チョ・ナムジュさん著の「82年生まれ、キム・ジヨン」を読みました。物語は2015年から始まる。ヒロインのキム・ジヨン氏は33歳。3年前に結婚し、昨年女の子を産んだ。ソウル市内の大規模団地の24坪のマンションにチョンセ(韓国独特の賃貸方式)で暮らしている。夫のチョン・デヒョン氏はIT関連の中堅企業に務め、帰りは毎晩12時頃。土日もどちらかは出勤する。キム・ジヨン氏は小さな広告代理店で働いていたが、自分の実家は食堂経営で忙しく、夫の実家も釜山で親からの支援は受けられないので、出産を機に退職し、1人で育児をしていた。ところが、白露のある朝、キム・ジヨン氏は突然、実家の母親そっくりの表情や言葉使いで、話し始めた。何日か後には、自分は去年亡くなったサークルの先輩だったチャ・スンヨンだと言った。また。秋夕(日本のお盆にあたるような重要な祭礼の日)で、夫の実家に一家で帰り、義母と一緒に家族のために大量の伝統料理を作った後、夫の妹が実家の母に「もうこういう大量の料理を作るのはやめたら?ジヨン氏も大変でしょ。」と言った一言をきっかけに事件が起きる。キム・ジヨン氏はまるで、自分の母親が憑依したかのように、はっきりと自分の考えを述べたのだった。夫のチョン・デヒョン氏は慌てて、荷物をとりまとめ、娘とキム・ジヨン氏を乗せて自宅に帰った。その後、キム・ジヨン氏の様子がおかしいので、産後うつではないかとカウンセリングにかかることになる。そうして、子供時代からのキム・ジョン氏の成育歴が語られていくのだったが、韓国の家庭での男女の待遇の大きな違い。学校教育の現場でも女子と男子児童の扱いの違い、就職にあたっての女子差別。また就職後も賃金や昇進に関しての女性の不利な状況など、次々に生き辛い女性たちの実態が明らかにされていく。本書は韓国で社会現象になったという。日本でも複数の大学で医学部入試合格者への女性差別や浪人生への差別が発覚し、就職差別、昇進差別など、状況は大差ないのではないだろうか。そういえば、かなり前になるが、学校現場で使っていた生徒の名票が途中から男女混合に変わったことを思い出した。それまでは、名簿順は、日本も韓国と同じく男子が先で、女子が後だった。かなり前だが、「冬のソナタ」にはまっていた私が夫とロケ地巡りの韓国旅行をしたときにソウルで韓国人男性に親切に道案内されたこと(彼は大阪で働いていて里帰り中だとのこと、日本語が上手だった)、焼肉店で、明るい元気なおばちゃんたちと、ささやかな交流をしたことを思い出した。空港で声高に韓国語で話していた元気なおばちゃんたちのことも思い出した。彼女らは、困難な状況をかいくぐってキム・ジヨン氏の母のように逞しくなったのか。日本以上に出生率が低いという韓国の一端を知ることができる本だと思う。
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