風の生まれる場所

海藍のような言ノ葉の世界

空や雲や海や星や月や風との語らいを
言葉へ置き換えていけたら・・・

記憶

2011年12月30日 00時55分32秒 | エッセイ、随筆、小説




エステと読書はお嫌いだったね。
それはつまり、彼女との思い出、その話をあなたがするたび、実のところついいましがた、
昨日の出来事ではないのかと錯覚した。
かと思うと、私は手を合わせ、祈らずにはいられない衝動に駆られた。
願いごとがあるわけではないのに。

そこには特別深い意味があるわけではないのに、すこしだけ胸が締め付けられる思いがする。
それなのに、心がほころぶわずかな音に耳を傾けてみたりして、
恋の、特有のあのほろ苦い感じではなくて、
無理やり人生の表舞台からあなたは引きずり落とされてしまったというのに、
カリフォルニアでみた太陽を思い出させてくれる。
陽に灼けた褐色の肌、爽やかな匂いが風に運ばれて、
細身の身体からは想像出来ないくらい底抜けのしぶとさを時々目に映してきた。
PIAに沈みゆく西陽に心を奪われていると、俺ならそう思うと言って、
事故にあってから、歯ぎしりがはじまったという話を皮切りに、
自分の彼氏が重度の障害者で、ろくな収入も無く、毎日神経痛に悩む。
それで幸せなの?
俺は彼女が信用できないでいて、別れを選んだ。
不自由な自分に腹が立つと言うけど、あの日は事故前で、
私たちはまだ出会ってはいなかったの。


あなたは強い人、明るい人、優しい人、面白い人。
それなのに、怪訝な表情を浮かべる一瞬だけは、凪の時刻のような物さみしさを纏い、
遠景からの構図に恐る恐る身体を沈めていくと、脳の秘密にたどり着く。

わたしとあなたの秘密。
わたしとあなただけにしかわからない未知の領域。
幸せではなく面倒を生む、美しい彼女を失ったあのこと。
わたしはあの日、見えない枷に心身の自由を奪われたまま、
結局のところ、枷につながれた人生に狂わされてしまう。

わたしの事故より十年前に交わしたわたしたちの会話を、あなたはどのように証明するの?