インタビューに答える木原稔防衛相
木原稔防衛相は日本経済新聞のインタビューで、核を含む戦力で米国が同盟国を守る「拡大抑止」の強化を巡り日米の担当閣僚による協議を新設する考えを示した。
従来の事務レベルの協議を格上げし、核戦力を増強する中国や北朝鮮を念頭に日米協力のあり方を話し合う。2024年中にも初会合を開く。
木原氏は日米豪比4カ国の防衛相会談などのため米ハワイに出張するのを前に防衛戦略について語った。
閣僚級協議に関し「日米同盟の戦略や能力に関する相互理解を向上させ、抑止力を強化する方策で突っ込んだ意見交換をしたい」と述べた。
次回の日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)にあわせて別会合として開く方向で調整する。
日米政府間には10年から日本の外務、防衛両省、米国の国務省と国防総省の幹部による「日米拡大抑止協議」がある。
米国の関与など日米同盟の抑止力をどう維持・向上し、具体的な協力分野を広げていくか話し合ってきた。
この枠組みを維持しつつ、新たに閣僚同士が対話することで相互に責任を持って迅速に意思決定することにつなげる。日米が一体となって抑止力を高めている姿を内外に示す狙いもある。
木原氏は「日本の防衛力で米国の拡大抑止を強化する」と話した。核を持つ米国の東アジアへの関与と日本の通常戦力を組み合わせて地域の抑止力を高める。
弾道ミサイルの迎撃などと同様に抑止力の強化に向けて日米が補完し合う想定だ。相手のミサイル発射拠点などをたたく反撃能力の運用で協力を深める。
東西冷戦期から米国の「核の傘」に日本が入り、自衛隊は国内の防衛に専念する「盾」だという概念がある。防衛力を強化する日本の方針も踏まえて、新たな日米の協力策を探る。
木原氏は①防衛力整備②部隊運用③防衛装備の技術協力――の大きく3点で自衛隊と米軍が戦略を擦り合わせていくと説いた。
「これまで以上にスコープ(範囲)を広げて深掘りし、かつてなく強固な日米防衛協力をさらに前進させる」と発言した。
日米は4月の首脳会談で米軍と自衛隊の指揮統制の連携強化で合意しており、具体的な内容を詰める。
木原氏は自衛隊の指揮権は日本にあり、米軍の指揮下に入るわけではないと改めて説明した。「自衛隊による全ての活動は日本の主体的な判断のもとで行われ、自衛隊と米軍がそれぞれ独立した指揮系統に従って行動する」と言明した。
東アジアでは韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が北朝鮮を意識し、米国と拡大抑止を巡る実務者間協議の頻度を高めている。
23年4月の米韓首脳会談などで拡大抑止の強化を取り上げ、核戦力を含めた明確な関与を米国に求めてきた。
23年に米軍の爆撃機B52が韓国に初めて着陸し、核兵器搭載可能な戦略原子力潜水艦もおよそ40年ぶりに寄港した。日本と異なり、韓国が攻撃を受けた際に米軍が反撃できる能力を目に見える形で示す狙いがある。
木原氏はフィリピンについて「日本のシーレーンの要衝で戦略的に重要な位置にある」と指摘し、防衛交流を深める方針に言及した。両国の共同訓練をしやすくする「円滑化協定(RAA)」に関し「早期妥結に向けた交渉を重ねている」と回答した。
拡大抑止とは
米国の核兵器を含む戦力による抑止力を同盟国の防衛に適用することを指す。
他国の防衛に関与することにより自国から「拡大」した抑止となる。相手の攻撃を物理的に阻止し、耐えがたい打撃を与える能力があると示すことで思いとどまらせる。
拡大抑止のために使われる戦力は核だけではない。核兵器は事態を急激にエスカレーションさせる最終手段だ。
平時から通常戦力もあわせて運用し、抑止力を高めることが重要になる。
日本は相手のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」の保有を決めた。相手の攻撃を阻止するために日本が貢献できる役割が増える。
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日経記事2024.05.02より引用