陽表面の爆発現象である太陽フレアの地球への影響が懸念されている。現代社会は電力網や通信、衛星測位などフレアの影響を受けやすいインフラへの依存を深めており、損害リスクは高まる傾向にある。
太陽活動は今秋頃からピーク期に入っている。波状的に訪れる影響に備えが重要だ。
太陽の磁力線のつなぎ換わりでフレアは発生し、影響は3段階で地球に押し寄せる。
第1波はエックス線やガンマ線などの電磁波。8分で地球に到達し、デリンジャー現象という突発的な通信障害や、大気を膨張させて低軌道衛星の高度低下を招く。
第2波は超高速で飛び出した陽子などの高エネルギー粒子。30分から2日で到来する。人工衛星を直撃して機器故障の原因になるほか、航空機の乗員乗客や宇宙飛行士の被曝(ひばく)リスクが高くなる。
フレアに伴って太陽から飛び出した巨大なプラズマ(電離ガス)の塊が数日かけて到達するのが第3波だ。磁気嵐と呼ばれる地球磁場の擾乱(じょうらん)が起きる。
出所:SISLO
約11年ごとに訪れる太陽活動の活発期は太陽表面に黒点が増え、付近で太陽フレアが頻繁に発生するようになる。
太陽活動は今秋頃からピーク期に入っており、2025年は大規模フレアが発生しやすい状態が本格化する。
24年は5月と10月に規模の大きいフレアが発生した。太陽活動を常時監視する情報通信研究機構によると、5月には「Xクラス」と呼ばれる大規模なフレアが3日間で7回発生という「1975年からの観測史上初めての現象」(同機構)が起きた。
89年にはフレアの影響でカナダ・ケベック州で大停電が発生した。磁気嵐は電離層を乱すことで全地球測位システム(GPS)の精度低下も招く。
太陽フレア発生状況など「宇宙天気」情報をもとに被害リスクを減らす工夫が求められる。
過去最大のフレアは?
記録に残る最大の太陽フレア被害は1859年の「キャリントン・イベント」。100年に1度クラスの巨大フレアだったと推定されている。当時太陽黒点を観測した英国の天文学者にちなみこの名前がついた。当時はモールス符号による電信や電報の時代。磁気嵐の影響で電信機器に過剰な電流が流れて損傷、電報用紙が自然発火したとの記録がある。
近年の被害は?
1989年3月、太陽フレアに伴う巨大な磁気嵐が原因で、カナダ・ケベック州周辺で9時間に及ぶ停電が発生し、600万人に影響が出た。同年9〜10月にはフレアに伴う高エネルギー粒子の影響で10基を超える静止通信衛星が障害を起こした。電信や電報の時代にはなかった大規模な電力や通信インフラ、人工衛星への被害リスクが指摘されている。
巨大フレアが発生したら?
キャリントン・イベントのような巨大フレアによる「最悪シナリオ」を国が2022年にまとめている。2週間にわたりスマートフォンやテレビが断続的に利用できなくなるほか、自動運転車の衝突事故の可能性などが指摘されている。はるかに大規模な「スーパーフレア」が奈良時代の770年代に発生したらしい痕跡が日本でも見つかり、研究が進んでいる。
(編集委員 吉川和輝、グラフィックス 渡辺健太郎)
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日経記事2024.12.22より引用