政治に金がかかることは確かです。しかし、一部の政党、政治家が法律に基づく選挙資金ルールを無視して、政治を金で買うような選挙運動、政治活動を野放しにすれば、議会制民主主義は形骸化し、崩壊します。今回の検察の判断と対応は、彼らに組する政治家、政党の思惑を入れた判断だとしか言いようがありません。5000万円もの領収書なしの現金が大手医療機関から都知事に渡り、たまたま、別件でこの政治資金が闇から顕在化したところでその正当性が問われました。しかし、略式起訴で、50万円の罰金で終了などが社会的常識からいって許されると考えているのでしょうか。
前日、袴田さんが48年間も無実を訴えて、死刑判決を受けて監獄に収監され、人生の大半を死の恐怖にさいなまれた検察、司法の対応があったばかりでした。この落差を彼らはどう考えているのでしょうか。支配層には甘く、庶民、普通の国民には理不尽な司法対応がされる。このような検察、司法の判断と対応が許されることは公平性、正当性があるのか疑問です。
猪瀬前都知事が辞任し、責任を取ったので軽い刑事責任を問うたのだとする言い訳は通用しないし、政治と金の問題を闇から闇に葬ったのだと。政治を金の力で捻じ曲げるような行為が、なぜ、どのようなからくりで、企業と自治体の長で行われたかを司法の責任で追及し、あきらかにすることこそが求められる司法責任であったと考えます。
<毎日新聞社説>
東京都の猪瀬直樹前知事が、医療法人徳洲会グループから5000万円を受け取っていた問題で、東京地検特捜部が、公職選挙法違反で猪瀬氏を略式起訴した。選挙資金を選挙運動費用収支報告書に記載しなかった虚偽記載の罪だ。
昨年12月の退任表明の記者会見で、猪瀬氏は「個人的に借りた」との釈明を貫き、選挙資金であることを否定していた。だが、特捜部の取り調べに対し猪瀬氏は違反を認め、東京簡裁の略式命令に応じて罰金50万円を支払った。
28日会見した猪瀬氏は、選挙資金だったことや、徳田虎雄・徳洲会前理事長に対し、自ら1億円の資金提供を要請したことを認め、そうした事実を否定してきた発言を「おごりがあったゆえに述べた」として撤回し、謝罪した。 記者会見や都議会の審議で、虚偽の弁明を重ねた罪は、法令違反の資金提供で政治不信を招いたことと同様に重い。猪瀬氏はそう肝に銘じるべきだ。
猪瀬氏は都知事選を前にした2012年11月、徳田虎雄氏の次男である徳田毅前衆院議員から5000万円を受け取った。特捜部が公選法違反容疑で徳洲会に強制捜査に入った後の昨年9月、徳洲会側に5000万円を返却した。5000万円の提供を決めた徳田虎雄氏は、特捜部の調べに「選挙に使ってもらうため提供した」と供述したとされる。猪瀬氏は、28日の記者会見でも、昨年末時点の記憶のあいまいさを強調したが、提供側の証言に言い逃れがきかなくなったのが現実ではないのか。
それにしても、現金で渡された5000万円は、選挙応援目的だけだったのか。徳田虎雄氏は、東京電力病院取得の方針について猪瀬氏と会話を交わしたというが、特捜部は、告発されていた贈収賄容疑については、容疑不十分で不起訴の結論を出した。だとしても、現金の授受にはいまだ不透明さがつきまとう。
特捜部は、5000万円が実際に選挙に使われた形跡がなく、知事を辞めたことなどの事情を考慮し、公判請求しなかったようだ。だが、この判断には疑問が残る。公判が開かれれば、検察側が提示する証拠、さらに検察、被告側双方の陳述などを通じ、事件の動機や背景が公開の法廷で明らかにされる。
略式起訴では、こうした手続きが割愛される。裁判を通じ、真相の一端を知る機会が失われた。
選挙資金や政治資金に関するこうしたケースが略式起訴で済まされれば、政治家の金に対するけじめが甘くなり、結果的に政治不信を拡大させるのではないか。