運転免許証を偽造しクレジットカードを不正取得したとされるグループを警視庁が摘発した。
高速道路で言いがかりをつけ相手の免許証を撮影、取得した情報をオンライン契約の本人確認に悪用した疑いがある。
金融機関やクレカ会社は偽造を見抜けなかった。免許証を第三者へ安易に見せるリスクの高さと、個人認証の隙が浮き彫りになった。
警視庁犯罪収益対策課は4日、30代の男女3人を詐欺などの疑いで逮捕したと発表した。
逮捕容疑は2023〜24年、トラック運転手の免許証情報を使って不正にクレカを取得。クレカでスマートフォン2台を購入しだまし取るなどした疑い。
捜査関係者によると、容疑者らは高級スポーツカーで高速道路を走り、狙いをつけたトラックを追尾。トラックがサービスエリアに寄った際、運転手に「飛び石で車体に傷がついた」と因縁をつけ、連絡先として免許証を示させスマホで撮影していた。
この免許証の画像が一連の犯罪の重要なツールとなったとされる。3人は免許証の顔写真を容疑者らのものに、住所を自分たちが借りたアパートにした偽造免許証を使って、銀行口座の開設やクレカの作成を繰り返していたとみられる。
同課は3人が偽造免許証を使って30枚超のクレカを作成し、購入した物品の売却などで約4千万円を得ていたとみて調べる。
犯罪収益移転防止法は銀行口座の開設やクレカ作成の際、事業者が本人確認をおこなうよう義務づけている。
契約手続きで近年広がっているのが「eKYC(electronic Know Your Customer)」とよばれるオンラインでの本人確認システムだ。
運転免許証といった顔写真付きカードの画像と、本人の写真を送信させて照合するのが一般的な手法。導入企業の増加を受け18年に同法施行規則が改正され、対面だけでなくオンラインでの本人確認も認められるようになった。
しかし今回のようにeKYCをすり抜ける事例は後を絶たない。
埼玉県警が1月に逮捕した女も、他人の免許証の顔写真を自身の写真とすり替える手口で本人確認を通過しクレカを契約。キャッシング機能で現金10万円を詐取したとみられる。
捜査幹部は「公的な身分証明書を安易に他人にさらすと、偽造されて犯罪ツールに悪用されるリスクが大きい」と指摘する。
一方、運転免許証の券面による本人確認の危うさも改めて浮上している。高度な画像編集ソフトが悪用される形で偽造の精度が上がり、免許証の偽造専門の犯罪グループも確認されている。オンライン上の画像から偽物と見抜くのは非常に難しい。
オンラインの本人確認を巡ってはICカードに内蔵された電子証明書を読み取る「公的個人認証」が04年に始まった。
当初は行政手続きが対象だったが、16年から民間サービスにも拡大。デジタル庁によると利用企業は8月2日時点で580社ある。
政府は6月の犯罪対策閣僚会議で、口座開設やスマホの契約に関する本人確認を巡り、他人のなりすましを防ぐため券面画像を送る方法を廃止する方針を示した。
原則としてマイナンバーカードのICチップの情報を読み取り認証する方向で検討している。
情報セキュリティーに詳しい立命館大の上原哲太郎教授は「ICチップによる認証が可能なマイナカードを民間のオンライン契約で活用すべきだ」と指摘する。
そのうえで「マイナカードによる本人確認が浸透すれば、カードそのものをだまし取る詐欺が増える可能性もある。
カードを安易に他人に渡さないといった警察による啓発も重要になる」と話している。
(前田健輔)
日経記事2024.09.04より引用