今日(15日)午後1時30分、松野文科相が記者会見を開き、民進党が再調査を要求してきた、加計学園獣医学部新設に関して官邸が文科省に圧力をかけていたのではないかと疑われる根拠とされた内部文書19のうち14の存在を確認したと発表した。そのため週末に投稿する予定だったブログを急きょアップすることにした。
加計学園獣医学部新設に関して、「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」などと記載された内部文書が文科省にあることを朝日新聞が報じたのは5月17日である(朝刊1面トップ)。その時点では朝日は情報源を秘匿していた。
この報道を受けてメディア各社が一斉に後追い取材を始めた中、文科省の前事務次官・前川喜平氏が25日に記者会見を開き、内部文書の存在を明言した。前川氏によれば、文書は昨秋、専門教育課の担当者から示されという。「あったものをなかったことにはできない。公平・公正であるべき行政が、(官邸の圧力によって)歪められた」と怒りをあらわにした会見だった。
この記者会見の場で、読売新聞の記者がとんでもない質問をした。「守秘義務違反ではないか」と前川氏を追及したのである。どこが守秘義務違反にあたるのか。前川氏の告発が守秘義務違反になるなら、今後、内部告発する人はいなくなる。しかも全メディアが大々的に報じた「前川の乱」を読売は完全に無視したようだ。インターネットで「YOMIURI ONLIN」のページを開き「前川喜平 記者会見」のキーワードで記事検索したが、会見記事はまったく掲載されていないことがわかった。
実は読売は5月22日の朝刊社会面で、連載漫画の隣に3段抜きの大見出しを付けて「大事件」を報じていた。その記事のメイン見出しは「前川前事務次官 出会い系バー通い」、サブ見出しは「文科省在職中、平日夜」。強盗強姦事件並みの扱いだった。そのため前川氏の記者会見でも、記者たちから読売の報道は事実かという質問を浴びせられた。前川氏は事実を認め「貧困家庭の教育環境を調査するのが目的だった」と述べたが、この弁解はあまり説得力があるとは私も思えない。
前川氏は偽名を使って出会い系バーにかなりの頻度で出入りしていたようで、かつ特定の女性と30回ほどそのバーで落ち合い、一緒にバーを出て小遣いまで渡していたという。その女性にインタビューをした週刊誌の報道によれば、前川氏との性的関係はなく、いろいろ相談に乗ってもらっていただけで、父親も公認していたという。
が、もしそういう付き合いだったら、なにも「売春の温床」と言われるようないかがわしい場所で毎回会う必要などないはずだ。私だったら、シティホテルのロビーなり喫茶店やファミレスで落ち合う。その方が金もかからないし、人目を気にする必要もない。
前川氏の行動は文科省の事務方トップとしては軽率のそしりを免れ得ないと思うが、氏の出会い系バー通いを報じた読売の「大スクープ」に対して、競合するメディア界から批判の渦が巻き起こった。メディア界だけでなく、ネット上でも炎上した。問題にされたのは2点だ。
①そもそも犯罪行為でもない一個人のプライベートな行動を、あたかも重大犯罪であるかのような扱いをしてもいいのかという批判。
②いったい、この記事の情報源はだれかという疑問。
とくに情報源については社会的にも大きな話題を呼んだ。前川氏の告発つぶしのために官邸がリークしたのではないかという推測がネット上にも氾濫した。しかし、官邸が前川氏のプライベートな行動をいちいち監視したりするのだろうかという疑問を私は持った。考えられるとしたら警察か公安といった権力機構ではないか、とはだれもが抱く疑問であろう。犯罪とは無関係な一般人(前川氏の場合は私人とは言えないかもしれないが)の日常を公安なり警察といった権力機構が監視していたとしたら、すでに「共謀罪」の前提となる一般人に対する監視活動を権力機構が始めていたことを意味する。
後でわかったことだが、前川氏が在職中、官邸から呼び出しを受けて、出会い系バー通いについて注意を受けていたようだ。そしてそれ以降、前川氏はバー通いをぷっつりやめている。一体、だれが官邸に前川氏の出会い系バー通いを通報したのか。そう考えると、読売にリークしたのは官邸しかありえないと思える。
しかも時期的には官邸は極めて不利な状況にあった。前川氏が告発した文科省の内部文書がなかったことにしないと、安倍総理に大きな傷がつく。とくに安倍総理は国会で、「もし私が加計学園のために便宜を図ったとしたら、総理の座にはいられないし、議員もやめる」とまで言い切っていた。
官邸としては安倍総理を守るために、何が何でも前川証言を「でっち上げ」にしてしまう必要があった。そういう状況に官邸は追い込まれていたのだ。だから菅官房長官は前川氏に対して「文科省職員の天下り問題が明らかになっても任期満了まで事務次官の椅子に恋々としがみつこうとしていた」(前川氏によれば事実無根のようだが)、「いかがわしい場所に連日通い詰めていたような人物を信用できるか」などと個人攻撃を繰り返し、前川証言の信ぴょう性を真っ向から否定しようとしてきた。
