日鉄による買収に賛成するUSスチールの従業員
日本製鉄のUSスチール買収計画は、本格化した米大統領選に翻弄された。
かねて買収を阻止すると公言していた共和党大統領候補のトランプ前大統領に続き、民主党大統領候補のハリス副大統領が買収に反対姿勢を表明。
欧米メディアは買収計画への中止命令が出ると報じた。日米関係への影響を懸念する声も出ていたが、買収の可否は大統領選後に判断されることとなった。
「買収成立を確信し、審査のプロセスを信頼し、尊重する」。USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は17日、日本経済新聞社などの取材に応じ、こう述べた。
米政府の買収計画を巡る判断が大統領選後になる可能性について問われ答えた。
膠着状態だった日鉄の買収計画に大きな動きがあったのは今月2日、米大統領選が本格化するレーバーデー(労働者の日)だ。
ハリス氏が、USスチールの本社があるペンシルベニア州ピッツバーグで演説し「米国内で所有され、運営される企業であるべきだ」と述べた。ハリス氏がUSスチールの買収計画について発言するのは初めてだった。
ペンシルベニア州は大統領選の激戦区。かねて買収に反対する全米鉄鋼労働組合(USW)は同州で一定の影響力を持ち大統領選を控えて発言力を増していた。
ハリス氏は同州訪問のタイミングで反対を示唆し、USWの組織票獲得を狙ったとみられる。
そして4日、バイデン大統領が買収計画の中止を命じる方向で最終調整に入ったと、米ワシントン・ポストなどが報じた。
10日にはハリス氏とトランプ氏のテレビ討論会があり、その前に中止命令が出されるとの観測も出た。
中止命令報道について、日本の経済界などからは懸念の声が相次いだ。
米国と関係が深い日本企業で構成する日米経済協議会(会長・澤田純NTT会長)は5日、「日米両国は欠くことのできない同盟国で、互いに最大の対外投資国」としたうえで、買収計画を「政治的に利用しようとする試みには多大な懸念がある」との声明を発表した。
経団連の十倉雅和会長も9日の記者会見で、「米大統領選に左右されて(中止命令が)出てくるなら良くない」と述べた。
日鉄はハリス氏の発言や中止命令の報道と前後して、USスチールへの追加投資など米側への懸念を解消する施策を打ち出した。
11日には買収担当役員の森高弘副会長兼副社長がワシントンに渡って対米外国投資委員会(CFIUS)の高官と面談し、経済安保への懸念の払拭や再申請について話し合ったとみられる。
21日には岸田文雄首相が訪米する。買収阻止の大統領命令が出ていれば、首脳会談の議題になるなど日米関係のしこりになる可能性もあった。
米大統領選に絡む政治利用はひとまず避けられた。国内外のM&Aに詳しい森幹晴弁護士は「CFIUSは政治色が強い。
政治的な懸念が薄まる大統領選後に判断が持ち越されれば日鉄にとって有利になる可能性がある」と指摘する。
2023年12月18日、日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールを買収すると発表しました。買収額は約2兆円で実現すれば日米企業の大型再編となりますが、大統領選挙を控えた米国で政治問題となり、先行きが注目されています。最新ニュースと解説をまとめました。
続きを読む