私の家の金庫には、私だけの宝物が入っている。十歳から離れて暮らしていた長男が、十八歳の時にくれた手紙などなど。最近、また新しい手紙が増えた。静岡県でのある忘年会でのこと。品の良い初老の男性と話をしていたら、息子のお嫁さんが幼い二人の子供を置いて、家を出て行ってしまったという。彼は孫の幸せのために、その母親の生活を支えてもいいから、母子で暮らしてほしいと言う。 私は、十年も暮らした家庭を、このお嫁さんのように出てきてしまった経験がある。温かく接してくれた両親に、悲しみや苦しみを与えてしまった。だから、この男性のお嫁さんに伝えたかった。”私お役に立てるかもしれません。”と言って名刺交換をした。数ヵ月後泊らせて頂いた。孫である女の子二人と、たくさん遊んだ。雪だるまもつくった。このお嫁さんは義父母を信頼しきっているのか、母性のない人なのか、自分で育てるつもりは全然ないようだ。本人に私は会えなかった。72歳で幼い孫達のお母さん代わりをしようと一生懸命育て、90歳を越えた自分の母のお世話をしているこの女性から美しい字で手紙が届いた。何歳になっても何があっても、謙虚に懸命に生きているこの女性の手紙は私の宝物だ。
坂口せつ子
2003年平成15年8月28日木曜日
高崎市民新聞より転載
坂口せつ子
2003年平成15年8月28日木曜日
高崎市民新聞より転載