日本語環境においての文字入力作法は、たとえば「・」(中点)だったり「~」(波ダッシュ)だったり、他国のとひと味違います。
日本語独特の表記・組版の事情にもよるのですがキーボードというのはグローバルなものですから多少の文字の融通はあっても
根源的に、その国の表記事情にジャストフィットで軽便をこなせる配置・配列というのはなかなか望むべくもありません。
しかしガラパゴスとはいってもその国にはその国ならではのビブリオ事情というものがあるのですから
頻出の文字・記号に関しては常にモードレス単打でタイプできるように魔改造できる余地というのも残されていなければなりません。
人間の想像力が、現実の科学技術の制約に後れをとっては情けない話です。
想像の力は型にはめられてしまうことなく、つねに現実に先行していなければなりません。
夏休みの自由研究でもいいですし、大人の自由研究でもいいですがこうしてゼロベースから理想の文字入力環境をデザインする、考察していくことは
単にガジェットのロマンに留まるものではなく、実際の研究の最前線で示唆のある知見をもたらしてくれる、そういった実用性ももちろん厳としたリアリティを持ちうる、と勝手に思い込んでおります。
最近文字入力界隈もじわじわ盛り上がっていることですし、そろそろアプリケーションも巻き込んでかな漢字変換のプロセスとも密接に連携する入力環境の概算も視野に入れてくればいいな、そろそろ潮時かな、なんてこれは至って本気で感じている潮流なのです。
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ちょっとクセ強めかとは思いますが、私なりのシフト押下時のテンキー拡張案をここに書き記していきたいと思います。
まずは曜日、これは頻出ですから即アクセスしたい文字であります。
- - -
- - -
金 土 日 -
火 水 木 -
月 - - -
テンキー下半分に七曜を配置してあります。
真正直にべたかな文字列から曜日を変換しようとすると同音異義語で埋もれてしまいなかなか狙った曜日を変換できないことが多いです。
特に火・土は出すのに苦労しますね。
これはシフト打鍵ではありますが確実に曜日に絞った文字列だけをタイプすることができます。
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次に暦日付・時刻に関する表記の6項です。
年 月 日
時 分 秒 送信
- - -
- - -
- - -
yymmdd hhmmssを規定する文字列を上半分に配置しました。
こちらは同音異義語で気になるのは時くらいでしょうか、しかしあえてテンキーアクセスで利便を確保してあります。
ここで皆さんはお気づきであると思いますが、先ほど曜日で使った文字「月」「日」がダブっているのではないかとの疑問が浮かぶはずです。
しかし私は単に表記だけを見てテンキーシフトを設定しているのではありません。
日常頻出で使われ、しかも長文ではなく検索ワードや項目諸元などで断片的に出てくることを前提とするなら
これらの語は逐次翻訳の面から言っても、テキスト音声読み上げの面から言っても明確に弁別できる特徴因子をもってしかるべきです。
なんならこれは、文字コードを重複を承知で別扱いのものとし、こうしてトラブルになる前にセマンティックな下ごしらえを入力の段からデータ弁別してやれば
そこへ到達してみればこそ初めて見える地平というのが見えてくるはずです。
同じ「日」でもdaysとsundayが区別できたほうがより解像度が増しますし
同じ「月」でもナンガツの「ガツ」なのかゲツヨウビの「ゲツ」なのか、これは読み以外にもcalendar monthなのかday of weekなのか文脈ごと前駆できる識別子が必要です。
漢字はなまじ便利であるがゆえに、こういった具備の特性を曖昧にさせてしまう悪癖があります。
その欠点を補うために、人間-機械の相互作用の中で、人間の側が一歩機械に歩み寄って前駆的にデータ成形したタイピングを布陣することが、ペンタクラスタキーボードの用意した解答なのであります。
時刻・曜日というのは記録(ログ)の骨子を構成する基本情報でもありますし、タイムスタンプという繰り返しのデータ円環たる再帰性をもちます。
そして人間の日々のいとなみの中でのルーティン性と密接に連動しています。
