『もともとは六本あったんです 、と男が言った 。黒いパンツの腰から 、指先が滑り込んでくる 。男の手は布と布の隙間を確かめるように 、腹のほうへと移動した 。右手が両脚の付け根へと下がり 、その勢いでボタンが飛んだ 。華奢なファスナーがわけなく。。』
『一歩外に出ると 、九月の高い空が広がっていた 。雑居ビルのかたちに切り取られた 、目に痛いほどの青だ 。つま先のその先に 、自分の足もとから伸びるひょろ長い影を見た 。影を踏んで 、一歩ずつ歩き出す 。歩いても歩いても 、越せない 。』
オール讀物 2013年 影のない街 桜木紫乃 「オール讀物10月号」(文藝春秋社)に掲載された、
桜木紫乃氏の直木賞受賞後の第一作
羽生輝画 雪止んで より

釧路の青空は色紙を切り取ったように平板だった。それが眼に浮かぶエロ小説だが、丁寧に書かれている。名前のよく変わる同級がいた。男転がしで太った女がより大きな金に飲み込まれる。地方都市の必然性 結局 男と女と金。昔、大老格にまでのし上がった柳沢吉保が言ったという「泰平の世の中で、出世をするのは、金と女を使うに限る」。

『一歩外に出ると 、九月の高い空が広がっていた 。雑居ビルのかたちに切り取られた 、目に痛いほどの青だ 。つま先のその先に 、自分の足もとから伸びるひょろ長い影を見た 。影を踏んで 、一歩ずつ歩き出す 。歩いても歩いても 、越せない 。』
オール讀物 2013年 影のない街 桜木紫乃 「オール讀物10月号」(文藝春秋社)に掲載された、
桜木紫乃氏の直木賞受賞後の第一作
羽生輝画 雪止んで より

釧路の青空は色紙を切り取ったように平板だった。それが眼に浮かぶエロ小説だが、丁寧に書かれている。名前のよく変わる同級がいた。男転がしで太った女がより大きな金に飲み込まれる。地方都市の必然性 結局 男と女と金。昔、大老格にまでのし上がった柳沢吉保が言ったという「泰平の世の中で、出世をするのは、金と女を使うに限る」。
