日立製作所などが「10兆円クラブ」に初めて顔を出した
時価総額が10兆円を超える日本企業は27日時点で、18社と過去最多となった。日立製作所や東京海上ホールディングスなどが初めて顔を出し、社数は2023年末の10社から大幅に増えた。
伝統的な企業が稼ぐ力を磨き、投資家に再評価されている。ただ「10兆円クラブ」企業数は米国の9分の1にとどまる。若い企業が育っていないことが米国との格差を生んでいる。
時価総額は株価に発行済み株式数をかけたもので、将来の利益期待をもとに投資家がつけた企業価値を表す。
時価総額上位の顔ぶれは、その時代の産業構造や投資家の成長期待を映す。バブル経済期の1989年末には10兆円クラブ入りの企業はNTTなど3社しかなかった。
27日時点で時価総額10兆円を超える企業は18社と、23年末比で8社増えた。時価総額トップに君臨するのはトヨタ自動車だ。
年前半は世界での販売好調や値上げ効果で、株価が大きく上昇し、日経平均株価が34年ぶりに最高値を更新する原動力となった。足元では自己資本利益率(ROE)改善への期待が高まり、27日は約5カ月ぶりに時価総額が50兆円台に乗せた。
日立製作所は今年1月に初めて10兆円を超えた。送配電、デジタル事業の成長性に脚光が当たり、24年の増加率は97%に達した。
25年には20兆円の大台も射程に入る。送配電子会社の日立エナジーのアンドレアス・シーレンベック最高経営責任者(CEO)は「電力産業のスーパーサイクル(受注急拡大期)は20年続く」と指摘する。
10兆円クラブには事業ポートフォリオの入れ替えで収益力を高めたり、株主への利益還元を強化したりしてきたグローバル企業が並ぶ。東京海上ホールディングスは政策保有株式の解消を進め、売却益が出ていることが評価された。
久々に10兆円クラブに戻ってきた銘柄もある。任天堂は07年11月以来の返り咲きとなった。主力ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の後継機発売への期待が高まっているのに加え、スーパーマリオなどの高いコンテンツ力を持つことから、エンタメが投資テーマとなる中で、12月も買いが入っている。
ニッセイアセットマネジメントの野田健介チーフ・ポートフォリオ・マネジャーは「ROEを高めないと、議決権行使などで経営にも圧力がかかるとの危機感から、大企業でも収益構造の転換などが進んでいる」と指摘する。
もっとも、世界の10兆円クラブと比べると日本は量で見劣りする。QUICK・ファクトセットによると、円換算で時価総額が10兆円を超えている企業は世界で313社。米国の企業が167社と過半数を占める。国別では日本は中国の24社に次ぐ3位とはいえ、米国との差は大きい。
なぜここまで差が開くのか。日本株は主力銘柄に新顔が少ないことが挙げられる。2000年以降に創業した企業は10兆円クラブには皆無だ。
米国に成長企業が多い理由のひとつとしてリスクマネーの厚みがあげられるが、そもそもイノベーションに挑戦する企業が無ければリスクマネーの受け皿にはなれない。
日本株全体が世界株に占める割合は5.2%と、比較できる01年以降で最低となっている。「日本はソフトウエアといった市場が急拡大した分野で、世界で勝負する企業が少ない」(りそなアセットマネジメントの下出衛チーフ・ストラテジスト)。
既存の事業で存在感を保つだけでなく、新分野に果敢に挑む企業が増えることが海外勢に日本株が見直される条件になる。
(大越優樹)
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日経記事2024.12.30より引用