プレキンは未公開資産のデータに強みを持つ(同社提供)
上場株式や債券といった伝統的資産の運用で巨人と言われるブラックロックが、未公開資産(プライベートアセット)でも覇権を握ろうとしている。
6月、未上場企業の株式・債券やインフラ、不動産で圧倒的なデータを持つ英調査会社プレキンを25.5億ポンド(約5000億円)で買収すると発表した。
「プレキン買収でプライベート市場で足りないピースがそろった」。ブラックロック日本法人の竹内章喜取締役は強調する。
プレキンは2003年、未公開資産に特化して情報収集するために設立した会社で、世界の投資ファンドや機関投資家、運用会社など4万8000社、約20万人にデータを提供する。
プレキンの売上高は24年見込みで2.4億ドルだ。ブラックロックがその10倍以上となる資金を出して買収するのは、未公開資産の運用に本腰を入れるためだ。
ブラックロックは世界最大の運用会社だが10兆ドルを超す運用資産のうち、上場投資信託(ETF)を含めたパッシブ運用が7割を占める。
一方、未公開資産の分野に目を転じると、未上場企業株などの取得に充てる資金調達額の上位には米ブラックストーン、米KKR、カナダのブルックフィールドなど伝統資産とは全く異なる企業が陣取る。
ブラックロックは上位10社に入っておらず後れを取ってきたことを示す。
プレキンによると、オルタナティブ(代替投資)と呼ばれる未公開資産の世界の運用残高は10年に4兆ドル程度だったが23年には16兆ドル規模に膨らんだ。
今後も右肩上がりが続く見通しだ。「これまで伝統と非伝統では全く異なるプレーヤーがそれぞれの役割を担ってきたが、両者の垣根は崩れてきている」(ブラックロックの竹内氏)
未公開資産は長期運用の投資家からの人気を集めており、米国の大学基金は22年時点で運用資産の約4割を未公開資産に振り向ける。
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のオルタナ資産の時価総額は24年3月時点で約3.7兆円と、10年前の2億円から大きく増えた。
背景には伝統的資産に比べて相場変動の影響を受けづらく、即時の現金化が難しい特徴から相対的に高い利回りも望めるとの見方がある。
ブラックロックが債券40%・株式60%という伝統的な運用比率と、債券や株式に未公開資産を20%入れた現代的な比率を比べたところ、違いが顕著に表れた。
23年末までの過去10年のパフォーマンスを試算した場合に、伝統運用のリターンは年率6.5%だったのに対し未公開資産を入れた運用は7.5%だった。
最大の下落率は順に19.0%と15.8%で、未公開資産を組み込んだ方が相対的に値動きは安定しつつ、収益性が高いことが分かった。
リスク分析ツール「アラディン」のアジア太平洋事業を統括する竹内氏は「顧客の投資動向がプライベートに比重を大きく置くように変わってきている」と話す。
プレキンのデータを使えば未公開資産の粒度の高い分析も可能になる。これまでは伝統的資産の値動きで推定するのが一般的だった。
ブラックロックは布石として19年にフランスのソフトウエア会社を買収した。
同社のソフトは未公開資産のポートフォリオ管理などに使われる。24年には未公開資産が主力の運用会社の米グローバル・インフラストラクチャー・パートナーズを傘下に収めた。プレキン買収で運用の要となるデータを牛耳る形になる。
ラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は「オルタナティブ(代替)投資の民主化」を掲げる。
上場株など伝統的な資産に代替される未公開資産が資本市場で存在感を増すことを意味する。ブラックロックが未公開資産のゲームチェンジャーになり、勢力図を塗り替える可能性が出てきた。
(上田志晃、ニューヨーク=竹内弘文が担当しました)
日記記事024.10.17より引用