マイクロソフトはAI機能を素早く端末で操作できる新しいパソコンを披露した(20日、米シアトル)
【シアトル=渡辺直樹】
米マイクロソフトは20日、生成AI(人工知能)の動作に最適化したパソコンを開発したと発表した。
データ処理が必要なAIを端末上で素早く動かす「エッジAI」で先駆ける。米アップルもiPadやiPhoneにAIソフトの搭載を進める。パソコンとモバイルに続く両社の情報端末の新たな決戦は、AIに舞台が移った。
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「ウィンドウズ95から約30年がたち、信じられないような新しいAIの時代の中で真の革新に近づいている」。
マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は20日に米シアトル近郊の本社で開いたイベント冒頭でこう切り出した。
ウィンドウズ95は世界で爆発的にヒットし、IT(情報技術)ブームの火付け役となった。新型パソコンはそれ以来となる革新的な製品と位置付けた。
マイクロソフトはパソコンにAI機能の搭載を進める
マイクロソフトが発表した「コパイロット+PC(プラスピーシー)」には、高速で動く独自のAI機能も備えた。
40カ国以上の言語を画面上でリアルタイム翻訳する「ライブキャプションズ」や、ネットや文書の閲覧履歴をAIで瞬時に探す「リコール」を使える。
手書きの絵からイラストを自動作成する「コ・クリエーター」というAI機能も使えるようにした。翻訳機能はインターネットがつながらなくても動く。
「ウィンテル」モデルから脱却
マイクロソフトでAI製品開発トップのムスタファ・スレイマン氏は「AI時代に合わせてパソコンを再発明する」とX(旧ツイッター)に投稿した。
iPhoneで携帯電話を再定義したと訴えたアップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏を意識した発言だ。
これまで対話型AI「Chat(チャット)GPT」の機能はクラウドを通じてデータをやりとりし、処理に数秒かかるのが課題だった。通信環境が悪いと利用もできない。
新製品はAIをパソコン内の高性能半導体を使って動かす「エッジAI」の技術を採用した。AIの機能を選別することで、通信しなくてもAI機能を扱えるようにした。
エッジAIの性能を左右するのは半導体だ。マイクロソフトは革新的な製品の投入に合わせ、歴史的なパートナー戦略も転換した。パソコン製品の象徴だった「ウィンテル」からの脱却だ。
マイクロソフトは中央演算処理装置(CPU)に米インテルではなく、スマートフォンに強い米クアルコムの「スナップドラゴンXシリーズ」を採用した。省エネ性能に強い英アームの設計を使ったAI用半導体となる。
半導体はCPUだけでなく、グラフィックを処理する画像処理半導体(GPU)に加え、ニューラル・プロセッシング・ユニット(NPU)と呼ばれる生成AIに特化した半導体も組み合わせた。
新しいAI機能を使う場合はNPUが主に処理を担う。消費電力が少なく、AIの処理速度に優れる。
分解したマイクロソフトの端末
マイクロソフトはアップルへの強烈な対抗意識をむき出しにした。発表会では新しいAIパソコンがアップルの自社製半導体「M3」を搭載したマックブックより58%性能が高いと強調した。
AI時代の盟主、アップルと争う
パソコン黎明(れいめい)期以来、ウィンドウズとマックは情報端末の盟主の座をめぐり競争を繰り広げてきた。
ビジネス向けのパソコンではウィンドウズ95でマイクロソフトが、インテルの半導体や業務ソフトを組み合わせて覇権を握った。
しかし1998年にウィンドウズのソフト抱き合わせの手法により米司法省などに独禁法違反で訴えられ、2000年代前半のモバイルインターネットの時代には出遅れた。
2007年にアップルがiPhoneを発売し、「アンドロイド」を開発した米グーグルとともにスマートフォン時代を先導した。
マイクロソフト反攻のきっかけとなったのが2019年の米オープンAIとの提携だ。生成AIの拡大をにらみマイクロソフトは1兆円超を投資して提携し、2022年11月のチャットGPT公開以降、同技術を「コパイロット」としてウィンドウズや業務ソフトに次々組み込んできた。
生成AIブームのけん引役となったマイクロソフトは時価総額で3兆ドルを突破し、アップルを抜いて世界首位となった。さらにハードとAIの融合も進め、生成AI戦略で出遅れるアップルを突き放そうとしている。
アップルも負けじと生成AI分野で挽回を図っている。
AI処理を高速化した自社半導体開発を進めている。最新の「M4」チップを開発し、5月にはiPadに組み込むと発表した。
6月には最新技術を発表するイベントを開き、生成AIとiPhoneの融合について発表するとみられている。
アップルのティム・クックCEOは、6月の開発者会議でAIの新戦略を披露する見通し=ロイター
米グーグルも5月の技術イベントで生成AI「Gemini(ジェミニ)」を高速化し、自社スマホで使いやすいように融合を進める。
アップルの元従業員が設立した新興企業の米ヒューメインは生成AIの動作に特化した胸元に取り付ける「Ai Pin」を開発した。
オープンAIのサム・アルトマンCEOも端末開発が報じられ、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長もAI半導体への参入の意欲を示している。
生成AIを中心にあらゆるネットサービスが変わるなか、各社は頭脳となる新たな半導体とハード設計そのものを見直し始めた。
これまでのスマホやタブレット、パソコンといったハードのあり方も大きく変わっていくことになる。
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