事実は1つですが、その懸念する問題点、政治的な関心は各誌で異なっています。
<琉球新報社説>クリミア住民投票 監視団の派遣で軍事衝突回避を
ウクライナ南部クリミア半島にあるクリミア自治共和国と特別市で実施されたロシア編入の是非を問う住民投票で、96%以上の圧倒的多数がロシア編入を支持した。この投票結果を直視したい。
少数民族クリミア・タタール人の多くは投票を棄権したとされる。住民投票は共存共栄してきた住民を勝者と敗者に引き裂いた側面もあり、手放しには喜べない。
投票はクリミアに展開したロシア軍がにらみを利かせる中、(1)ロシアに編入されるか(2)ウクライナにとどまるが、より強力な自治権を定めた1992年の独自憲法に戻るか-の二者択一で行われた。
クリミアを含めウクライナ国民が国の在り方を自ら決める自己決定権は基本的に尊重しなければならない。ただ、今回の投票は自治共和国政府が1日に「3月30日実施」と発表しながら、約2週間も前倒ししており拙速だ。ロシアの事実上の軍事介入も相まって、今後、民主的正当性が問われよう。
これ以上の混乱は何としても回避すべきだ。自治共和国の6割を占めるロシア系住民と、クリミア・タタール人など他の民族は冷静さを保ち、間違っても相手に危害を加える愚を犯さないでほしい。
国連安全保障理事会は、事前に住民投票の無効を主張する米国提出の決議案を採決。常任理事国のロシアが拒否権を行使し、否決された。中国は棄権したが、その他の13カ国は賛成した。クリミアのロシアへの編入が国際社会の幅広い支持を得るのは困難だろう。
プーチン政権が編入を強行すれば、主要国(G8)による冷戦後初の領土拡張となる。そうなれば、ロシアは国際社会の批判にさらされ、国際的孤立を免れまい。
ケリー米国務長官は住民投票について「ウクライナの国内法に反している」と強調し、ラブロフ・ロシア外相は「完全に国際法と国連憲章に適合している」と主張する。両者は意見の隔たりが大きい一方で、国際監視団の派遣による混乱収拾なども模索する。軍事的衝突の回避に向けた、建設的かつ具体的な取り組みを支持したい。
優先すべきは、ウクライナ国民が自国の将来について丁寧に合意を形成することだ。米ロは自国の利害を優先するあまり、クリミア、ウクライナをこれ以上混乱に陥れてはならない。国連を中心にあくまで平和的解決を追求すべきだ。
<信濃毎日社説>クリミア問題 新たな冷戦を危ぶむ
ウクライナ南部のクリミアで行われた住民投票で、ロシア編入を支持する声が圧倒的な数を占めた。
ロシアの軍事的な威圧下で行われた住民投票は認められないとするウクライナや欧米諸国と、クリミアの実効支配を強めるロシアとの緊張が極度に高まっている。1989年の東西冷戦終結以来、最悪といわれる状況を招いた。プーチン政権がクリミアを併合すれば対立は決定的となり、新たな「冷戦」へ突入する恐れさえある。国際秩序は変調を来し、世界の政治や経済にどんな悪影響が出るか分からない。
ウクライナ憲法は国境変更に関する住民投票は全土で実施するよう定めている。正当性に疑義がある以上、ロシアは併合や実効支配の強化をやめるべきだ。世界の安定に重い責任を持つ国連安全保障理事会の常任理事国として、責任ある対応を求める。
クリミアは旧ソ連時代の1954年、ロシアからウクライナに帰属を変更され、ソ連崩壊後に自治共和国となった。住民の6割がロシア系だ。先月、ウクライナに親欧米政権が誕生すると、独立志向が一気に高まった。共和国議会はロシア編入を求め、住民投票で賛否を問うことを決めた。
ロシアはロシア系住民の保護を訴え、軍事的圧力をかけるなど、動きを後押しした。
国連安保理では住民投票に反対する米国提出の決議案を採決した。しかし、常任理事国の持つ拒否権をロシアが行使したため否決に追い込まれている。今後の焦点は、ロシアが編入に踏み切るかどうかだ。日本を含む先進7カ国が投票結果を拒否している。強行すれば、冷戦後初の主要国による領土拡張になり、制裁強化や国際社会での孤立化は避けられないだろう。
米ロの緊張が激しくなれば、北朝鮮やイランの核問題、シリア情勢をめぐる対応など、大国の協調が求められる問題の解決をより難しくする恐れもある。
世界に与える影響が大きすぎるだけに、ロシアも欧米もこじれることを望んではいないはずだ。プーチン政権の荒っぽさを認めることはできないが、落としどころも冷静に探る必要がある。
クリミアだけでなく、親欧米派と親ロシア派が混在するウクライナの今後も予断を許さない。新たな火薬庫にならないよう、ウクライナ安定化の道筋を付ける会議の開催など、国際社会は本腰を入れなくてはならない。