年の瀬が迫り、まもなく2025年が到来しますが、今回は国内外の相場が来年どのような要素に影響されるのかということについて、年明け早々に発足する米国のトランプ次期政権の政策を中心に考察します。
ご存じの通り11月5日の米大統領選挙は共和党のトランプ前大統領の大勝利という結果になりました。年明け後の1月20日、2017年以来となる2回目のトランプ政権が発足します。
もっとも、選挙1ヵ月前の10月初旬頃から既にトランプ氏優勢の観測が流れ、同氏の当選が明らかとなった11月上旬頃まで米国市場では、トランプトレード(株高・金利高等)といわれる展開となっていました。
株高については、2025年末に期限切れとなるトランプ減税(所得税の最高税率引き下げや、相続税・贈与税の基礎控除拡大、法人減税等)の恒久化、および追加的法人減税等によって景気が刺激されるとの観測が強まったことなどが背景にあるとみています。
金利高、とりわけ長期金利の上昇の理由については、減税策が財政赤字拡大、国債増発を招くことや、トランプ氏が強く主張する関税引き上げ等によってインフレ再燃を懸念する見方があった模様です。
ただ、その後はトランプ次期大統領が主張する政策を巡る警戒感や不透明感等が高まっており、必ずしもそうした動きにはなっていません。
では、2025年はトランプ次期政権の政策面を主軸としてどのような展開を想定したらよいのでしょうか。
結論を先に申し上げると、トランプトレードとはやや異なり、米国市場では波乱含みでも大局的には株価は緩慢な上昇基調、長期金利は一時的な上昇はあるものの緩やかな低下傾向と考えています。
そして、この米国市場の状態は日本株には概してプラスであるとみています。その理由について、トランプ次期政権の主要政策を吟味しつつ申し上げます。
政策の影響度は意外と小さい
第一に、関税引上げについて、トランプ次期大統領は選挙前から中国製品に60%、中国以外の全ての輸入品に一律10%を課す方針を示しています。
また、選挙後の11月25日、薬物流入等阻止を理由に対カナダと対メキシコで25%、対中国で10%の引き上げを表明するなど、関税引上げに意欲的です。
ただ、特定国・特定品目については大統領令で実施可能ながら、対中国60%のような高率な場合については米中間の交渉により税率が大きく低減される、もしくは除外品目が多くなるなど、実際には額面通り実施される可能性はかなり低いとみています。
また、一律関税については議会承認が必要であり、必ずしも共和党議員すべてが支持するとは考えられず、実現性は低いと思われます。こうみると、関税引上げは意外に大規模化せず、それに伴う物価高や消費減退は限定的なものにとどまると推察しています。
第二に、トランプ減税の恒久化や追加的法人減税についてはともに議会承認が必要です。
前者は共和党綱領にあり成立する可能性がかなり高いでしょうが、既存の減税恒久化にとどまり新規の減税ではありません。一方、後者は共和党綱領に存在しないため財政規律を重視する共和党議員の不賛成によって容易に成立し得ないとみます。
仮に成立した場合でも法人のみが対象であり、かつ税率は現行の21%から15%へ低下するに過ぎず、前回のトランプ政権時の35%から21%への低下よりも相当小粒です。
このため、両者ともに成立した場合でも、一定の景気サポート要因にはなり得るものの、顕著なインフレ率上昇を伴うほどの強い景気押し上げ効果は出ないとみています。
第三に、移民対策について、トランプ次期政権が国境警備強化等によって阻止を意図しているのはあくまで不法移民であり、これに対する措置は大統領令で実行可能です。
しかし、不法移民の強制送還は議会承認が必要であり、また既に1000万人を超える不法移民が米国内に存在しているとみられ、大規模に実施するのは困難でしょう。
また、米議会予算局(CBO)の推計を基に考察すると、330万人(2023年)だった移民総数が、仮に不法移民ゼロが実現し4分の1程度に減少しても、2020年代半ばの米国の実質GDPへの影響は年率0.3%程度にとどまると推察され、移民規制強化による景気押し下げ効果は限定的と考えます。
このようにトランプ次期政権の主要政策について概観すると、市場が警戒するほど米国の景気やインフレ等にはそれほどインパクトはないと思われます。
かつ、ペースダウンしても米連邦準備理事会(FRB)が利下げを実施すると見込まれる状況下では、先述のように株価はおおむね底堅く、長期金利は起伏があっても緩やかな低下基調になるとみています。
それでも、特に関税引上げについては対米輸出等を通じた日本経済への影響が気になるところですが、近年の本邦の国際収支をみると2022年、対米国では第一次所得収支黒字が貿易収支黒字を追い抜き(2023年は若干前者が後者を下回るものの、2024年1〜6月期は再び上回る)、相対的に貿易面の影響が低下しつつあります。
原油価格低下は日本に好影響
さらに、第一次所得収支黒字の5割以上が直接投資収益(21〜23年の平均は55%程度)で占められるなど、日本企業はかつての日米貿易摩擦の教訓から米国での現地生産を増加させ、貿易面でのリスク低減を図ってきていると推察されます。
なお、トランプ次期政権はバイデン政権が規制していた米国内でのシェールオイル・ガス増産も公約しており、先行きエネルギー価格の低下が見込まれます。このことはコストダウン効果を通じて日本経済に好影響を与えましょう。
以上から日本株は、トランプ政権による関税引上げが発表された直後などでは一時的に波乱はあり得るものの、来年は基本的に堅調な展開になると考えます。
日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)の漸進的な下値切り上げはそれを暗示しているとみています。
1988年慶応大卒、ユニバーサル証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)入社。2000年にパートナーズ投信(現三菱UFJアセットマネジメント)転籍。16年12月より現職。
[日経ヴェリタス2024年12月29日号]
「プロの羅針盤」では、株式投資に大切な銘柄選びや、為替、債券を含めた相場の見方について解説。 企業価値の測り方やリスク回避などを、運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に向けてお伝えします。
日経記事2024.12.31より引用