単に絵文字の種類が増えた!といってぬか喜びするのではなく、こういった本質的なところの土壌整備というものが目立たないところですが真に重要な課題なのであります。
そこのところを曖昧にして不如意を甘受し続けていると、我々が欲するデータの再利用、分析、抽出などの新たな価値創造のプロセスに重大な綻びを生ずるもとになります。
ペンタクラスタキーボードではそこに楔を打つように、「のちに続くものたち」への配慮としてこうした見通しのとれた入力作法を提案するものであります。
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日時時刻のグループと曜日のグループが収まりよく決着したところで
ここで再びテンキー配置図を見てみましょう。
- - -
- - - 送信
- - - 氏
- - - さん
- ヶ 期 ²
数字の0の隣付近には、月間スパンで用いられる〇ヶ月の「ヶ」(小書きのケ)が共起すると便利なことからこれを採用しています。
その右には単音のキで同音漢字に埋もれやすい「期」の字を、これも数字と共起しやすいのでこちらも抜擢しました。
数字以外にも「明治期」「上期」「秋期」「イヤイヤ期」などの表記にも柔軟に対応できるのではないでしょうか。
続きましては一番右下の「²」(2乗記号)です。
最低限簡単な数学表記の筆頭として、2乗記号はくらいはダイレクトに即タイプできる環境というのが理想です。
累乗記号の手続きとしては従来の(^)ハット・キャレット記号というのもありますがこれだと編集手続き的・迂遠的に過ぎますので
即タイプに載せるために専用のキーをしつらえました。
3乗やn-1乗など数学的なバリエーションについていくためには汎用的な(^)記法のほうにも理があるというものですが
これは当座の表記の手軽さを実現させるためにまずは2乗の記号を設置してみて便利使いしてみようというものです。
あまり考えてはいないのですが4乗、5乗などは連続打鍵で乗数を上乗せしてタイプできるようにしてやればお手軽に表記できますし
X乗とかiπ乗とかの表記上の難題はここはひとまず置いておいて、まあ粒度シフトなどの機能キーと連動させてなんとでもなりますのでこれは後の楽しみのためにとっておきます。
次にその上にある「さん」と「氏」についてです。
これは以前から課題であった人の呼称接尾辞の最たるものであります。
これは単に誤変換を招きやすいという音韻的な特徴にとどめておくだけの認識では詰めが甘く、人称であるがゆえに特段に間違いが許されないという重要度の高い懸案であります。
私などもこれには難儀して別口入力キーに「さん」を加えてみればどうか、と本気で検討に至った経緯がありますのでこれは特に外せない問題です。
幸いにして今回のテンキー拡張の検討にあたって地滑り的に活躍場所を得ることができてこうして末席に連なることとなりましたが、これは意外な救世主となるかもしれません。
中国や韓国の方のお名前、たとえば趙さんとかイさんとかであるような人名を適切に表記することにきっと役立つかと思います。
ちなみに、ちょっと偶然かもしれませんが右下から上へ二段目三段目と並ぶ重ねの配列に
(²、さん、氏)
に、さん、し、と並んでいるのは語呂もいいかなと思って偶然なのか狙ったのかそれすらも判然としない"巡り合わせの妙"であります。
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ペンタクラスタキーボードは
盤面左のショートカットキー群のゾーンから盤面右下のテンキーゾーン、
奥はタッチ液晶部から手前は:ん・っ・スペース・長音(ー)まで
どのエリアにも一切無駄というものがなく縦横無尽にアクション・そしてオペレーションしていきます。
はっきり言って手の移動量は他のキーボードと比べて比較にならないほど大きいです。
しかしそのアクションの一つ一つは明快に定義された機能意図と即座に結び付いています。
そのユーザーエクスペリエンスは大いなる身体性を伴う、「随意」の羅針盤となることでしょう。
広い航海には地図も欠かせませんので今一度ここにキーボード配置図を再掲しておきます。
3回にわたってお送りしたテンキー周りの深掘り解説でしたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。