<北海道新聞社説> 住民の命を守る もっと危機意識を持って
東日本大震災の発生からきょうで3年を迎えた。
マグニチュード(M)9・0の巨大地震が東北地方の沿岸部を襲い、続く津波で集落が次々と崩壊していく惨状がいま、あらためてよみがえる。
ひとたび大地震が起これば、長い海岸線を持つ北海道にも同様の惨事が襲いかかるのは自明の理である。
大震災では道内も、死者を含む大きな被害に直面したことを思い起こさなければならない。
だが、この3年間の道や自治体の取り組みは果たして万全だったといえるだろうか。道の被害想定が震災前から見直されていない現状が危機感の欠如を物語る。
立ち止まることは許されない。道民一人一人が防災意識を高めたい。備えに一刻の猶予もない。
■浸水域に45万人居住
道内では太平洋沖を震源とする巨大地震がほぼ500年間隔で起きている。この発生歴を踏まえれば「次」は切迫している。
道は2012年の浸水域などの見直しで津波高を最大35メートルとし、道東や日高、胆振管内から道南まで大津波が襲来すると想定した。
日本海側とオホーツク海側を含めると45万人もの人が津波に襲われる浸水域に暮らしているとされる。その緊張感をどれだけの住民が共有しているだろうか。
道は犠牲者数や経済に与える打撃など被害想定の改定を急ぎ、市町村も対策を加速すべきだ。
大震災から3年を機に、北海道新聞が行った調査では、道内の半数近い沿岸自治体が、なお津波避難計画の策定を終えていないことが明らかになった。
避難計画が策定されなければ「避難困難地域」は特定できない。最優先で取り組まねばならない。
釧路市は避難困難地域に限って車での避難を認めることにしたが、住民の不安は払拭(ふっしょく)されていない。過去の地震で渋滞が生じ、避難先にたどり着けなかったからだ。
同様の悩みを持つ自治体と情報交流を進め、知恵を絞りたい。
■「南海」は対策が進む
過去3年間、政府の検討は「南海トラフ」と「首都直下」大地震に重点が置かれてきた。
東海地方から四国、九州まで太平洋岸に広く大津波をもたらす南海トラフ地震の避難困難地域では、すでに避難タワーやシェルターの建設が進められている。
施設整備費の3分の2を国が補助する制度が創設され、対策が年々、拡充されている。
これに対し、大きなリスクを抱える道内が置き去りにされてきた感は拭えない。
道には深刻な状況を政府に訴え、意識を変えさせる責務がある。
地域によっては県が主体になって避難施設を建造している現状からすれば、道には住民の安心を保障する強い指導力も見えない。
東日本大震災は、壊滅的な被害を受けた地域に対し、外部からの早急な物資補給や人材支援が欠かせないことを教訓に残した。
こうした体制を重層的に強化していく必要がある。
■泊再稼働に道開くな
東京電力福島第1原発の過酷事故は、避難の困難さを見せつけた。風向きに応じた避難先の変化に対応できず、結果的に放射能被害を拡大させた。
北海道電力泊原発で事故があれば、同様の事態も想定される。
泊原発は12年5月から、3基が全停止しているが、敷地内には使用済み核燃料などが保管されている。稼働していないからといって安心できない。
泊原発から30キロ圏内にある後志管内の13町村はそれぞれ、今月7日までに住民約7万7千人の避難計画を策定した。
泊原発は積丹半島の付け根に位置し、気象条件に応じて古平町に通じる当丸峠が通行止めになる。
国道5号など、限られた道路を避難ルートに想定していることを考えれば、避難計画の実効性は極めて心もとない。
高齢化が進行する地域のお年寄りなど弱者をどう守るか。重い課題でありながら、こうした取り組みは進んでいない。
原発からわずか9キロにある障害者支援施設「岩内あけぼの学園」(岩内町)は、事故に伴う長期避難に備え、十勝管内清水町や伊達市の施設と、相互に避難支援を行う協定を独自に締結した。
こうした試みを歓迎したい。
泊周辺の現状をみれば、道は安易に再稼働に道を開くことがあってはならない。
泊周辺の住民が置かれた厳しい状況を見据え、命を守り抜く施策を強く打ち出すべきだ。