データセンターの大電力化に対応する「切り札」として、従来の電気によるデータ伝送を光に置き換える「光電融合」技術が脚光を浴びている。
ただし、開発や導入に積極的な米国や台湾と比べて日本企業は慎重に見える。
記者は、光電融合導入のけん引役はデータセンター事業者だと考えているが、国内事業者はまだ様子見の段階で、本格導入は2030年以降になりそうだ。課題は導入コストの高さだ。
データセンターに使われる電力需要は、人工知能(AI)ニーズの高まりにより急速に増大している。
国際エネルギー機関(IEA)の24年1月の予測では、世界全体のデータセンターの1年間の総電力消費量は26年に約1000テラワット時(TWh)に達すると見込む。
これは「日本全体の総電力消費量とほぼ同じ」(IEA)規模である。30年には3倍の約3000 テラワット時になると予測する。
そこで期待が高まるのが光電融合だ。ラック間やボード間のみならずチップ間のデータ伝送にも積極的に光を使う。従来の電気のみを使った伝送と比べると、エネルギー損失や熱の発生を抑え、消費電力を激減させられる。
基本的には、信号配線に占める光伝送の割合が増えるほど伝送効率は高くなる。ただ、技術的なハードルがあり、各社がその割合を増やした技術を段階的に開発している状況だ。
例えば、ここ数年で発表が相次ぐのが「コ・パッケージド・オプティクス(CPO)」である。
IC(集積回路)間の光配線を実現する。具体的には、電気的な信号を処理する電気集積回路(EIC)と、光学部品である光集積回路(PIC)を同一基板上に集積する。
CPOの導入は、世界では始まりつつある。例えば、大手半導体メーカーの米ブロードコムは24年3月、データセンター向けのCPO製品「Bailly」を、複数の顧客に納入したと発表している。
米インテルも24年3月、同社が「Optical Compute Interconnect(OCI)」と呼ぶ光電融合のチップレットをデモンストレーションした。OCIと呼ぶが、これもCPOである。
さらに、24年9月には、光電融合に関するアライアンス「SiPhIA(SEMI Silicon Photonics Industry Alliance)」を台湾積体電路製造(TSMC)などが提唱して設立し、台湾企業など30社以上が参画したという発表があった。
インテルの光電融合チップレットは「OCI」と呼ぶCPOと同様の技術を使い、光集積回路(PIC)と電気集積回路(EIC)を3次元実装する(出所:インテル)
「主体的には検討していない」
最近、国内データセンター事業者に取材する機会を得たが、その際に、「光電融合製品の導入に向けて本格的に検討している」などと聞けるのではないか、とほのかな期待があった。
ところが、すぐに出ばなをくじかれてしまった。
「光電融合は10年以内には実現するだろうな、ぐらいの印象」。「主体的には検討していない。今後普及すれば導入したい」。
これらは国内の異なる大手データセンター事業者に、光電融合の導入について聞いた際の回答である。
その理由を聞いたところ、どちらの企業からも導入にかかるコストの高さが課題に挙がった。
光電融合はまだサプライチェーン(供給網)が十分に整備されておらず、関連メーカーもまだ少ない。
光電融合製品を大規模かつ安価に導入できる環境は整っておらず、国内データセンター事業者にとっては将来技術という位置づけである。
「現状は投資に対してリスクが高い。現実とあるべき姿にはギャップがある」(ある大手データセンター事業者の幹部)。
データセンター事業者にとっては、光電融合は逼迫する電力需要の高まりに対処する手段の一つに過ぎない。
例えば、中央演算処理装置(CPU)や画像処理半導体(GPU)の冷却方式として、空冷から水冷に転換することで、電力効率を高められる。さらに、CPU・GPUをより電力効率の高いAI処理専用プロセッサーに切り替える手段もある。
ただ、これらの企業も、「光電融合はいずれは普及する技術」という考えでは共通する。導入を見込むのは30年以降だ。光電融合技術の導入に対する政府の助成金に期待があるためである。
経済産業省は半導体戦略の中で、TSMCの子会社であるJASM(熊本県菊陽町)やラピダス(東京・千代田)の半導体工場に続く「ステップ3」として光電融合の実用化を設定する。
ステップ3は30年以降とし、パッケージ内光配線などによる次世代光データセンターの実現が掲げられている。
パッケージ内光配線を実現する技術は「光I/O」と呼ばれ、CPOの次の段階とされる。
国内ではNTTの子会社であるNTTイノベーティブデバイス(横浜市)が、次世代情報通信基盤「IOWN」構想の一環として同技術の商用化を32年に目指す。
経産省が主導して同社などに財政支援し、データセンターへの応用に向ける姿勢を示す。
一方、日本も光電融合の要素技術では重要な企業がいくつかある。例えば、PICに光信号を入出力するために使うファイバー・アレイ・ユニット(FAU)は、センコーアドバンス(三重県四日市市)子会社の米センコー・アドバンスト・コンポーネンツや住友電気工業が手がける。
台湾アナリスト集団であるイザヤ・リサーチによれば、TSMCの光電融合技術は両社の製品を採用しているという。
国内データセンターへの光電融合の本格導入は、30年以降の経産省の助成金拠出を待つことになりそうだ。
ただ、記者は、日本がNTTの国産技術などで先陣を行くためにはそれでは遅い気がしている。
TSMCが光電融合連合を提唱した背景には、「サプライチェーンの再構築の検討もある」(イザヤ・リサーチ)からだ。
同連合でTSMCが台湾部材メーカーと、安価なFAUを共同開発し、日系メーカーからくら替えする可能性もある。
このような事態を避けるためにも、国内の光電融合サプライチェーンの迅速な整備と、国内での需要創出が必要だろう。
(日経クロステック 久保田龍之介)
[日経クロステック 2024年10月28日付の記事を再構成]
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日経記事 2024.11.08より引用