なにかが変わっていく時決まって水の夢を見る石畳の上を流れていく水魚の群れが泳いでいく水それはいつも美しい流れ木の葉のように私の想いが静かに回るすべてのことが何かの前ぶれすべてのことが新しいどこかへの道しるべなにかが変わっていく時決まって水の夢を見る何度でも何度でも私は水の夢を見る . . . 本文を読む
シカの足跡をたどって行ったら
知らない森についた
今は冬のはずなのに
木の葉も草の葉も深いみどり
けれどこの手で触れると
それは氷のように冷たくて
握りしめるとかすかな音を立て
粉々に砕けて落ちた
見上げた空には低く
青い大きな満月
月のひかりも凍てつき
差し出すこの手にこぼれる
何頭ものシカが取り囲み
身動きもせず私を見ている
目の前を通り過ぎる一頭のシカ
いつかキウイの棚の下で出 . . . 本文を読む
もうすぐ春がくるから
新しい洋服を買った
少しおとなしい感じだけれど
私らしい色と形
袖を通してみたら
からだが軽くなったみたい
まるで飛べそうな気がして
思いきり両手をひろげる
ふわりと浮き上がり
私は空の中の小鳥
しあわせに満たされた体
しあわせに満たされた心
もう洋服は脱げないのにね
もう戻れないのにね
. . . 本文を読む
飛び立とうとしているんだ
だから気にしないで
僕の目の前には
まっさらな未来しかなくて
振り返って遠い時間を
懐かしんでいたくないんだ
時と光の流れに乗って
僕はただ飛び続ける
胸を張り高く声をあげ言うよ
生きていることは楽しい
飛び立とうとしているんだ
僕のことは気にしないで
君は君のままでいいよ
そのままでいいんだ
. . . 本文を読む
窓から見える景色の中に
私が立っている
霙が降っているから
鳥を撮りに行けないと
呟いていたはずなのに
私が立っている
前に一度だけ
中庭で見たエナガの群れ
枝先にびっしりと並び
ふわふわと動く小さな毛糸玉
窓から見える景色の中の
私を追いかける
霙はもう上がったので
鳥を撮りに行けるから
声に出してそう言って
私を追いかける
枝先のエナガ
草むらのトラツグミ
舞い踊るセグロセキ . . . 本文を読む
水面に映る枝先に
一羽の鳥がとまっている
私は少し離れた木の陰から
その鳥を見つめている
川向うの藪の中から
見知らぬ男が姿を現す
男はレンズの中の鳥だけを見る
だから永遠に鳥は見えない
男はレンズの中の鳥だけを撮る
だから永遠に鳥は撮れない
水面に映る枝先から
一羽の鳥が飛び立つ
男はレンズの中の鳥を追う
踏みにじられた小枝が音を立てる
ここはサンクチュアリ
彼は掟を知らない
男 . . . 本文を読む
電柱のてっぺんに立って
思いきり背伸びしてみる
空がほんの少しだけ
近くなって
君との距離がほんの少しだけ
遠くなる
ずっと何かを
追いかけていたいけれど
きっと誰にも
追いかけられたくないんだ
電柱のてっぺんに立って
思いきり背伸びしてみる
飛べないわけじゃないけど
今はまだ
飛びたくないだけ
. . . 本文を読む
部屋の隅っこで
体育座りだなんて
慣れないことしてみて
ずっと待っている
部屋の真ん中あたりは
時間の流れが速くて
うっかり足を踏み入れたら
どこかに流される
たぶん
ピッと鳴いて
カワガラスが1羽
私の目の前を飛んでいく
怖がりもせずに
ピッと鳴いて
またカワガラスが1羽
時間の流れに乗る
光に向かって
きっと
部屋の隅っこで
体育座りだなんて
慣れないことしてみても
何も変わらない . . . 本文を読む
夕暮れの街には
時々
大きな透き通った鳥が
飛んでいる
けれど
横断歩道で
もう三度も青信号を見送り
鳥を眺めている私のことなど
気にかける人は
誰もいない
みんな
どこかに急いでいるから
みんなには
行くところがあって
もちろん
私にも
行くところがあって
けれど
あちこち寄り道しながら
結局は
ただ一つの建物の中に
吸い込まれていく
また一羽
大きな鳥がやって来る
広げた翼の向こ . . . 本文を読む