さいかち亭雑記

短歌を中心に文芸、その他

島田修三『古歌そぞろ歩き』

2017年03月04日 | 和歌
 近代以降ずっと評判がいい『万葉集』や、誰もが名前を知っている「古今」「新古今」は別として、それ以外の和歌集を読もうとすると、和歌にさほど同情のない読者は、始めのうちは類歌の洪水にとまどうのではないかと思う。どの歌も同じようにしか見えなくてつまらないと感じたり、既視感が強すぎてどう楽しんだらいいのかわからなかったりするのである。これは、私自身がそういう経験をして来たから書いている。

そのような古典和歌の広大な渚のほとりで立ちすくんでいる読者にとって、本書は格好の入門書となるのではないだろうか。また、これまで自分なりに古典和歌に親しんで来た人にも、この本は改めて平安時代だけでなく、中・近世の歌のおもしろさを感じさせてくれるものとなるだろう。とにかく文章がいいのである。

 あとがきに著者自身が振り返って述べているが、京極派の歌人への嗜好や言及がうれしく、近世の歌人を積極的に取り上げている点がなかなか目新しい。またその選歌も、おそらく無意識のうちに近現代の歌人たちの批評の波をくぐったものになっていると感じられるところが、おもしろいと思うし、信頼できる。

 装丁も手触りもうれしく、親しみやすい本で、われわれはここに最良の古典和歌鑑賞書を手に入れたのである。