魔法使いに遭遇したので「記念になんか1つ願い事叶えて」と言ってみたらOKが出た。「じゃあ魔法使いにして」と言うとあなた1人を優遇するような願い事はダメと言う。「じゃあ世界中の人をみんな魔法使いにして」と頼んだ。3日前に願い事は叶っているのだがまだ誰もそのことに気づいてない。
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包丁を持つ手がぶるぶる震えている。「もうあなたを殺して私も死ぬしかない」見たこともない女だ。「落ちつけ」と説得を試みる。ホテルのロビーに人が集まってくる。フロントの男性が電話をかけている。女が包丁をこちらに向ける。血が床に滴り落ちる。「とにかく落ちつけ。刃の方持ってる」
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並行世界というものがあるらしい。文庫本を閉じてバスを降りた。アパートの部屋に明かりがついている。「お帰りなさい」と女が声をかけてきた。テーブルには俺が座ってビールを飲んでいる。奥の座敷では俺と俺が肩を並べてゲームをやっている。一人暮らしのはずなのになんかまた増えている。
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風呂に浸かってうとうとしていたら突然ガクンと身体が沈み込んだ。目を開くと周囲がすべて透き通った水だ。焦ってジタバタしながら見上げると底の抜けた白いバスタブを通して光が揺れている。とりあえずあそこに戻らないと。下の方から幾つも白い泡が浮かんでくる。巨大な魚の影が見える。
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一人暮らしの部屋に帰ってみると若い男がテーブルでカップラーメンを食べている。お前は誰なんだと聞いても無視を決め込む。大家に電話したが誰も出ない。男が箸を置きポケットからスマホを取り出す。「もしもし。さっき引越し終わった。事故物件? いやいや平気。俺、霊感とか全然ないし」
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廃墟好きな友人と一緒に最近見つけた廃屋を見に行った。さほど街から離れた場所でもない。崩れかけた建物が蔓草に飲み込まれそうになっている。中に入ると玄関の土間に黄色く変色した紙が落ちていた。クレヨンで描かれた子どもの絵。妙な既視感。裏返すと拙い文字で私の名前が書かれていた。
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野原に立ちぼんやりと風を見ている。波打つ草の葉。日が沈み月が昇る。リアルだ。巨大なドームの内側に映し出される幻。私は扉を開けて外に出る。順番待ちの親子が軽く会釈をし中に入り扉を閉めた。またチケットを買っておこう。顔を上げる。鼠色の厚い雲。太陽も月も星ももう何も見えない。
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熱帯夜が続いている。エアコンのタイマーが切れるたびに目が覚める。起き上がり真夜中の庭に出てみる。生垣の向こうに大きな木が生えている。それも何本も。家の前は道路のはずだ。庭の木戸から外に出る。道路が見当たらない。見渡す限りの深い森。振り返る。風の音。私の家がどこにもない。
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縫い針を落とした。針の穴に糸を通しハサミで切って玉結びを作っている時だった。しゃがみ込んで椅子の下を探す。針はすぐに見つかった。床に突き刺さっていたのだ。『なぜ?』と思いながら針をつまむ。引き抜こうとしたが針はすーっと床を突き通していく。白い玉結びだけが床に残っている。
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虹が出ている。雨上がりの街並みの上。虹を見るなんて久しぶりだ。私はスマホのカメラを向ける。もう少しくっきりしているといいのに。目を上げるとさっきより虹が濃くなった気がする。見る間にそれは現象から物質へと変化していく。街を見下ろす巨大建造物。悲鳴が上がる。虹が崩れ落ちる。
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