日本ではマイナーだが欧米では有名になりつつある重要な腸内細菌アッカーマンシア・
出願日: 2022年01月19日
特願2022-006194(特許査定5月24日)
特許第7086363号
発明の名称: 「腸粘膜バリアを強固にする腸内細菌アッカーマンシアを増やし、
追補2022/06/06
- パーキンソン病患者 165 人を 2 年間フォローアップして、研究開始時の腸内細菌叢から2 年後の症状進行を予測するランダムフォレストモデルを作成した。
- パーキンソン病患者の重症度を 5 段階に分け、第1段階の患者の 2 年以内の第 2 段階以上への進行を腸内細菌叢が正答率 79.2%で予測した。
- 短鎖脂肪酸*3産生菌である Fusicatenibacter 属, Faecalibacterium 属, Blautia 属の少ない患者とムチン*4分解菌である Akkermansia 属の多い患者は症状進行が早いことがわかった。
- Fusicatenibacter 属, Faecalibacterium 属, Blautia 属はパーキンソン病の進行とともに減少し、Akkermansia 属はパーキンソン病の進行とともに増加した。しかし、それぞれの患者でこれらの細菌数は 2 年間で変化せず、これらの細菌数の異常を持つ患者はパーキンソン病が早期に進行する可能性が示された。
- 腸内細菌叢を正常化する、あるいは不足する腸内代謝産物を補うことでパーキンソン病の進行を遅らせることができる可能性がある。
論文タイトル:Short chain fatty acids-producing and mucin-degrading intestinal bacteriapredict the progression of early Parkinson’s disease
著者: Hiroshi Nishiwaki1, Mikako Ito1, Tomonari Hamaguchi1, Tetsuya Maeda2, KenichiKashihara3, Yoshio Tsuboi4, Jun Ueyama5, Takumi Yoshida6, Hiroyuki Hanada7, IchiroTakeuchi6,7, Masahisa Katsuno8, Masaaki Hirayama5, *, Kinji Ohno1, *
所属名:
1Division of Neurogenetics, Center for Neurological Diseases and Cancer, Nagoya UniversityGraduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2Division of Neurology and Gerontology, Department of Internal Medicine, School of Medicine,Iwate Medical University, Iwate, Japan
3Department of Neurology, Okayama Kyokuto Hospital, Okayama, Japan
4Department of Neurology, Fukuoka University, Fukuoka, Japan
5Department of Pathophysiological Laboratory Sciences, Nagoya University Graduate School of
Medicine, Nagoya, Japan
6Department of Computer Science, Nagoya Institute of Technology, Nagoya, Japan
7Center for Advanced Intelligence Project, RIKEN, Tokyo, Japan
8Department of Neurology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Japan
論文概要
背景 アッカーマンシア・ムチニフィラは、宿主の健康な腸管内に存在する嫌気性細菌で、その量は宿主の様々な疾患と負の相関があると言われています。本研究では、アッカーマン シ・ムチニフィラ研究の全体像を把握し、その論文がどの時期にどのような話題で取り上げられたかを初めて明らかにするものである。
方法 Scopusデータベースを選択し、2019年までのあらゆる言語のAkkermansia muciniphilaに関連する文書を検索した。主題分野、年分布、引用、機関、ジャーナル、著者、国を含むAkkermansia muciniphila論文の書誌的プロファイルを体系的に特徴付け、著者と国のコラボレーションネットワーク、およびタイトル、抄録、キーワードの単語のバースト検出アルゴリズムを視覚化した。
