マスク氏がトランプ次期政権への影響力を高める中で「マスク離れ」の動きも出ている
【ニューヨーク=川上梓】
米電気自動車(EV)大手、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がトランプ次期政権への影響力を強める中、米国のテスラ利用者の一部でマスク氏に反対の意思表示をする動きが広がる。
政治的な発言などへの反発が背景にある。
「反マスク」ステッカー、選挙後に販売急増
「テスラのEVを本気で手放すことを考えている」。
カリフォルニア州ロサンゼルス在住のコンサルタント、シェリル・アーレンス・ヤングさんは2021年からテスラのEVに乗り続けてきたが、最近のマスク氏の行動や言動に嫌悪感を感じているという。
「マスク氏が多額のお金を持っていることを考えると、彼が今後何をやろうとしているのか怖くなった」(ヤングさん)。
マスク氏がトランプ氏へ多額の献金を行い、政治的な影響力を強める中で、テスラに乗ることを恥ずかしいと感じるようになった。
マスク氏に反対するステッカーの一例(アマゾンの通販サイトから)
売却に迷うヤングさんが購入したのが、EVに貼って「反マスク」の意思表示をするステッカーだ。マスク氏の名前にバツをつけたデザインなど10種類以上がアマゾンなどのインターネット通販で売られている。
「私はイーロンが狂う前にこの車を購入した」「アンチ・イーロン(・マスク)」など様々な表記やデザインが並ぶ。
ステッカーを企画して販売しているマシュー・ヒラーさんは「マスク氏がトランプ氏支持を表明した24年7月以降に販売が急増した」と話す。
24年11月5日の大統領選翌日には1日で通常の6倍の300枚を売り上げ、過去最高となった。「テスラを所有することを恥ずかしく思っているドライバーが大勢いることが分かった」(ヒラーさん)
利益誘導を懸念 マスク氏に否定的な見方も
テスラは米国のEV市場で5割近いシェアを持つ。気候変動対策に取り組む環境配慮型のイメージが支持され、先進的なブランドとして認識されてきた。
テスラの工場があり、全米でEV登録台数が最多のカリフォルニア州はテスラの利用者が多い。反マスク運動は民主党支持のテスラ利用者の間で特に広がっているようだ。
米テレビ局NBCの世論調査ではマスク氏に対して否定的な見方は21年に全米で21%だったが、同氏がトランプ氏支持を表明して以降、24年9月時点で45%に上昇した。
トランプ次期政権入りでマスク氏の運営会社に有利な政策が進めば利益誘導となる。実際、トランプ氏はテスラが成長を見込む自動運転に関する規制緩和を検討している。テスラに追い風でも、マスク氏のトランプ政権接近を嫌う利用者はいる。
1日には西部ラスベガスのトランプ氏一族が経営するホテル前でテスラの「サイバートラック」が爆発する事件が起きた。トランプ氏やマスク氏との関連性は明らかになっていないがテロと見られる。
5割は「購買変化なし」 根強いテスラファンも
一方、テスラには根強いファンが多く、マスク氏に抵抗があってもテスラに乗り続ける利用者が多いのも実態だ。
自動運転など先進性に期待する消費者も多い(テスラの自動運転タクシー試作車)=ロイター
世論調査機関のユーガブは24年10月に米国の有権者約5000人に調査を実施。
マスク氏がトランプ氏を支持したことでマスク氏の運営企業の製品購入に対する意識が変わったかを尋ねた。このうち約5割は「購買に変化はない」と回答した。
フロリダ州のテスラ利用者、カーソン・ギャロさんは「マスク氏を嫌ってもテスラを運転する理由は商品力だ。買う理由がある」と話す。
人工知能(AI)による運転支援などスマートフォンのような先進的な機能が魅力だといい、「他メーカーへの買い替えは考えていない」(ギャロさん)と主張する。
テスラは24年の暦年販売が初めて前年比でマイナスになった。米調査会社コックス・オートモーティブによると米国販売は前年比で6%減った。
一方で一連の販売減はEV普及の遅れや市場競争によるものが大きく、反マスク運動がさらに販売台数を押し下げるかどうかは不透明だ。
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