さくら・ことのは~川柳の部屋

言の葉はこだまことだまものおもひ…五七五の部屋へようこそ。

エッセイ「父の看取り」

2024-03-31 | エッセイ
前回記事に書きました
「たかこの世界」
に、エッセイで参加させていただきました。
今回で5回目になりますか。。。
こんな機会をいただけて、ありがたいです。


「父の看取り」

 父を実家で看取ってから、10年が経とうとしている。
 母にとっても、私にとっても、最愛の存在であった父は若々しく、
70の声を聞くまでは、病気ひとつしたことがなかった。

 定期的に経過をみていた父の肺の影に変化があり、
急ぎ精査となったのは、2013年12月4日のこと。
 その同年6月に心臓の弁置換術を受けた母は、
術後のトラブルで一時は回復も危ぶまれ、約1ヵ月半はICU。
ようやく退院できたのは9月だった。

 前年の夏には父の胃がんが見つかり、
内視鏡での胃粘膜剥離あと、開腹での胃切除が必要となり、
結局2度の手術に。幸い、経過は順調。
ほかに病気もなく、体力にも恵まれていた父は回復も早かった。
 術後1年目が過ぎたこの頃、転移や再発の兆候はない。
ただ、胃がんの精査治療の経過中に、小さな肺の影が見つかっており、
以後フォローしていた。
 母の長引く入院やその後の心配が、父の心身には大きな負担で、
免疫力や体力の低下が気になってはいた。 

 前年から続く、父と母の病と入院。
私たち家族には心配の絶えぬ日々だったが、
少しずつ生活のペースが戻り、今度は穏やかなお正月が迎えられるかと、
安心しかけたその矢先だった。
 今回問題なければ、また半年後か、1年後のフォローでよくなるだろう。
そう信じたかった。
 ところが、その日を境に、私たち家族の状況は一変し、
またもや試練の日々が始まる。
それから父を看取るまでの日々は、長くて濃密で、
それでいてあっというまの8ヶ月だった。

 難しい肺がんでも、稀なる悪性の組織型でなければ、
術後も当分は元気でいてくれたことだろう。
発見も、手術も、これ以上ないほど早期に進められたのだ。
 しかし、父の寿命はここで尽きてしまうことになる。
 病を得てからの父は実に素直で、付き添う私に従い
通院を重ね検査を受け、薬もちゃんと服用してくれた。
 痛み止めの麻薬を使い始めたから、運転はしばらくやめようね
と言えばそれに従い、そろそろ仕事も考える時期かもねと言えば、
取引先や関係者への迷惑が最小限になるようととのえ、
きちんと商売をたたんだ。  

 その過程において、愚痴や弱音はいっさい吐かず、わがままも言わなかった。
それでいて、歯をくいしばって耐えているという痛々しさも感じさせず、
病気以外はこれまでどおりの父であるように見えた。
 在宅で緩和ケアを受ける父の、入浴介助は私の役目のひとつ。
父の体調をみながら入浴を勧めることもあれば、父からの希望で、
ということもあった。
 父は最期まで寝たきりにはならず、できることは自分でしていた。
洗髪と、背中を流すこと、見守りと手伝い。
それが、入浴時の私の仕事だった。
 母は、その間に清潔なシーツや枕カバーでベッドを整える。
父がなるべく体力を消耗しないための連携プレー。
今は元気でも、いつ急に悪くなるかわからない状態なので、
毎回、これが最後になるかも、最後となっても悔やむまい…
の思いで父の背を流した。 
        
 亡くなる5日前の日曜日、
父から入りたいと言われたのだったか、私が勧めたのだったか…      
 いつもと変わらぬ状態、変わらぬ流れの入浴だったが、
いつになく静かな父は、自分で身体を洗おうとはせず、
すべてを私にゆだねてくれているようだった。
    
 「私が全部洗っていいの?」「うん」
 静かに答える父。
 父の命のエネルギーが、火が、小さく、弱まっていきつつあるような…
これが最後になる。予感があった。
父との忘れえぬひとときである。