結果 2004年から2019年にかけてアッカーマンシアに関する研究は漸増傾向にあり、この期間に合計566の論文が存在する。原著論文353件のうち、動物実験が194件(マウスを用いた研究が155件)、ヒトの研究が112件である。また、これらの研究では65の様々な疾患が調査されています。最も注目されている疾患は、肥満(71件)と2型糖尿病(39件)である。アッカーマンシアの論文数では、米国がトップ(n = 132)、次いで中国(n = 95)です。Frontiers in Microbiologyは23の論文を発表しており、最も優勢なジャーナルです。また、最近のアッカーマンシア研究では、「がん」がホットトピックとなっている。
結論 アッカーマ ンシアの研究は、この10年間で急速に関心が高まっており、このテーマに関する研究は、がんとの関係や健康への効果が期待できる方向に向かっている。
キーワードアッカーマンシア、微生物叢、ビブリオメトリックス。
サイエントロメトリックス
背景
現在、腸内細菌叢は健康維持や病気との闘いにおいて重要な役割を果たすと考えられている。近年の微生物バイオネットワーク研究の進展により、消化管内微生物のバランスが宿主の健康維持に重要であることが示されています[1]。プロバイオティクスやプレバイオティクスの摂取は、腸内細菌叢を改善し、いくつかの疾患の予防や治療に決定的な役割を果たします[2]。Akkermansia mucin-iphila は、ヒトの健康マーカーと考えられている有益な細菌の一つであり、多くの疾患における次世代プロバイオティクスとして紹介されています。ムチニフィラは、グラム陰性、嫌気性、非運動性、ムチン分解菌で、Verrucomicrobia属に属し、健康な腸内細菌叢の3-5%を構成しています[3]。
多くの研究により、肥満、II型糖尿病、炎症性腸疾患などの様々な疾患は、A. muciniphilaの減少との関連があることが示されています[4-8]。この細菌は腸管上皮細胞と密接な関係にあるため、宿主の代謝および炎症経路を制御することにより、宿主-微生物叢の相互作用において重要な役割を担っています[5, 9]。さらに、いくつかの研究では、A. muciniphilaの腸管バリアー統合性の向上と抗炎症作用が実証されている[10-12]。また、動物およびヒトの研究は、A. muciniphilaの摂取がいくつかの疾患を改善する可能性があることを示しています[9, 13, 14]。これらの文献はすべて、健康状態におけるアッカーマンシアの重要性を明らかにしています。したがって、今回の計量書誌学的研究では、この分野の文献に関する研究の最近の進歩を特徴づけることが前提となっています。そこで、論文の種類、年次分布、引用、国、機関、著者、資金提供者、雑誌、共著、国間協力、用語、著者キーワードの共起に基づいて、すべてのAkkermansia文献をシステム的に分析し、目的を達成することにしている。
マイクロビオータとMSの関係総説
胃や腸などの消化管の粘膜表面はムチンという粘性物質に覆われ保護されています。アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)は、2004 年にオランダのムリエル・デリエンによって発見され、アッカーマンシア・ムシニフィラは、特に、肥満及び 2 型糖尿病に有効である可能性が注目されています。アントーン・アッカーマンスにちなんで命名されたアッカーマンシア・ムシニフィラは通常はヒトの消化管に 1-5%存在し、生後まもない乳児の糞便中に検出されます。その後、6か月齢では約7割の乳児が保菌するようになり、1歳では保菌率が成人と同レベルの9割に達する。アッカーマンシア・ムシニフィラは肥満で低下していた、アッカーマンシア・ムシニフィラを肥満マウスに注入したところ、体脂肪量を半減できた。非吸収性の人工甘味料もアッカーマンシア・ムシニフィラを減少させるということが知られている。アッカーマンシア・ムシニフィラを増加させる薬剤がメトホルミンで、メトホルミンは血中から便中にブドウ糖を出す作用があり、これを餌にアッカーマンシア・ムシニフィラが増殖し血糖降下作用の一部に貢献していると考えられています(内藤 裕二:腸内細菌叢と環境要因. 日本医師会雑誌 2020 ; 149 ; 1537 – 1541 .)。
体重、肥満度指数(Body Mass Index:BMI)、血中コレステロール値、空腹時血糖値が高いヒトでは、正常なヒトに比べて、腸内のアッカーマンシア・ムシニフィラが少ないとされています。また、過体重や肥満のヒトがカロリー制限の食事療法に取り組んだとき、腸内のアッカーマンシア・ムシニフィラが多いヒトほどインスリン抵抗性の改善効果が顕著にあらわれるとの報告もあり、肥満や糖尿病との関連性が指摘されています。
Muriel D. et. al. Int J Syst and Evol Microbiol. 54:1469-1476. (2004).
Collado MC. et. al. Appl Environ Microbiol. 73:7767-7770. (2007).
Dao MC. et. al. Gut. 65:426-436 (2016).
アッカーマンシア・ムシニフィラは、食事療法の有効性の診断指標やインスリン抵抗性の改善療法に応用できるのではないかと期待されています。