雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

蜘蛛の糸・杜子春/芥川 龍之介

2009-11-07 | 小説
 さて今回は、少年文学を集めたものということで、いってみよー! 
 ひとりよがりの感想文。


【蜘蛛の糸】
 やっぱコレだよな。芥川といえば。で、子供の頃コレを読んだ私は「そうか、クモさえ殺さなきゃ、極楽に行けるんだー」と鼻水垂らしてバカ全開、芥川も呆れ果てたことであろう。
 現在、なんとなく世の理が解かってきた、と思われる私は、ようやく芥川の伝えたかったことが解かりかけてきた、と思われる。
 たぶん、自分のことしか考えてないような性根の腐っている野郎は、いくらチャンスをやっても地獄に堕ちるんだよ、というようなことでしょう。要するに「他人を思いやれ」と。そういうことなんだと思います。
 っていうか、きっと授業ではそう教えているんでしょうが、如何せんマトモに教師の話なんぞ聞いてやしなかったもので、バカな解釈のまま大人になってしまったんだな。


【犬と笛】
 ファンタジー色溢れる作品。それにしても犬の名前が「嗅げ」「飛べ」「噛め」って……。そのまま命令だし。まあ童話だからな。


【蜜柑】
 こーれは好きだなぁ。完璧、大人向けのエッセイだ。なんでこの本に収録されてんだ? 解説を読んだら作者の実体験とあった。やっぱり、自分はつくづく私小説が好きなようだ。


【魔術】
 魔術師のミスラ君。きっと君は魔術を教える気など毛頭なかったんだろ? と穿った見方をしてしまう私は、けっきょく子供の頃から進歩していないただのバカなんだと思う。でもこのお話の顛末は好きだな。


【杜子春】
 オチ的には前の【魔術】と同じだが、そこに表された寓意は異なっている。端的に言えば「最後に愛は勝つ」と言ったところだろうか。
 それにしても、ここで描かれた地獄の責め苦は、何気に書かれているがかなりおぞましい描写。子供の頃に読んだなら、きっとトラウマになったであろう。
 ラストは爽やかで好いのだが……。


【アグニの神】
 これも広義においてミステリに属する類いだと思われる。そういう仕上げにしたのか? それとも、文学とはミステリアスなものなのか? ともあれ大正の時代、すでに文芸ミステリといったものが確立されていた証拠である。


【トロッコ】
 これも最早、年少者向けというより、むしろ大人のためのお話だと思う。この恐ろしさ、悲しさは、誰もが少なからず経験していると思う。大人にとっては大したことではないことでも子供にとっては押し潰されるような不安と恐怖を感じる。しかし、悪いのは結局オマエだろ。とかも思ってしまう自分はやっぱりただのわからず屋さんなんだろう。


【仙人】
 正直、呆気にとられる話ではあるが、なんだか好き。きっと最後に報われたところにホッとしたのだろう。私もまだまだ甘ちゃんだ。


【猿蟹合戦】
 みなさんご存知、と思われるあの復讐劇『猿蟹合戦』のその後を描いた、なんとも生々しく世知辛い作品。
 最後の「君たちも大抵蟹なんですよ」という訓辞が身に沁みる。


【白】
 「白」というのは犬の名前なのだが、そしてまた、ここでは犬が人語を理解しているという設定なのだが、その「白」の言い回しが、なんとも好い。 
「お嬢さん! あなたは犬殺しを御存知ですか? それは恐ろしいやつですよ。坊ちゃん! わたしは助かりましたが、お隣の黒君は掴まりましたぜ」
 なんか、愛嬌がある。
 ストーリー的には感動の結末なのだが、最後の坊ちゃんの、「へっ、姉さんだって泣いている癖に!」というセリフの音に、話的にはまったく関係のない感慨を受けてしまった。私はこういう、わざとらしさに溢れたセリフ回しに心底「グッ」とくる性質なのだ。



 以上、かなりおざなりな感想文で申し訳ないが、たぶんまだ続くと思うので、なにとぞ勘弁して欲しい。オナニーみたいなもんだから、見て見ないフリしておくれ。

 
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地獄変・偸盗/芥川 龍之介

2009-11-07 | 小説
≪王朝もの≫第二集。これもまた、サラッといってみよう。手前勝手に。


【偸盗(ちゅうとう)】
 この作品、芥川自身が自分の一番の悪作だと評しているようだ。「安い絵双紙」のようなもので、「いろんなトンマな嘘がある」し「性格なんぞ支離滅裂だ」とかなりの自嘲を吐いている。それにしてもこの一々のセリフがなんともグッとくるではないか。こういう作品外のところでの言い様も天才的作家ならではだと思える。
 自分としてはこの作品、かなり好きなんだけどな。兄弟愛が窺える秀作。