が、いまとなっては自らまいた種とはいえ、菅官房長官がニッチもサッチもいかない状況に追い詰められてしまった。実際前川氏が証言した文書の存在が明らかになれば(実際再調査の結果、文書の存在が確認された)、「あったこと、ないこと」含めて前川氏に対する名誉棄損にすら相当しかねない個人攻撃を繰り返してきた官房長官を、果たして総理の女房役でありスポークスマンとして、これからも記者会見などでの発言を信用しろと言っても、それは無理な話ということになるだろう。
官邸の話が長くなりすぎた。読売の「スクープ」記事の話に戻る。
官邸からリークされたとしても、読売社会部の記者は出会い系バーに前川氏が出入りしていたことまでは取材でつかんだが、前川氏が出会い系バーから若い女性と連れ立ってどこに行ったのかの取材はしていない。情報をリークされた時点では、前川氏は出会い系バー通いをやめていたからだ。もしフライデーやフラッシュなどの写真週刊誌だったら、前川氏が女性とラブホテルに入るところまで追いかけて、決定的な証拠写真を抑えない限り記事にはしない。たとえ一流芸能人や有名スポーツ選手であっても、決定的な証拠をつかめない限り記事にはできない。
が、読売はそのタブーを無視してしまった。前川氏が出会い系バーにしばしば出入りしていたことまでは、バーの店員や常連客から聞き出していたようだが、女性と店を出てからの行動について、肝心の女性から証言も取らなかった。そのうえで、前川氏があたかも買春のために出会い系バー通いをしていたかのような「印象操作」(安倍総理が野党に質問をはぐらかすために多用する表現)を読者におこなったと糾弾されてもやむを得ない記事を掲載してしまったのだ。読売に対する批判が殺到したのもむべなるかなである。
ところが読売は6月3日の朝刊に原口隆則・東京本社社会部長の署名入り記事を掲載し、前川氏のプライベートな行動について、スクープ扱いの記事を掲載した理由について「公共性・公益性がある」と、完全に居直った反論と主張を始めたのだ。
まず記事に対する批判に対して「不公正な報道であるかのような批判が出ている。こうした批判は全く当たらない」としたうえで、「一般読者の感覚に照らしても、疑念を生じさせる不適切な行為であることは明らかである」「次官在職中の不適切な行動についての報道は、公共の関心事であり、公益目的にもかなうものだと考える」と居直った。
しかし、繰り返すが、読売は前川氏の出会い系バー通いを報じた3日後に前川氏が行った記者会見で、「官邸によって行政が歪められた」として「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」と、官邸による教育行政に対する不当な介入・圧力についての証言は全く無視した。記者会見に出席した読売の記者が一切記事を書かなかったのか、それとも書いた記事を読売の上層部がボツにしたのか。
確かに教育行政の事務方トップがいかがわしい場所に、目的の是非はさておいても出入りしていたことは不謹慎だとは私も思う。だが、実際に買春などの違法行為があったのかどうかのウラもとらずに、「そういう店に出入りすること自体、買春が目的だったのだろう」と読者を印象操作することを目的にしたと思われても仕方がないような報道には「公共性・公益性がある」と主張し、内部告発に踏み切った前川氏の証言には「公共性・公益性がない(と上層部が判断したのだろう)」として記事にしなかった読売ははたして「公共性・公益性」を重視するメディアと言えるだろうか。
テレビで弁護士が「読売の前川氏のプライバシーに関する報道は名誉棄損になる可能性がある」としていることについて、読売の広報部は「記事の内容は真実であり、公共性・公益性があることも明らかなので、名誉棄損に当たるとは考えていない」とうそぶいているようだが、では記者会見のとき「守秘義務違反ではないか」と前川氏を追及した読売の記者はどういう感覚を持っているのか。その記者の感覚が正しいと考えるなら、読売は「前川氏、守秘義務違反のデマ内部告発」と大々的に報じるべきだったのではないか。もはや読売は、メディアとして死んだとしか私には思えない。
※12日の民放テレビの報道で、「最初から加計ありき」ではなかったのかという疑問を裏付ける事実が判明した。昨年9月6日に加計学園の加計理事長が、その前月に文科相に就任したばかりの松野氏と大臣室で会っていたというのである。そのこと自体はすでに公になっており、国会でも「最初から加計ありきではなかったのか」と野党が松野氏を追及した。
その追求に対して松野氏は「大臣就任のあいさつに来られただけで、獣医学部の話は一切出なかった」と答弁したが、同席していた加計学園の元幹部が、加計氏が大臣に「今度四国に考えているので、よろしく」と明らかに根回しととれる話をしていたことを明らかにした。この元幹部の証言が事実であれば、松野氏の国会答弁は偽証に相当し、引責辞任は免れないだろう。
