ジェイミー・ダイモンCEO㊧は出社の効用を訴える
(2月28日、カリフォルニア州パロアルト)=ロイター
【ニューヨーク=斉藤雄太】
米銀最大手JPモルガン・チェースは今週から世界の全社員約32万人を対象に週5日の出社を義務付ける制度の適用を始めた。
1月の通知を実行に移したが、勤務の柔軟性を好むテック人材などの退社を促すとの見方もある。ライバルのシティグループなどは週3日出社を維持し、戦略は割れている。
「怒りに任せて辞める人もいるだろうが、それでも構わない。社員が我々(経営陣)に指図できるわけではない」。
2月末、米スタンフォード大主催のイベントでJPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)はこう語った。「我々はオフィスに戻り、より良い会社になる」
撤回求める署名運動、相手にせず
同社が世界中の社員に3月から週5日出社するよう求めたのは、1月前半だった。この時点で全体の半数以上が既に週5日オフィスに来ており、残りは出社と在宅勤務の「ハイブリッド勤務」だった。
広報担当者は「一部の社員は今週から週5日出社に戻った」と説明する。受け入れ体制が整っていない一部の拠点や例外的な業務を除き、ハイブリッド勤務は終了となる。
通知から実施までの2カ月で社内には混乱も生じた。複数の米メディアによると、週5日の出社ルールの撤回を求める嘆願書への署名運動も起きたが、ダイモン氏は社員との対話集会でそうした試みは無意味だと切り捨て、反発を招いた。
なぜ出社を求めるのか。1月の社内通知では「社員が一緒に過ごす時間が長くなるほど得られる利点も多くなる」と記した。社員同士の意思疎通や指導がしやすくなったり、意思決定が迅速になったりすると強調した。ダイモン氏は若手社員が顧客や上司・先輩と過ごす時間が少ないと学びや成長の機会が減ると指摘する。
それでも社内の一部で不満はくすぶる。米メディアのビジネスインサイダーは、柔軟な働き方を望むデータ分析や人工知能(AI)開発などのテック人材の流出を懸念する声が同社幹部から出ていると伝えた。
人材コンサルティングのDHRグローバルで金融機関を担当するジャンヌ・ブランソーバー氏は「在宅勤務の柔軟性やワークライフバランスの向上、通勤時間の回避といった恩恵を受けてきた人々には(週5日出社は)マイナスに受け取られる」と話す。
米金融大手は新型コロナウイルス禍で在宅勤務を導入した後、徐々にオフィスへの復帰を求めてきた。現状では「RTO(リターン・トゥ・オフィス)」の取り組みにばらつきがある。
ゴールドマン・サックスはコロナ禍が一時落ち着き始めた2021年6月に週5日出社の方針をいち早く打ち出した。シティグループやバンク・オブ・アメリカは投資銀行のバンカーやトレーダー、支店の営業員など日々顧客と接する社員に週5日出社を求める一方、ほかは最低週3日出社とするハイブリッド勤務を続けている。
シティ、「ハイブリッド勤務が最良」
シティは取材に対し、世界でおよそ23万人(24年末時点)いる社員の過半がハイブリッド勤務だとしたうえで「この勤務体系に引き続きコミットしている」と述べた。
「社員のワークライフバランスを高める柔軟性と、顔を合わせて働くことで得られる多くの利点の両方を取り込める最良のモデルだ」と強調する。
DHRグローバルのブランソーバー氏は「大半の銀行は週5日出社を要求することはないだろうが、出社は最低週3日のハイブリッド勤務を維持し、いずれ週4日を求める可能性が高い」とみる。
トランプ米政権は発足早々に出した大統領令で連邦政府職員のテレワークを禁止し、週5日のオフィス勤務を義務付けた。企業でもアマゾン・ドット・コムが1月に週5日出社を義務とするなど、出社頻度を引き上げる動きが広がる。
米労働省によると、24年12月の全米の求人件数は760万件で2年前から340万件(31%)減った。失業者1人あたりの求人も1.1件と22年3月のピーク(2件)から落ち込んだ。
労働市場が売り手優位の状況ではなくなり、経営者側が意向を通しやすくなっている面もある。