
ロシアのプーチン大統領㊧と話し込むトランプ米大統領
(2017年7月、独ハンブルクで)=AP
トランプ米政権はロシアのウクライナ侵略開始から3年にあたる2月24日、欧州諸国などが国連総会で提出したロシアを非難する内容の停戦決議案に反対票を投じた。
3月3日にはウクライナへの武器供与の一時停止を決めた。同国支配を目指すロシアのプーチン大統領の意向をくんだかのような行動だ。ただ、プーチン氏への接近はそれだけではない。トランプ氏は統治手法もなぞり始めた。
2月25日、米大統領報道官は「プール」と呼ばれるホワイトハウス代表取材の参加者を決定する権限を1世紀以上担ってきた記者会から奪い、政権側が選定すると発表した。
大統領取材を巡っては、これに先駆けてメキシコ湾をアメリカ湾に変更するよう命じたことに従わない米AP通信をプールから排除するなど政権が言論に介入する姿勢を強めていた。

大統領執務室の取材参加者は政権側の意向が働くようになった(2025年2月25日、ホワイトハウスで)=AP
企業も標的だ。トランプ大統領の2期目の就任式には、起業家イーロン・マスク、アマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾス、メタ創業者マーク・ザッカーバーグの3氏が勢ぞろいした。
世界を代表するテック企業のトップが大統領に忠誠を尽くす姿勢を示した。
独占禁止法の運用、人工知能(AI)やSNSへの規制など将来経営に影響しかねない政策を盾に政権側が影響力を行使している格好だ。
日本製鉄によるUSスチール買収への介入もビジネス界への影響力強化の一環といえるかもしれない。
メディアとビジネスに圧力をかけ、情報と経済権益をコントロールする――。まさにプーチン氏が大統領に初めて就任した2000年以降にロシアで目の当たりにした光景だ。
自らに批判的な報道や番組に介入し、従わなければ強引に経営者を排除したり、経営権を取得したりした。
産業界に対してもあらゆる権力を行使して政権の意に沿うように強制した。オリガルヒと呼ばれる新興財閥が相次いでプーチン氏になびいた姿はいまの米国と重なる。
大統領権限強化で揺らぐ三権分立
あわせてプーチン氏が手をつけたのが憲法だ。大統領任期を延長し、立法、司法への大統領権限を段階的に強めていった。その結果、築き上げたのが盤石な独裁体制だ。

プーチン氏は何度も憲法を改正して権限を強めた(2000年5月、ロシア憲法に手を置いての大統領就任宣誓。
右奥は前任のエリツィン氏)=タス通信
トランプ政権下でも現在、「憲法危機」と呼ばれる状況が生まれている。米国で生まれた子に自動的に国籍を付与する「出生地主義」を修正。
議会の立法措置で設立した米国際開発局(USAID)の職員を大量解雇し、解体する動きに出るなど憲法に基づく大統領の権限逸脱を指摘される行為が相次いでいる。
米の同盟国離れで変わる風景
さらに、トランプ陣営が、憲法で「2回を超えて選出されることはできない」としている大統領任期を見直し、3期目を模索し始めたとの報道も出ている。
憲法改正には連邦議会上下両院の3分の2以上の議員が発議するか、全州議会の3分の2以上の要請で招集された憲法議会によって発議される必要があるなどハードルはかなり高い。
あり得ないとの見方が支配的だが、ロシアでも最初は同じような雰囲気だった。少なくとも観測が出ること自体がトランプ政権の危うさを物語っているともいえる。
プーチン政権もトランプ氏を取り込むつぼを押さえているようだ。欧州メディアなどによると、ウクライナ停戦を巡りカードとして浮上しているのがロシアのエネルギー利権だ。
現在、ロシアとドイツを結ぶ海底ガスパイプライン「ノルドストリーム」は停止しているが、それを米国が主導して復旧、再開させることが米ロで議論されている。
さらにロシアのエネルギー開発に米企業を参加させる案もあるという。
これらの交渉の見通しは不透明だ。ただ、仮に自国の経済的利益を優先するため、同盟国と距離をとるだけでなく、ウクライナの主権や自由を犠牲にした形で強引に停戦に追い込むとすれば、トランプ政権は一線を越えたと指摘せざるを得ない。
プーチン氏の手法をまねし、民主主義陣営からの決別を告げようとしているトランプ氏。その登場が国際情勢を巡る景色を大きく変えているのは間違いない。
<picture class="picture_p166dhyf"><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO6084578005032025000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=638&h=557&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=20067a17e2476e4461f5711c582e4f27 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO6084578005032025000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1276&h=1114&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=3a84051f7f0f79d0bf30cada2911eeaf 2x" media="(min-width: 1232px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO6084578005032025000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=638&h=557&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=20067a17e2476e4461f5711c582e4f27 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO6084578005032025000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1276&h=1114&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=3a84051f7f0f79d0bf30cada2911eeaf 2x" media="(min-width: 992px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO6084578005032025000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=600&h=523&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=1e1f097e190feed80445333cf282bdb7 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO6084578005032025000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1200&h=1047&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=407c686f44b6eb4ab0404dcdcf3b21de 2x" media="(min-width: 752px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO6084578005032025000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=600&h=523&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=1e1f097e190feed80445333cf282bdb7 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO6084578005032025000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1200&h=1047&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=407c686f44b6eb4ab0404dcdcf3b21de 2x" media="(min-width: 316px)" /><source srcset="https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO6084578005032025000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=600&h=523&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=1e1f097e190feed80445333cf282bdb7 1x, https://article-image-ix.nikkei.com/https%3A%2F%2Fimgix-proxy.n8s.jp%2FDSXZQO6084578005032025000000-1.jpg?ixlib=js-3.8.0&w=1200&h=1047&auto=format%2Ccompress&fit=crop&bg=FFFFFF&s=407c686f44b6eb4ab0404dcdcf3b21de 2x" media="(min-width: 0px)" /></picture>