紛争を話し合いで解決することを基本とすれば、紛争当事国にいろいろな意見があったとしても戦争、武力衝突は避けることができます。この南シナ海南沙諸島問題はいまに始まった話ではありませんし、ベトナム、フィリピン、中国が話し合いを原則として紛争解決に努力すべき問題です。
ここに、世界の警察官役を買って出たアメリカ、アメリカ軍が関与することのほうが危険性をまし、紛争を軍事衝突に拡大する可能性すらあります。その目下の日本政府、自衛隊が関与することは憲法上も許せることではありません。また、原油輸送ルートであるから死活的問題であるとの屁理屈は成り立つはずもありません。
<信濃毎日社説>安保をただす 南シナ海問題 軽率な発言は危険招く
南シナ海をめぐり米国と中国の間で緊張が高まっている。中国は南シナ海の大半を自国領と主張し、フィリピンやベトナムなど周辺各国と領有権争いを続けてきた。
現在、岩礁を埋め立て実効支配を強化している。危機感を募らせた米国は強硬姿勢に転じた。けん制を強めている段階だ。
この渦中に日本が入っていく恐れが出てきた。
中谷元防衛相は一昨日、シンガポールで開かれた「アジア安全保障会議」で講演し、中国を念頭に東南アジア諸国連合(ASEAN)など関係各国による南シナ海の監視強化を提唱した。
4月に改定した日米防衛協力指針の内容も紹介し、日米が連携して安全保障問題に関与していく方針まで語っている。
安保関連法案は国会で審議が始まったばかりだ。中谷氏の発言は安保法制の整備を前提に、自衛隊の南シナ海での活動を始めることを宣言したに等しい。政府の法案説明に納得していない人が多い。国民の理解を得る前に、自衛隊の活動拡大を国際社会にアピールするのは問題だ。
法案は米国などとともに中国に対抗することを意識している。安倍晋三首相は委員会での答弁で、他国軍を後方支援する自衛隊の活動対象地域として、南シナ海を否定しなかった。
米国には哨戒活動など自衛隊との共同行動を期待する声がある。日本が協力すれば東シナ海の尖閣問題は緊迫化するだろう。衝突のリスクが高まるのは必至だ。
国会は中谷氏の発言の問題点も含め、南シナ海問題への関わり方について議論を深めるべきだ。関係改善が水泡に帰さぬよう、慎重に対応してもらいたい。
中国は、先日発表した国防白書の中で、海上での軍事衝突に備える方針を示した。米国も軍用機や艦船を南シナ海の埋め立て地近くへ出す考えを示している。
中国は対米協調を掲げる一方、南シナ海での軍事的活動を控える考えはないようだ。時間を稼ぎつつ、実効支配の既成事実化を進めていくとみられる。強引で一方的なやり方は認められない。
まずは、軍事衝突を招かぬためのルール作りを急いでほしい。中谷氏も講演でルールの必要性に言及したものの、取り組みは弱い。日本はこうした面でこそ、もっと力を注がねばならない。