政治的な独裁が、国民に何をもたらすかを検証する現実的な事例として考えてみることが必要ではないかと思います。また、今回の選挙結果の一因が経済的な低迷であることを考えれば、安倍、麻生、日銀黒田総裁がとっている日銀による国債買い取り、円安が長期的に見れば、ハイパーインフレと国家財政を破綻させる要因となることを恐れなければなりません。
トルコばかりではなく、独裁的な政治、政権が何を国民にもたらすのかを考えなければと感じます。民主主義とは効率的にはよくなくても戦争などの最悪の政治選択を現実化しない政治、思想なのだと感じます。不況がナチス、安倍、自公極右政権を作り出しているのかもしれません。しかし、その根本要因を作り出しているのも彼らの政治思想なのですから笑ってしまいます。新自由主義的な主張に行き着く自由経済、弱肉強食型の経済、政治をやめさせなければなりません。
<F.T.>
レジェップ・タイイップ・エルドアン氏には常に二面性があった。トルコの総選挙でも両面が示された。一方には、12年にわたり10回連続で選挙に勝った、才能に溢れ、時として改革派の政治家がいる。
もう一方には、スルタンになりたいと思っている、傲りと妄想に取りつかれた人物がいる。この人物はトルコ人を家父長の私財――いわゆる「我が国民」――として扱い、この国がエルドアン氏とトルコを貶めているという巨大な陰謀を撃破すると語っていた。
昨年、首相から大統領に転じたエルドアン氏は、6月7日の総選挙の対象者ではなかった。だが、有権者が放ったメッセージは、同氏に向けられたものだ。
エルドアン氏率いる公正発展党(AKP)は、憲法を改正し、議院内閣制から大統領が行政権を持つ大統領制へ移行できるだけの絶対多数を得られないどころか、過半数さえも失うことになった。大統領制へ移行すれば、エルドアン氏は既に獲得した以上の権限を得られるはずだった。
色あせたオーラ
ネオイスラム主義のAKPは依然、野党勢力よりはるかに優勢だ。近代トルコ共和国の建国の父、ムスタファ・ケマル・アタチュルクから受け継いだ遺産としてトルコを運営してきたケマリストのエリート層から、信心深い田舎者として疎外されてきたアナトリア地域の保守派層は、自分たちを受け入れてくれたのがエルドアン氏だったことを知っている。新しい学校、道路、空港、そして尊厳の中にそれがはっきり見て取れる。
エルドアンの政治集会は復古的だ。同氏は今なお、すべての政敵より高くそびえたっている。しかし、その後光は褪せた。トルコ国民はエルドアン氏の思い上がった個人的野心に「ノー」を突き付けた。
AKPは2011年に50%近い得票率で327議席を獲得したが、今回、得票率を41%、議席数を258に落とした。トルコ議会の定数は550で、276議席の過半数を大きく下回る議席数だ。
エルドアン氏の強敵は、ケマリストの共和人民党(CHP)ではなかった。同党の得票率は25%で、近代的な社会民主主義政党になることに苦労している。
また、強敵は、得票率(16%)を多少伸ばしたものの、チュルク語族至上主義の洞窟から抜け出せない民族主義者行動党(MHP)でもなかった。
エルドアン氏のオーラの陰りに追い討ちをかけたのは、支持層をリベラル派、左派、女性に広げた親クルド派連合の国民民主主義党(HDP)だった。
これは矛盾しているようにも見える。何しろエルドアン氏は、トルコ人と少数民族のクルド人との対立を終わらせるため、そして30年に及ぶクルド労働者党(PKK)による武装闘争を終わらせるために、服役中の指導者アブドラ・オジャラン氏と交渉するなど、最大限の努力をしてきた人物だ。
しかし昨年秋、シリア国境のトルコ軍戦車から見える場所で、「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」のジハード主義者がコバニを包囲すると、エルドアン氏はPKKと関係のあるシリアのクルド人をISISと同一視した。
トルコ南東部各地でクルド人が暴動を起こし、コバニは難を逃れ、クルド人の大義の信用は跳ね上がり、クルド人の間のエルドアン氏の信用は消え去った。
カリスマ的な人権弁護士、セラハッティン・デミルタシュ氏率いるHDPはこの状況をうまく利用したが、エルドアン氏の押し付けがましい権威主義に抗議した2013年のゲジ公園のデモの活動家も取り込んだ。
景気減速で不満が表出
デミルタシュ氏は、議会入りするために必要な10%の得票率を突破できることに賭けた。HDPは結局、約13%の票を稼ぎ、約80人の国会議員を獲得した。HDPが10%の壁を超えられなかったら、その議席はすべてAKPが手に入れていた。
ほかにもAKPの覇権を少しずつ蝕んでいったものがある。トルコ経済が成長していた時には、AKP指導部の行動に疑問を差し挟む支持者は少なかった。エルドアン氏の側近にまで及ぶ汚職の証拠は2014年に4人の閣僚を辞任に追い込んだが、大統領選挙でのエルドアン氏の勝利を阻むことはなかった。
現在、トルコ経済は失速し、1人当たりの所得は2007年以降伸びていない。トルコリラは史上最安値をつけている。エルドアン氏の突飛な行動は自陣営でさえ厳しい目を向けられている。
ジハード主義勢力の脅威がトルコの国境に迫るにつれ、トルコの西側同盟国に対するエルドアン氏の怒号は大きく鳴り響くようになっている。
今後の展望は
これから何が起きるのか。連立を組むことは難しく、少数与党政権は長続きしないだろう。
そしてエルドアン氏が自ら選んだ首相後継者のアフメト・ダウトオール氏はもっと短命に終わる。首相の座を与えられたが、法の支配を完全に無視する大統領の陰に追いやられたダウトオール氏は、AKPの挫折の責任を取らされることになる。
エルドアン大統領はその権限を行使し、再選挙を実施するかもしれない。大統領は、トルコを自身が体現しているような偉大な国にするには、議院内閣制は弱すぎると述べている。エルドアン氏にとっては、今回の選挙結果は単に自身の主張の正しさを証明するものだ。もっとも、再選挙でAKPが良い結果を出すかどうかは分からない。
一方、エルドアン氏とともにAKPを創設し、エルドアン氏の前に大統領を務めたアブドラ・ギュル氏が、ついに党内で本領を発揮する可能性もある。ギュル氏は行政権を持つ大統領制に反対していたし、支持者もまだいる。デミルタシュ氏はすでに1度、エルドアン氏の野望を挫いた。もしかしたら今度はギュル氏の番かもしれない。