半導体と光学部品を同一基板上に実装する「Co-Packaged Optics(コ・パッケージド・オプティクス、CPO)」の商用化が始まりつつある。
CPOは低消費電力かつ高速な通信を実現する技術として、主にAI(人工知能)データセンター向けに開発が進む。今後の普及に向けては標準化が課題になりそうだ。
パッケージ基板上で光電融合
CPOは、半導体と光による信号伝送を一体化する「光電融合」の1つの実装形態だ。具体的には、スイッチIC(集積回路)やロジック半導体と、電気と光を変換する光学エンジンを、同じパッケージ基板の上に実装する。
従来は光学エンジンはICとプリント配線基板(PCB)を介して接続していたが、CPOによってパッケージレベルまで近づく。ICと光学エンジンを低消費電力かつ高速に接続できる。
台湾積体電路製造(TSMC)の開発例では、これまでスイッチICとPCBに置かれた光学エンジンの距離は100mm以上だった。CPOでは、10分の1となる10mmまで短くできる。
この短縮により、スイッチICシステム全体の電力を約半分に抑えられるとする。
生成AIのニーズの高まりなどで、データセンターで扱うデータ量はかなり増えてきている。
「PCB上で電気配線を引き回すのでは、さらなる高速化は難しい。光学部品をさらに半導体チップに近づけるために研究開発が加速している」と東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻 教授の竹中充氏は述べる(図1)。
(出所:台湾ASE Holdingsの資料を基に日経クロステックが作成)
先陣を切るブロードコム
そこで、世界の通信大手や、半導体製造大手などによるCPOの発表が相次ぐ。「現状は、各社が独自に開発を進めている段階だ」と竹中氏は説明する(表)。
竹中氏が「業界でもCPO開発で先陣を切った」とするのが米Broadcom(ブロードコム)だ。
同社は2024年3月、イーサネットスイッチICと光学エンジンを同一基板に実装した製品「Bailly」を、複数の顧客に納入したと発表した。
同社によれば、BaillyはPCBを介してつながる現行の形態である「プラガブル」と比べて消費電力を7割削減できるという。
ファウンドリー大手各社もCPO開発に本腰を入れる。米GlobalFoundries(グローバルファウンドリーズ)や米Intel(インテル)、台湾積体電路製造(TSMC)からここ数年CPOに関する発表が相次ぐ。
対して、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は「(内部での)研究開発では進んでいる」(竹中氏)ものの、商用化では3社に後れを取っている。
グローバルファウンドリーズは2014年に米IBMの半導体事業から分離したが、そのときにシリコンフォトニクス技術を研究開発する人員も同社に移った。
IBM時代から光電融合に取り組むいわば“古参”である。CPOの市場投入では、カナダRANOVUSや米Ayar Labs、米Cisco Systems、米Lightmatter、米Marvell Technologyなどと協業して進める。
なお、商用化時期は現時点で公表していない。
Intelは2024年3月、光通信の国際学会「OFC(Optical Fiber Communications Conference and Exhibition) 2024」で、同社が「Optical Compute Interconnect(OCI)」と呼ぶ光電融合のチップレットをデモンストレーションした。
言葉は違うが、これはCPOである。CPUやGPU(画像処理半導体)などと光学エンジンを、同一パッケージ上で異種チップ集積する。消費電力は3p(ピコ=1兆分の1)J/bit以下と低く、遅延は約10n秒以下とした。
同開発品では光集積回路(PIC)と電気集積回路(EIC)を3次元実装する。
プロセッサーとの間は、接続方式の1つである「Direct Drive(ダイレクトドライブ)」か、チップレットを相互接続するための通信方式のオープン規格「Universal Chiplet Interconnect Express(UCIe)」を使う想定を示した(図2)。
図2 Intelの光電融合チップレットは、PICとEICを3次元実装する (出所:Intel)
Intelは、次世代技術として半導体と光学部品をインターポーザー(中間基板)上に集積する「光I/O」も研究開発する。
光I/Oはチップレット間の信号伝送を電気から光に置き換える技術である。同社はガラスのインターポーザーに低損失な光導波路を形成する計画を打ち出す。
TSMCはプラガブルの商用化時期を2025年、CPOを2026年に目指す。
CPOは同社の実装技術「CoWoS(コワース)」を使ってパッケージ基板上に統合する計画である。「プラガブルと比べて消費電力が半減し、遅延は1/10になる」(TSMC)という。データ通信容量はプラガブルの4倍となる6.4Tビット/秒(bps)を見込む(図3)。

サムスン電子はこれまで、CPOの商用化については言及してこなかった。
この状況が変わったのが、2024年6月に開催した自社イベント「Samsung Foundry Forum(SFF)」である。
同社はここで初めて、2027年にAI処理向けのシステムでCPOを導入する計画であると発表した。
国内ではNTTグループが、次世代ネットワーク構想「IOWN(アイオン)」の中核技術として光電融合を位置づける。
各社が開発するCPOに相当するのは、2028年の商用化を目指す光電融合の「第4世代品」である。同社によれば、外形寸法は10×5×3mmと小さく、消費電力は8pJ/bitと低い。
標準化はまだ不十分
CPOの今後の課題の1つが標準化だ。
光通信や光伝送の業界標準化を図る団体「Optical Internetworking Forum(OIF)」は2023年、データ伝送容量が3.2TbpsのCPOモジュールを業界で初めて定義した。ただ、「標準化はまだ十分でなく、開発企業の裾野が広がらないという声が業界内で聞こえている」(竹中氏)
プラガブルは光学部品が着脱可能で、規格が決まっている。
電子機器・部品メーカーなどが関連したチップや部品を開発しやすかった。対して、CPOは半導体パッケージ内で実装する。
現状はベンダーの独自技術で実装しており、チップレットの形状やピン配置、外部コネクターの種類などはさまざまだ。他社が入り込む余地はまだ少ない。
「インテルやブロードコムは自社向けにCPOを開発している。このような会社は、標準化はそれほど必要でないと考えているのだろう」(竹中氏)とする。
ただ、AIデータセンター向けでの市場はかなり大きい。CPOを巡る標準化の動向が注目される。