グーグルは車向けOSでシェアを拡大し、寡占を強めている
自動車の頭脳にあたる基本ソフト(OS)の分野で、米グーグルの寡占が強まってきた。
2024年のシェアは約7割を占め、15年に比べ約2倍となったことがわかった。グーグルは車の移動データを大量に集めやすくなる。
自動運転の普及によって生まれる車向けサービスを巡る競争で、テクノロジー企業が優位に立ち、車メーカーが劣勢に回る可能性がある。
米S&Pグローバルが持つ世界の新型車の調査データを用いて、15年以降のOSの占有率を分析した。
車のOSはカーナビや音楽などの利便性や快適性を向上する「情報系OS」と、ハンドルやブレーキなど安全機能向けの「制御系OS」に大別される。今回の調査は情報系を対象とした。
情報系OSの主流はグーグルの「アンドロイド」で、スマートフォン向けのOSを車に転用し、スマホの使い勝手を車内で実現する。
一方で制御系OSではカナダ・ブラックベリーの「QNX」の採用が増えている。
動作時間を厳密に管理できるため安全機能で使いやすい。車に複数のOSを搭載するのが一般的になりつつある。
24年に生産を始めた215の新車のうち67%の144車種が、アンドロイドを採用した。
シェアは15年の1.8倍となった。次に多いオープンソースの「リナックス」との差は広がっている。
グーグルは17年に自動車向けのアンドロイドを開発した。スマホ向けをベースに車載パネルでも見やすい表示や画面サイズなどにしている。
スウェーデンのボルボ・カーや米フォード・モーター、日産自動車、ホンダなどの企業が新型車に採用した。
各社がアンドロイドを採用するのは、消費者が使い慣れたスマホの操作感を車でも踏襲できるためだ。「グーグルマップ」などのアプリも車載パネルを操作して使える。
競合のリナックスの場合、操作方法がスマホと異なるうえ対応アプリが少ない。
スウェーデンのボルボ・カーはカーナビなどのOSにアンドロイドを積極的に採用している
グーグル、車向けアプリの収益化で優勢
情報系OSのグーグル寡占が進むことにより、グーグルはスマホのアプリのように、車向けのアプリを通じて車の利用者から手数料を得る次世代車のビジネスで収益力を高められる。
自動運転車が普及すれば、乗員が車内で楽しめる動画や音楽、ゲームなどエンタメを中心にモビリティー関連サービスの市場の拡大が見込まれている。
さらにグーグルは移動データなどを大量に収集できるようになる。
S&Pの李河源シニアリサーチアナリストは「契約次第では位置や車速、エンジンや電池の状態、車載アプリの使用状況など多くのデータを収集できる」とみる。
OSを通じて車の位置や速度などのデータを収集すれば、自動運転関連のサービスの開発も優位に進められる。
例えば、車の位置や速度のデータを収集すれば道路の混雑状況が分かる。自動運転と組み合わせることで、渋滞を避ける交通システムをつくれる。
グーグルの親会社アルファベットは、傘下のウェイモを通じて自動運転タクシーを手掛けており、より効率的な配車も可能になる。
車各社、アンドロイド採用で開発費削減
車各社はグーグルのアンドロイドを採用することにより、数兆円に上るソフトの開発費を減らせる。
独フォルクスワーゲンやホンダなどは車のすべての機能を制御する巨大なソフト基盤を開発している。スマホで実績のあるアンドロイドを自社のソフト基盤に取り込むことで開発の手間を減らし、安全なシステムにすることに資金を集中できる。
ウェイモは米カリフォルニア州やアリゾナ州で自動運転タクシーを展開する(サンフランシスコ市内)
トヨタ自動車は多くの車でリナックスを採用しているが、リナックス勢は少数派だ。スマホのOSでは、アンドロイドと競う米アップルも車OSでは存在感が小さい。グーグルの寡占状態を巻き返すのは厳しい情勢だ。
車各社にとってはこのままの状況が続けば、自動運転普及時に生まれる新サービスの主導権と収益をグーグルにとられることを意味する。
中国では華為技術(ファーウェイ)や小米(シャオミ)などがスマホ向けOSを車や家電製品に広げようとしており、独自の競争が始まっている。
中国勢はEVの価格競争で世界で優位に立つ。安価な電気自動車(EV)と各社のOSを組み合わせることで、アンドロイド1強の構図を変えようとしている。
米国時間7日に一般公開が始まる世界最大のテクノロジー見本市「CES」でも車OSの動向は見どころとなる。
トヨタは独自OS「アリーン」の実車搭載を25年中に計画する。同ソフトは完全子会社のウーブン・バイ・トヨタ(東京・中央)が開発し、同社は実証都市「ウーブン・シティ」も手掛ける。
ウーブン・シティの進捗をCESで紹介する予定で、アリーンの開発状況も注目される。ホンダも開発中の車OSの詳細をCESで披露する予定だ。
(清水直茂)
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