現在未執行死刑囚は、133人います。殺人罪を犯した人間に対して国の法律に基づく死刑、殺人を持って償わせることに正当性があるのか。正義なのでしょうか。今回の袴田さんは、48年間、監獄に収監されていました。そして、死の恐怖に耐えてきました。そのために、精神的、肉体的な苦痛を与えられてきました。結果的に、釈放されたとしても48年という袴田さんの人生は取り戻すことは出来ません。検察、警察が国家権力として犯罪捜査を行うとしても、刑事犯を捏造する、自白を迫ることの不正義は許してはならない。
証拠資料の開示をしなかったことが死刑判決に影響を与えたとしています。21世紀という時代になっても、帝国憲法時代の司法、司法権力の横暴で、強圧的な操作、訴訟がまかり通るような事態を許してはならないと考えます。裁判所、検察は自らの不当な捜査、訴訟手続きを反省し、袴田さんの無罪を早急に確定し、謝罪と名誉の回復を行うべきです。
<毎日新聞社説>
捜査側の証拠捏造(ねつぞう)の疑いにまで踏み込んだ事実上の無罪認定だ。
静岡県で1966年、一家4人が殺害された袴田事件で、静岡地裁が再審開始の決定を出した。袴田巌元被告(78)のこれ以上の拘置は「耐え難いほど正義に反する」との地裁の決定で、袴田元被告は逮捕から48年ぶりに釈放された。
再審に費やした時間は、あまりに長すぎた。検察は決定に不服があれば高裁に即時抗告できる。だが、決定の内容や袴田元被告の年齢を考慮すれば、再審裁判をするか否かでこれ以上、時間をかけてはならない。速やかに再審裁判を開始すべきだ。
再審の扉は、新証拠が提示されなければ開かれない。今回の第2次再審請求審では、確定判決で犯行時の着衣とされたシャツなど5点の衣類のDNA型鑑定が焦点となった。
地裁は、「血痕が袴田元被告や被害者と一致しない」とした弁護側のDNA型鑑定を新証拠と認め、袴田元被告を犯人とするには合理的な疑いが残るとした。「疑わしきは被告人の利益に」の刑事裁判の原則が再審にも当てはまるとした最高裁の白鳥決定に沿った妥当な判断だ。
決定は、5点の衣類が、事件から1年以上経過して発見されたことを「不自然だ」と指摘した。「後日捏造された疑いを生じさせる」として、捜査当局が、なりふり構わず証拠を捏造した疑いまで投げかけた。
証拠の捏造があったとすれば許されない。確定裁判でも45通の自白調書のうち44通の任意性が否定され、証拠不採用になった。証拠が不十分な中、犯人視や自白の強要など不当捜査が行われた疑いが残る。静岡県警は捜査を徹底検証すべきだ。
検察の責任も大きい。第2次再審請求審では、公判で未提出だった約600点の証拠が地裁の勧告を受けて新たに開示され、弁護側が確定判決との矛盾点などを突いた。
裁判の遂行には、公正な証拠の開示が不可欠だ。東京電力女性社員殺害事件や布川事件など近年、再審無罪が確定した事件でも、検察の証拠開示の不十分さが指摘された。被告側に有利な証拠を検察が恣意(しい)的に出さないことを防ぐ証拠開示の制度やルールが必要だ。
一連の再審請求審を振り返れば、裁判所も強く反省を迫られる。81年提起の第1次再審請求審は、最高裁で棄却されるまで27年を要した。自由を奪われ、死刑台と隣り合わせで過ごした袴田元被告の長い年月を思うと、迅速な裁判が実現できなかったことが悔やまれる。
半世紀近い塀の扉を開けたのは最新のDNA型鑑定の成果だが、適正な刑事手続きや公正な証拠開示など国民に信頼される刑事司法の原点を改めて確認したい。
<北海道新聞社説>
確定判決の有罪認定を揺るがす新証拠がいくつもある。かねて指摘されていた警察の証拠捏造(ねつぞう)をうかがわせるものも少なくない。
裁判をやり直すとした判断は当然だ。死刑が執行されたら取り返しがつかない。もっと早く再審を認めるべきだった。
強盗殺人罪などで死刑が確定していた元プロボクサー袴田巌(はかまだいわお)さん(78)の第2次再審請求審で静岡地裁は再審を開始し、死刑と拘置の執行を停止する決定をした。本人は48年ぶりに釈放された。
犯行時に着ていたとされた衣類を「本人のものでも犯行着衣でもない」と認定し、証拠捏造の疑いを指摘した。
衣類の血痕のDNA型鑑定などに基づく判断だ。「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と弁護側主張を全面的に認めた。
検察は即時抗告をすべきではない。「国家機関が無実の個人を陥れ、45年以上にわたり身体を拘束し続けた。刑事司法の理念からは到底耐え難い」と指弾する決定を真摯(しんし)に受け止める必要がある。
早急に再審で袴田さんの名誉を回復すべきだ。高齢や長期拘禁による心神耗弱も考慮してほしい。
1966年、静岡県清水市(現静岡市)で、みそ製造会社の専務一家4人が殺害された。
従業員の袴田さんは事件の1カ月半後に逮捕され、強引な取り調べで自白したが、その後否認を貫く。一審死刑判決は自白調書の大部分を証拠採用せず、衣類を最大の物証に有罪を導いた。
その衣類は事件の1年2カ月後、みそタンクから見つかったとされる。あまり変色していないなど不自然な点は多く、でっち上げられたとすれば納得がいく。検察と警察は捜査の検証が不可欠だ。
今回の結論は、裁判官の職権による勧告を受けた検察証拠の大量開示と鑑定技術の進歩による部分が大きい。だが、これまでの裁判で正しい結論を出せなかったか。刑事裁判の鉄則「疑わしきは被告人の利益に」などに照らすとその疑念が消えない。
一審では3人の裁判官のうち1人が無罪を主張した。前回の再審請求審を含め、衣類の一部が袴田さんには小さすぎるなど有罪認定への疑問はいくつも指摘された。最高裁も検証が求められる。
裁判員裁判などに適用される証拠開示制度を再審やその請求審に拡大する。再審の門をもっと広げる。検察の即時抗告は認めない。
誤判を告発したと言える決定を契機に再審制度を見直したい。