【地獄変】
 これも芥川文学の主軸を成す代表作ではなかろうか? 絵師「良秀」の芸術的狂気は真に空恐ろしさを感ぜざるを得ない。
 ちなみに伊坂幸太郎著『重力ピエロ』にて、この地獄変の良秀についての言葉がある。
≪実際に見ないと描けない画家なんて、想像力が足りないだけだろ≫
 と。
 たしかにな……。


【竜】
 これの面白いところは、ラストに自身を文壇に押し上げた作品【鼻】に続いてゆくところだろう。もちろん、この【竜】自体も寓話的で実に面白い。


【往生絵巻】
 戯曲的で短い作品。仏神とは縁遠い自分には少し理解しがたかった。


【藪の中】
 当時にしては意欲的な作品ではなかろうか? ある意味、現在でも充分通用するミステリだと思う。殺人事件、犯人の自白、被害者の告白、とミステリの要素たっぷりだ。しかしそこはやはり、文学作品。すべての真実は藪の中なのである。


【六の宮の姫君】
 かなり悲劇的な物語。これはほぼ原作通りに書かれたらしく芥川の手はあまり加えられていないようだ。しかし、ラストのオチは秀逸だなと思っていたら、やっぱりそこは芥川の創作だった。流石だ。


 以上、前巻よりも慣れてきたみたいで、この本はスラスラと読めた。まあ、わりと解かり易い話ばかりだったからだろうが、「芥川ファンタジー」とでもいった要素に取り込まれてきたのも事実であろう。
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羅生門・鼻/芥川 龍之介

2009-11-07 | 小説
 この本では八つの物語が収められている。それでは、なるべくサラッと各話の感想などを……。

【羅生門】
 タイトル作。やはり芥川といえばコレが有名なのだろう、たしか映画もあったよな? 黒澤明監督で。
 人間、切羽詰まったからといって己の理だけで生きていくとこういう破目に陥るぞ、といったところか? 老婆の理屈によって下人の心持ちが変容する様が見事。


【鼻】
 サブタイトル作。どうやらこの作品によって芥川は文壇にその輝かしい第一歩を印すことになったらしい。かの、夏目漱石からの絶賛を受けて。
 この話を読んでいると、なにかと手塚治虫先生の『火の鳥』の主要人物「猿田博士」を連想させられた。たぶん関係あるんだと思う。


【芋粥】
 人間の欲望や理想は、果たして真に叶うことがあるのだろうか? 実際、なにかを達成したあとには虚しさが押し寄せてくるものである。そう、一発抜いたあとの空虚さが、まさにソレだ。


【運】
 これは『芋粥』に近いテーマだと思う。物質的な幸福と精神的な幸福、どちらがより善いかなどはその人次第だろうけど、やはりそこには虚しさが漂っている。とりあえず「出せればいい」という考えに待ったをかける。しかし、とりあえず手っ取り早く自慰に走ってしまう。


【袈裟と盛遠】
 これは斬新な、というか、広い意味でのミステリという感じであった。古典をこんな具合に変換させられる芥川の才能が遺憾なく発揮されている一作。


【邪宗門】
 これは……新聞小説だったらしくかなりの長編で、それでも頑張って読んでいたらいきなり(未完)でぶち切られた。
「おい! そりゃねーだろ、こんだけ読ませて」と、思ったし、また「まあいいか。これ以上この話を読むのはキツイ」とも、思った。


【好色】
 あわやスカトロ小説になりそうなところをグッと堪えた感じの一作。


【俊寛】
 これがちょっと、イマイチよく読み取れなかった作品。なんせ半分寝ながら読んでたから。あしからず。


 以上である。

 やはり古典からということもあり、意味不明な点や小難しい言い回しなども多々見受けられるが、芥川のリズミカルな筆致によりそれらの苦がかなり和らげられている。尚且つ斬新な手法を持ち入り読者を飽きさせない、という点は非常に勉強になった。もちろん、その作品の寓意を読み取り人間としての本質を磨き上げることにも余念はない。
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