チャネル部分を突起状(フィン)にし、ゲートをかぶせることで、ゲートが3方向を囲む構造を実現した。プレーナFETよりリーク電流を抑えられる(出所:日経クロステックが作製)
FinFETをプレーナFETと比べた主な利点は、チャネルを制御する面(方向)の数の違いにある。
プレーナFETは1面のみからチャネルを制御していたため、リーク電流が多かった。そこで、チャネルをゲートに食い込ませることで、3面から囲みリーク電流を抑制できた。
Q8 日本がFinFETを量産できなかった技術的な難しさとは?
FinFET構造は、実は日本企業が初めて作製に成功した技術である。日立製作所が1989年に開発を発表した。
ただ、商用生産にこぎつけたのは約20年後の2011年。その担い手は日本企業でなく、インテルだった。
FinFETの技術的な難しさはフィン部分の構造にある。縦に細長いチャネルを形成するためには、シリコン層をエッチングすることでフィン部分以外を取り除いている。この際に両側面をまっすぐにエッチングすることが難しい。
フィンの周囲には絶縁層やゲートを付加する必要があるが、ここがなめらかでない場合、こうしたものをうまく形成できないという問題もある。
フィンの幅をゲート長よりも短く加工する必要もあるため、プレーナ型より緻密である。構造が3次元的で複雑で、プレナー型に比べて製造にかかる工程も増え、設備も高度になるため、コストがかさむ。
上記のような課題から量産の歩留まりが問題となり、製造につなげにくかった。
Q9 GAA構造とは?どんなメリットがある?
GAAとは、「ゲート全方向(Gate All Around)」という名の通り、ゲートが全方向からチャネルを包み込む構造をしている。
トランジスタとしてはMOSFETのため、そのトランジスタ構造はFinFETという呼び方に準じて「GAA FET」と呼ばれる。
FinFETとの大きな違いは、3面から4面にチャネルの制御面の数を増やしたこと。具体的には、FinFETのチャネルを90°回転し、縦に積層。リーク電流をさらに抑えられるようにした(図7)。
図7 リーク電流をさらに抑えた「GAAナノシート」
GAA FETでは、チャネルの周囲全方向(All Around)をゲートが囲む構造を実現。リーク電流をFinFETよりさらに抑えて高効率を実現している。
なお、酸化(絶縁)膜部分の加工は「Bottom Dielectric Isolation(BDI、底面絶縁膜)」と呼ばれる手法を使う(出所:日経クロステックが作製)
GAAナノシートは、薄く伸ばしたチャネルを縦に複数枚積み重ねたGAA構造である。
「基本的に積層する枚数が多いほど性能は向上する」と東京大学 生産技術研究所 情報・エレクトロニクス系部門 教授の平本俊郎氏は説明する。
なお、GAA FETの量産技術は世界でも萌芽(ほうが)したばかり。韓国Samsung Electronics(サムスン電子)は2022年7月、3nm世代プロセスのGAAナノシートを量産開始したと発表している。
対する台湾TSMC(台湾積体電路製造)は、GAAナノシートの「N2」を2025年に量産開始する見込みで、サムスン電子を追う。
また、インテルも、同社初のGAAトランジスタプロセス「Intel 20A」での生産を2024年上期に、その改良版の「Intel 18A」での生産を2024年下期に開始すると発表している。
Q10 最先端のGAA構造はなぜ製造が難しい?
「GAA FETの製造の難しさは、3次元的に考えなければならない部分が多いこと」。平本氏はこう説明する。
GAA FETの基本的な製造方法はこうだ。まず、Siとシリコンゲルマニウム(SiGe)を交互に積層した上で、FinFETのような突起型の構造を形成する。SiGeは特殊な溶剤で溶かすことができるため、SiGeをエッチングすればSiのみが残る仕組みである。
この際、課題になるのがナノシートの下に位置するSi層である。このSiの層がソースとドレインの間に挟まれるために、新たに意図しないチャネルが形成され、電流が漏れて効率低下につながってしまう。
そこで、米IBMなどはこのSi層とナノシートの間に絶縁膜(SiO2)を形成する技術を発表している。「Bottom Dielectric Isolation(BDI、底面絶縁膜)」と呼ばれる手法である(図8)。
図8 IBMが発表した2nm GAAナノシートの断面
(出所:IBM)
さらに、チャネル周囲にゲートとナノシートとを絶縁するために「サイドウォールスペーサー」が必要になるなど、FinFETと比べても製造はかなり複雑になる。そのため、実用化に2022年まで至らなかった経緯がある注2)。
注2)サイドウォールスペーサーはゲート―チャネル間の寄生容量(Parasitic Capacitance)を削減するためにつくられる。寄生容量はノイズなどの原因になるからである。なお、サイドウォールスペーサーの材料としては、主にシリコン窒化膜(SiNx)が使われる。
ラピダスは、この複雑な構造を量産できる手法を確立する必要がある。
出典:日経エレクトロニクス、2023年4月号 pp.42-47
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