヒト細胞は、個体の中で同じゲノム配列を持ちながら、臓器、器官や時系列での位置により、非常に多くの多様性を持っています。異なる状態にある細胞は、異なる遺伝子を発現しており、それらは転写因子のさまざまな組み合わせにより制御されている。この細胞の多様性を系統的に理解するには、さまざまな状態の細胞種を可能な限り収集し、おのおのの転写因子ネットワークを解析する必要がある。理研OSCは、ヒトの各種初代培養細胞を大規模に収集してきた下地を基に、さらに希少なタイプの細胞を収集するため、サンプル提供とその解析を希望する共同研究者を募集する。FANTOM4には、オーストラリア、シンガポール、スウェーデン、南アフリカ、イタリア、ドイツ、スイス、英国、米国などを含む全世界の15カ国から51の研究機関などの研究者が参加したが、FANTOM5はそれを上回る規模の国際コンソーシアムになると予想される」
BMB2010の12月7日のワークショップにおける25分間の発表で林崎領域長は「統合DBへの問題提起と期待」と「FANTOMの歴史」そして「FANTOM5」の3つの柱について話した。FANTOMの歴史については、プレスリリースに次のように記載されている。(河田孝雄)日経バイオテク
※FANTOMの歴史
○FANTOM1
遺伝子の機能注釈のルールや方法について取り決めを行い、遺伝子の機能注釈を効率的に行うシステムを開発した。
○FANTOM2
6万770セットのマウス完全長cDNAの塩基配列および機能注釈を行った。この活動は、世界で初めて哺乳類の完全長cDNAの標準化を行ったもので、成果論文はマウスゲノム解読の報告とともに、Nature誌特集号に掲載された。 この成果は、現在でも最大規模の哺乳類完全長cDNAデータベースとして、さまざまな研究に活用されている。
○FANTOM3
05年に米国の科学雑誌ScienceのRNA特集号(9月2日号)に、ライフサイエンスの転機となる2報の成果を報告し、「RNA新大陸の発見」として大きな反響を与えた(05年9月2日プレス発表)。
○FANTOM4
特に転写制御ネットワークの解明を目指して、06年にスタート。単芽球から単球への分化過程に照準を当て、生命活動を分子レベルで明らかにし、Nature Genetics誌の特集号にて発表した(09年4月20日プレス発表)。
○FANTOM5
FANTOM4で開発した転写制御ネットワークの解析技術を生かして、ヒト細胞の多様性の解明を目指す。FANTOM5のヘッドクオーターとして、林崎領域長とAlistair Forrest氏、河合純氏、Piero Carninci氏、川路英哉氏、Carsten Daub氏、鈴木治和氏がオーガナイザーを務める。
ベイスンを把握してファイブロブラストを単球に、「iPSは必ずしも要らない」とGNP最終公開シンポで理研の林崎領域長
「ベイスンを変えると細胞の性質は変化する。必ずしもiPSが要るわけではない」──。2009年1月16日に都内で開かれた文部科学省ゲノムネットワークプロジェクト(GNP)第5回公開シンポジウム「ゲノムネットワークが拓く新しい医学・生物学」(関連記事1)で、「転写ネットワーク解析の新展開」と題して講演した林崎良英・理化学研究所オミックス基盤研究領域(OSC)領域長(関連記事2、関連記事3、関連記事4)が壇上で語った(写真)。
ベイスン(Basins)は、個々の細胞の転写制御ネットワークが準安定状態にあることを意味する。「最近、ベイスンと呼び始めた」という。「たまたま単芽球と単球のベイスンを作っている。このベイスンの解析を基に、3種の転写因子の遺伝子をウイルス発現ベクターで、ファイブロブラストに入れたら、単球のマーカーCD14が出てきた」と林崎領域長は話した。
「iPSは、ワンオブゼム。GNP/FANTOM4(関連記事5、関連記事6)で解析し、ネットワークを分子レベルで目で見えるケースを少なくとも1個、作ることができた。iPSが要らない場合もある。ただしiPSは要らないかというと、そうではない、iPSは何もできる。必要なケースもある」と林崎領域長は語った。
林崎領域長は、最近バージョンアップされた超高速シーケンサー「SOLiD3」を用いることにより、およそ400個の細胞に1個のみ発現している転写産物も解析できていることも紹介した。
これら高性能の分析装置を用いてCAGEを行い、30個のコアモチーフから成るコアの制御ネットワークの解析などを進めている。個々の転写因子をノックダウンすると複数のモチーフ活性が変化することも紹介した。(河田孝雄)
https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/053110957.pdf
林﨑 良英 先生の近況 今は理研も退職されていますね。
平成27年~平成30年 | 理化学研究所 理事長補佐 | |
平成28年~令和3年 | 理化学研究所 中核研究管理職 | |
平成28年~平成30年 | 慶應義塾大学 SFC研究所 上席所員 | |
平成30年~ | レアバリアント・サーベイランス研究会 監事 | |
平成31年~令和元年 | 京都大学大学院 非常勤講師 | |
令和3年 | 理化学研究所退職 | |
令和3年~ | 株式会社ダナフォーム・株式会社Mirai Genomics代表取締役、株式会社SS Dnaform 代表取締役会長 就任 |
理研発ベンチャーのダナフォーム、インフルエンザA(H1N1)を検出する試薬キットの製造販売承認を取得
理化学研究所発のベンチャー企業であるダナフォーム(横浜市鶴見区、土生雅英社長)は、2009年6月に世界保健機関(WHO)からパンデミック宣言が出された新型インフルエンザウイルスであるインフルエンザA(H1N1)pdmの核酸を検出する試薬キットの製造販売承認を2010年11月22日付で取得した。09年3月にメキシコを基点に世界的な流行をきたしたこの新型インフルエンザを正確かつ迅速に検出するニーズが急速に高まったことを受け、ダナフォーム(関連記事1)と理研オミックス基盤研究領域(OSC、関連記事2)が共同開発を進め、2010年6月29日に厚生労働省に申請していた。このキットの開発では、横浜市経済観光局ものづくり支援課が推進している横浜市中小企業研究開発促進事業(SBIR)における中小企業研究開発促進助成制度による支援を受けた。この製造販売承認の取得に向けた試験などの経緯を、2010年12月13日に理研横浜研究所で開催されたオミックス医療研究会・創薬PGx分科会で、理研横浜研究所の石川智久氏(関連記事3)と千葉県立東金病院の平井愛山院長が発表した。