 そして、暦は立秋。
もう意識のない父は、私の目の前で、最後の息をしてその呼吸を止めた。
日付が8月8日に変わってまもない、午前1時37分。
そっとカニューレを外し、酸素を止める。
もう苦しくないね… 
 すべての苦痛から解放された顔で眠る父。73歳。
 深呼吸して、ほんのひととき父と対峙してから、傍らの母を起こす。
2階の弟を呼びに行く。
下にいる母の慟哭に、しまった、ひとりにしてしまって…
と、自分のうかつさを責めた。
下りてきた弟が、母をしっかり抱いてくれた。

 看取りの日まで、住み慣れた自宅で、貴重なときを
父とともに過ごせたことは、家族にとって大きな恵み。
 父がもうこの世にいないことはさびしいが、
存在をいつも心に感じている。亡くなってから、より大きく。
 母は、その後7年を生きて、父のもとへ旅立った。


 さいごかも知れない父の背を流す さくら



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たかこの世界14・まじめに川柳

2024-03-29 | 誌上大会
鈴鹿川柳会でお世話になっておりますたかこさんによる、
「たかこの世界」
を今回も届けていただきました。
ありがとうございます^^
美しい表紙はたかこさんの切手アート絵です。

たかこさんの小説&川柳、
みなさんのエッセイ、そしてだれもが参加できる川柳と
盛りだくさんな内容で、毎回楽しみです。
もう14冊目になるのですねえ!

封筒をひらいて目にパッと飛び込んできたのは、
だいすきなシャガールの「誕生日」。
シャガールの世界はそのままに、
たかこさんならではの色彩センスで切手絵のアート。

ベラの黒いドレスやシャガールの緑のセーター(シャツ?)、
絨毯の赤などは原画のとおりですが、
周囲の壁や家具などは、より色あざやかに仕上げられています。
たかこさんも、シャガールに負けず色彩の魔術師のよう。
きれいに印刷されていますが、切手絵の原画は、より素敵でしょうね。
3月は私の誕生月でして、思わぬプレゼントをいただいた気持ちです。


<たかこの世界14・第12回まじめに川柳>

「自由吟」 (島田駱舟、中川洋子共選)

 逃げてきた籠を恋しく思う鳥
        (中川洋子選)


「ドライ」 (柴田比呂志、東川和子共選)

 選外でした;


私が、いいなあ!と思ったのは

「自由吟」

 本当はもう散りたいという造花 宮本信吉

 あてのない手紙を書いて冬になる 相田柳峰

 寂しくて月光を編む指の先 みつ木もも花

 何事もない毎日が忙しい 石神紅雀

 生真面目な背中で立っているドミノ 春日綾乃


「ドライ」

 ドライアイで悩んでいます仁王様 圦山 繁

 一人居へフリーズドライ詰め合わせ 今村美根子

 それからをドライに生きるかぐや姫 平井美智子

 吊るされて干されて蛸の良い仕事 青砥和子

 本日もココロ乾燥注意報 岡本 恵

 

です。




   
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鈴鹿ネット句会・3月「腹」

2024-03-21 | ネット句会

<鈴鹿インターネット句会・3月>

「腹」
 (平井美智子・西山竹里共選)

 満腹の獣むやみに狩りはせぬ
          (平井美智子選、西山竹里選)

 腹いせの酒は酔わせてくれぬまま
          (西山竹里選)


私が、いいなあ!と思ったのは


 センサーで知らせてほしい腹八分 ねこママ   

 別腹を連れて二次会三次会 よしひさ

 腹割って話せばふたりとも黒い 糀谷和郎

 飲み込んだ言葉を腹の足しにする  柴田比呂志


 料亭で腹を割ったり探ったり 甲斐良一

 腹巻の中のお金は暖かい 原徳利

 握手から始まる腹の探り合い 老人生

 針千本たやすく消化できる腹 圦山 繁 
 

 

です。




   
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川柳すずか 363(6年3月)号掲載句

2024-03-15 | 川柳すずか

<すずか路>

 菜の花も慌てて咲いた菜種梅雨

 梅柄の母の着物を着る二月

 難点は羽織にカバーしてもらう

 祈りこめ雨水に飾るおひなさま

 断水も改善できぬままの能登


<小休止> 前月号より推薦句

ワルグチを言うときなぜかみな元気
       (西岡ゆかり選)

<課題句>

「ぼちぼち」(青砥たかこ選)

 愚痴こぼしはじめた酒を切りあげる


「違う」(岩谷佳菜子、加藤吉一共選)

 選外でした;


<自由吟> (橋倉久美子選) 

 選外でした;;


