低迷していた支持率が好転したスターマー英首相=ロイター
【ロンドン=江渕智弘】
スターマー英首相の支持率が半年ぶりの水準に好転した。
トランプ米大統領から関税免除の示唆を引き出し、ウクライナを守る欧州の結束に指導力を発揮した。米欧や中国とも良好な関係をめざす全方位外交は綱渡りだ。
英ユーガブが4〜5日に実施した世論調査でスターマー氏に好意的な回答は31%と前回2月半ばから5ポイント上昇した。2024年9月以来の水準だ。
政党支持率は同氏の率いる労働党が26%に上がり、右派政党リフォームUKから1カ月ぶりに首位を奪還した。
スターマー氏は2月27日に米ホワイトハウスでトランプ氏と会談し、追加関税を避けるため貿易協定の協議に入る合意を取りつけた。
英王室にあこがれを抱くトランプ氏に2度目の国賓訪問を求めるチャールズ国王の親書を手渡すなど周到な戦略が目立った。
翌28日にウクライナのゼレンスキー大統領とトランプ氏の会談が決裂すると両氏に電話で仲裁を試みた。
1日に英首相官邸を訪れたゼレンスキー氏を抱擁で出迎え、2日の欧州主要国との首脳会議でウクライナの安全の保証へ有志国連合の結成を表明した。
トランプ氏との電話を繰り返し、米欧、ウクライナのかけ橋を担おうとしている。
スターマー氏は強硬左派の前任から20年に労働党党首を引き継いだ。欧州連合(EU)離脱や反ユダヤ主義を巡る党の分裂を修復し、中道左派に転換した調整力が生きているようだ。
最大野党・保守党の重鎮、クレバリー前内相は3日、「私は政府批判に喜びを感じることが多いが首相のやったことは正しい」と議会で珍しく賛辞を送った。
トランプ氏の肩を持ち続けるリフォームUKのファラージ党首は与野党の議員から非難を浴びた。
スターマー政権は24年7月の発足以来、試練の連続だった。
金銭スキャンダルや大規模な増税で、発足直後に40%を超えた同氏の支持率は20%台に急落した。リフォームUKの躍進を警戒していた政権にとって足元の支持率の持ち直しは願ってもないことだ。
外交の先行きには不安も多い。米国との貿易協定は交渉を始めたばかり。E
U離脱後に米国との自由貿易協定(FTA)締結をめざした際は、英国の厳格な食品安全基準が障害になった。今回も農産品の一段の市場開放などを求められる可能性がある。
英研究者の間では、英国が武器調達を巡り米国とEUの板挟みになるとの見方がある。
EUは防衛産業を発展させるため域内調達を増やす方針だ。英国も欧州の防衛力強化の観点で米国製より欧州製を優先的に調達すれば英米関係に響くという。
スターマー政権は保守党の前政権で冷え切った中国とも融和に動いている。中国に対して強硬姿勢をとるよう米国から圧力を受ければ難しい立場にたたされる。
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2月27日の米英首脳会談ではスターマー首相から国王の国賓招待の親書を受け取ったトランプ大統領は、招待に関わる文言を読んで欲しいと求め、応じた首相は2度目の訪問は前例がないと取り囲む記者団に語り掛け、トランプ大統領も満足した表情でした。
マスク氏から執拗な攻撃を受けたスターマー首相ですが、国防支出もGDP2%超、貿易収支は米国側の黒字、非関税障壁も低く、トランプ大統領からの攻撃は免れています。
それでもユーガブの英独仏伊西の5カ国の意識調査では、トランプ大統領を「欧州の安全保障の脅威」、「望ましくない」と回答した割合が8割と5カ国中最高。
欧州統合軍創設への支持も初めて不支持を大きく上回りました。
