久しぶりに街に出た。知り合いから個展の案内が届いたのだ。このところずっと軽い引きこもりの状態だったので、人ごみの中にいると妙にオドオドしてしまう。駅前にはいつの間にかバベルの塔のような高層ビルが建っている。下からずっと見上げていくとそのまま後に倒れてしまいそうだ。と、白い何かが目にとまった。ビルのちょうど真ん中あたり。人だ。高い窓に腰かけている。両足を窓の外に投げ出して、白いワンピースのような洋服が吹き上げる風にあおられている。
「あぶないっ」
そう言ったつもりなのだが、喉から出たのは猫の鳴き声みたいな妙なかすれた音だけで、それでも私は行き過ぎる人の腕を次から次へとつかまえては目の前のビルを指さした。何人かは私の手を振り払い、何人かはチラッと目を上げて、でも特に驚きもせずまた足早に歩いていく。
オロオロしている私のそばに小学生くらいの男の子が近づいてくる。小さな顔に大きな黒ぶちの眼鏡。ちょっと眼鏡に手をやった。
「巣立ちだよ」
それだけ言うと、男の子はまた人ごみの中に駆けていく。
もう1度目を上げた時、白い人はふわりと窓から飛び降りた。髪が風になびいている。両手を大きく広げている。ゆっくりと落ちてくる。もっとゆっくりと落ちてくる。もっともっとゆっくりと落ちてくる。そして、ついっと舞い上がった。
人ごみの中、立ち止まっているのは私1人。高層ビルの向こうの青い空。白い人の姿は、もうあんなに小さい。
「あぶないっ」
そう言ったつもりなのだが、喉から出たのは猫の鳴き声みたいな妙なかすれた音だけで、それでも私は行き過ぎる人の腕を次から次へとつかまえては目の前のビルを指さした。何人かは私の手を振り払い、何人かはチラッと目を上げて、でも特に驚きもせずまた足早に歩いていく。
オロオロしている私のそばに小学生くらいの男の子が近づいてくる。小さな顔に大きな黒ぶちの眼鏡。ちょっと眼鏡に手をやった。
「巣立ちだよ」
それだけ言うと、男の子はまた人ごみの中に駆けていく。
もう1度目を上げた時、白い人はふわりと窓から飛び降りた。髪が風になびいている。両手を大きく広げている。ゆっくりと落ちてくる。もっとゆっくりと落ちてくる。もっともっとゆっくりと落ちてくる。そして、ついっと舞い上がった。
人ごみの中、立ち止まっているのは私1人。高層ビルの向こうの青い空。白い人の姿は、もうあんなに小さい。
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