<誌上互選> 

「雑煮」

 お雑煮に飽きたら探す餅レシピ(6点)

 お雑煮で揉めた結婚一年目(5点)


<ポストイン> 

 スイッチを切って無音の夜にする
       (三重番傘に掲載)


  

   
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川柳信濃川「あい」

2024-03-13 | 誌上大会

川柳信濃川の「第20回新春誌上大会」
に参加させていただきました。
参加者は654名。

選者:相田柳峰、伊藤三十六、岡本聡、𠮷崎柳歩、千島鉄男、  
   今田久帆、梶田隆男、麻井文博、高橋みっちょ、前田楓花、
   大内せつ子、みぎわはな、平井美智子、北村あじさい、
   坂本加代、氷見心咲、瀬戸れい子、楠根はるえ、太田紀伊子

「あい」

 会いたくて会えないままの人ばかり
     (相田柳峰選・佳作、伊藤三十六選・地位
      𠮷崎柳歩選・五客、千島鉄男選・佳作
      北村あじさい選・佳作)

 戦争が間合いを詰めてくるこわさ
     (𠮷崎柳歩選・五客、千島鉄男選・五客)


以下は上位の入選句です。


 アイドルは村で一人の赤ん坊 寺井一也

 合鍵を返して鳥になるところ 三浦幸子

 人情を分け合い能登が耐えている 海東昭江

 無造作にポイと置かれる父の愛 土居新山

 挨拶がハモって返る通学路 岸本宏章

 ふるさとでぼくの昔に逢いました 田辺卓樹

 挨拶がこんなに晴れた空にする 木村奈生美


 これもまた愛のかたちか墓仕舞い 椎名七石

 地球への愛が足りない温暖化 村上耕一

 真実をあいまいにする多数決 前田一天

 出会いから春の音符が弾みだす 島津敏子

 いい色に咲かそう愛を追肥する 北村 功

 熱したり冷めたり愛は気ままです 前山利栄

 苦も楽も程よく煮込む夫婦愛 泉 清純





   
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豊橋番傘 令和6年3月号掲載句

2024-03-12 | 豊橋番傘

<推せん句> 1月号近詠より 鈴木順子

 踏みしめて生きるはかなく過ぎる日々


<近詠>

 今年こそお会いしましょう春暦

 日が長くなるとそわそわしだす靴

 いちねんの早さにあせるカレンダー

 悔いひとつ減らす会いたいひとに会う


<2月句会・課題句>

 「冴える」(小松くみ子選)

 無心で弾くピアノの音が冴えてくる


 「しかも」(戸沢ほたる選)

 お値段が手ごろでしかもうまい酒


 「途中」(鈴木順子選)

 途中下車しながら出会う旅の花





   
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川柳展望ネット句会・2月「救う」

2024-03-11 | ネット句会

<川柳展望ネット句会・2月>

「救う」 (互選)

  介護する人にも必要な救い(11票)

  老犬のぬくさにいつも救われる(3票)


5票以上が入選で、1句入選できました^^

私が選ばせていただいたのは、以下の句です。
 

  折れそうな心を救う青い空 やんちゃん(9票)

  救命に葛藤のあるトリアージ 椎野良子 (9票)

  救われたニュースを見ては救われる 青砥たかこ(6票)

  補助線を引いて救った規格外 高浜広川(6票)

  黒ずんだバナナケーキにして救う まちのあき(3票)

  郵便の遅さを救うEメール 坂本加代 (3票)

  食べるのは食品ロスを救うため なつなつまーず (1票)





      
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静岡たかね 2024年3月号掲載句

2024-03-01 | 静岡たかね

<せんりゅう広場 富岳抄>

「年明けに」

 元旦の平和揺るがす能登地震

 阪神の地震刹那によみがえる

 せめて雪ひどく降らないでと祈る

 助け合う互いに傷を負いながら
  

<1月句会>

「ドラゴン」(澤崎ひらめ選)

 父と観た燃えよドラゴン懐かしい

 ドラゴンよこの世の戦火消し去って


「餅」(荒牧やむ茶選)

 餅つきのためにうさぎが帰る月


「元気」(佐野由利子選)

 元気だとわかれば用のすむ電話

 きのうまで元気でしたという訃報(五客)


「自由吟」(互選)

 被災地の寒さやわらぎますように(2票)
 



      
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