NTTが開発中の光技術を使った次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」が注目を集めている。
既存インフラに比べて通信の速度と容量を向上し、消費電力は抑える。膨大なデータ処理と電力が必要な生成AI(人工知能)時代の新たなインフラとして普及する可能性がある。
注:NTTへの取材を基に作成
IOWNは「Innovative Optical and Wireless Network(イノベーティブ・オプティカル・アンド・ワイヤレス・ネットワーク)」の頭文字をつなげた略称だ。
革新的な光と無線のネットワークという意味を持つ。
NTTが構想を発表したのは2019年。この5年間で研究から段階的に実用化を進めてきた。23年3月には通信の遅延時間を200分の1に縮めることに成功。
伝送容量は28年度に125倍を目指す。消費電力は25年度に10分の1、32年度に100分の1まで減らせる見通しだ。
カギを握るのが電子処理を光に置き換える「光電融合」と呼ばれる技術だ。
光を通信だけでなく、データ処理にも使う。半導体内部に組み込むと、集積する半導体チップや基板の処理を光に置き換え、大幅に消費電力を減らせる。
NTTは国際標準化に力を入れ、30年ごろに普及が見込まれる次世代通信規格「6G」のネットワークでの活用を見込む。
幅広い場面で実用化が進めば、例えばスマートフォンの充電が1年に1回で済むなど、社会を大きく変える可能性がある。
出所:科学技術振興機構(2021年)
高度な生成AIなどが日常生活に急速に浸透し、データ量と電力消費の増加が不可避になっている。
大規模言語モデルの1回あたりの学習に必要な電力は約1300メガワット時で、原子力発電所1基分(1000メガワット時)を上回るとの試算もある。
データ量の増加と消費電力の削減という社会課題を同時に解消できる手段として、IOWNに期待が高まっている。
いつ生まれたの?
NTTが2019年4月、英科学誌「ネイチャーフォトニクス」のオンライン版で基礎技術について公表した。当時日本企業は5Gで海外勢に後れを取っており、6Gでの主導権を狙った。
信号処理に光を使い世界最小のエネルギーで動く「光トランジスタ」などの開発を打ち出した。1960年代から取り組んできた光技術の研究開発の集大成と位置づける。
世界展開は?
携帯電話のインターネット接続サービス「iモード」では自社の技術を広めることにこだわり、海外普及に失敗した。この教訓を踏まえ、IOWNでは実用化の前段階から海外勢を含めた仲間作りに注力した。
ソニーグループや米インテルと技術仕様などを話し合う国際団体を20年に立ち上げ、拠点は米国に置く。参加企業は140企業・団体に広がった。
課題は?
消費電力100分の1を実現するには「光半導体」の開発が不可欠になる。半導体の内部まで電子処理を光に置き換える必要があるためだ。
日本政府は約450億円を拠出し、NTTは米インテルや韓国半導体大手のSKハイニックスから生産技術の助言を受ける。今後は量産を視野に、設計や製造など様々な企業とネットワークを築く必要がある。
(宮嶋梓帆、グラフィックス 渡辺健太郎、デザイン制作協力 タイドデザイン)
日経記事2024.05.20より引用
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