25日、カザフスタン西部で墜落したアゼルバイジャン航空の旅客機=ロイター
【ウィーン=田中孝幸】
中央アジア・カザフスタン西部で25日、アゼルバイジャン航空の旅客機エンブラエル190が墜落し38人が死亡した事故で、ロシアの国内空港の利用を巡る懸念が広がっている。
ウクライナ軍のロシア領内への攻撃能力の向上で空港が事実上の戦時下に置かれ、誤射される可能性が高まっているためだ。
今回の事故は、事故機の損傷の状態からロシア軍の防空部隊のミサイルによる誤射との見方が強まっている。さらに不安が広がれば、ロシアと中国など新興国などを結ぶ空路にも悪影響を及ぼす可能性がある。
同機は26日、アゼルバイジャンの首都バクーから目的地のロシア南部チェチェン共和国のグロズヌイに向かっていた。ただグロズヌイ周辺で大きく予定航路を外れ、カスピ海対岸のカザフスタンのアクタウ近郊で墜落した。
ロイター通信は26日、事故調査の予備調査結果を知るアゼルバイジャンの情報筋の話として、同機はロシアの防空システムに撃墜されたと報じた。
同機がロシア南部チェチェン共和国の首都グロズヌイへの接近中、電子戦システムによって通信がマヒ状態にあったことも伝えた。
SNSに出回った事故機の損傷の映像=ロイター
欧州のニュース専門放送局ユーロニュースも同日、アゼルバイジャン政府筋の話として、墜落はロシア軍の地対空ミサイルが原因だと報じた。
AP通信も同日、同機の破片の分析から、地対空ミサイルによる攻撃を受けた可能性が90〜99%あるとする航空専門家の分析を伝えた。
事故原因に関する公式のコメントはまだ出ていない。ロシアのペスコフ大統領報道官は26日、「調査結果が出るまで仮説を立てることは正しくない」と言明した。
ロイター通信によると墜落地のカザフスタンのマンギスタウ州の検察官は26日、同国の捜査当局はまだ結論を出していないと述べた。
事故原因の特定作業はロシアとアゼルバイジャン、カザフスタンの3カ国が進めているが、調査結果を出す時期や形式については明らかになっていない。
事故の最大の被害国であるアゼルバイジャンは曖昧な結論は受け入れがたい立場だ。調査結果を巡り、3カ国が水面下で協議している可能性がある。
調査結果の内容にかかわらず、ロシアの国内空港の利用リスクが各国の航空会社に意識されていくのは必至だ。
長期化するロシアのウクライナ侵略で、旅客機が出入りするロシアの民間空港も事実上の戦場になっていることが鮮明になったためだ。
ウクライナ軍はこの2年でドローン(無人機)による長距離攻撃の能力を一気に向上させ、各地の空軍基地や民間空港を脅かすようになった。
地元メディアによると、事故があった25日午前にもチェチェン共和国の首都グロズヌイの空港にウクライナによるとみられるドローン攻撃があった。
首都モスクワの空港もドローン攻撃の恐れから閉鎖される事態が頻発している。ロシアの航空監視当局は26日、モスクワの4つの空港とモスクワ南西160キロメートルにあるカルーガの空港が一時閉鎖されたと発表した。
ウクライナメディアによると、同国軍はすでに月間数百機の長距離ドローンを戦闘に投入し、ロシア国内の空港インフラや軍事施設の被害は拡大している。ウクライナ側は25年にさらに生産能力を大幅に引き上げる方針を示している。
今後、ロシア軍が国内の空港の防空体制を強化するにつれ、民間機も急な空港閉鎖や通信障害、ミサイルの誤射といった偶発的な事態に巻き込まれるリスクが高まるとみられる。
ウィーン駐在の主要7カ国(G7)の高官は「ロシアの戦争継続に関する内外の不安の高まりは、プーチン政権にとって軽視できない打撃になる」と語る。
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