ただメディアもだらしがないのは、加計氏が松野氏の大臣就任に際しあいさつのために表敬訪問するようなことが、獣医学部新設の根回し以外にありうるのかという取材を怠ってきたことだ。もし本当に文科相が交代するたびに加計氏が新大臣を表敬訪問していたとしたら、松野氏の答弁も信用できただろうが、そうした裏付けをどのメディアも取っていない。だいいち教育機関のトップが、加計氏に限ったことではなく、大臣が変わるたびに新大臣を表敬訪問するといった習慣が文科省と教育機関の間に根付いていたのだろうか。
いや文科省だけでなく、例えば経産省や財務省、厚労省などでも大臣が交代するたびに、経産省なら主要な産業界のトップが、財務省なら金融機関のトップ、厚労省なら医療機関や製薬メーカーのトップが表敬訪問するといった習慣が霞が関には根付いていたのか。もしそうだとしたら、この習慣は官民癒着の温床を意味し、文科省官僚の天下りが舞台裏で続いていたのも当然だっただろうし、他の役所でも行われているはずだ。そういう疑問を即座に抱いて裏付け取材に走るのがジャーナリスに求められる感性のはずだ。読売を批判したメディアの記者たちも、自分たちの取材活動の手抜きを反省してもらいたい。
加計学園獣医学部新設に関して、「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」などと記載された内部文書が文科省にあることを朝日新聞が報じたのは5月17日である(朝刊1面トップ)。その時点では朝日は情報源を秘匿していた。
この報道を受けてメディア各社が一斉に後追い取材を始めた中、文科省の前事務次官・前川喜平氏が25日に記者会見を開き、内部文書の存在を明言した。前川氏によれば、文書は昨秋、専門教育課の担当者から示されという。「あったものをなかったことにはできない。公平・公正であるべき行政が、(官邸の圧力によって)歪められた」と怒りをあらわにした会見だった。
この記者会見の場で、読売新聞の記者がとんでもない質問をした。「守秘義務違反ではないか」と前川氏を追及したのである。どこが守秘義務違反にあたるのか。前川氏の告発が守秘義務違反になるなら、今後、内部告発する人はいなくなる。しかも全メディアが大々的に報じた「前川の乱」を読売は完全に無視したようだ。インターネットで「YOMIURI ONLIN」のページを開き「前川喜平 記者会見」のキーワードで記事検索したが、会見記事はまったく掲載されていないことがわかった。
実は読売は5月22日の朝刊社会面で、連載漫画の隣に3段抜きの大見出しを付けて「大事件」を報じていた。その記事のメイン見出しは「前川前事務次官 出会い系バー通い」、サブ見出しは「文科省在職中、平日夜」。強盗強姦事件並みの扱いだった。そのため前川氏の記者会見でも、記者たちから読売の報道は事実かという質問を浴びせられた。前川氏は事実を認め「貧困家庭の教育環境を調査するのが目的だった」と述べたが、この弁解はあまり説得力があるとは私も思えない。
前川氏は偽名を使って出会い系バーにかなりの頻度で出入りしていたようで、かつ特定の女性と30回ほどそのバーで落ち合い、一緒にバーを出て小遣いまで渡していたという。その女性にインタビューをした週刊誌の報道によれば、前川氏との性的関係はなく、いろいろ相談に乗ってもらっていただけで、父親も公認していたという。
が、もしそういう付き合いだったら、なにも「売春の温床」と言われるようないかがわしい場所で毎回会う必要などないはずだ。私だったら、シティホテルのロビーなり喫茶店やファミレスで落ち合う。その方が金もかからないし、人目を気にする必要もない。
前川氏の行動は文科省の事務方トップとしては軽率のそしりを免れ得ないと思うが、氏の出会い系バー通いを報じた読売の「大スクープ」に対して、競合するメディア界から批判の渦が巻き起こった。メディア界だけでなく、ネット上でも炎上した。問題にされたのは2点だ。
①そもそも犯罪行為でもない一個人のプライベートな行動を、あたかも重大犯罪であるかのような扱いをしてもいいのかという批判。
②いったい、この記事の情報源はだれかという疑問。
とくに情報源については社会的にも大きな話題を呼んだ。前川氏の告発つぶしのために官邸がリークしたのではないかという推測がネット上にも氾濫した。しかし、官邸が前川氏のプライベートな行動をいちいち監視したりするのだろうかという疑問を私は持った。考えられるとしたら警察か公安といった権力機構ではないか、とはだれもが抱く疑問であろう。犯罪とは無関係な一般人(前川氏の場合は私人とは言えないかもしれないが)の日常を公安なり警察といった権力機構が監視していたとしたら、すでに「共謀罪」の前提となる一般人に対する監視活動を権力機構が始めていたことを意味する。
後でわかったことだが、前川氏が在職中、官邸から呼び出しを受けて、出会い系バー通いについて注意を受けていたようだ。そしてそれ以降、前川氏はバー通いをぷっつりやめている。一体、だれが官邸に前川氏の出会い系バー通いを通報したのか。そう考えると、読売にリークしたのは官邸しかありえないと思える。
しかも時期的には官邸は極めて不利な状況にあった。前川氏が告発した文科省の内部文書がなかったことにしないと、安倍総理に大きな傷がつく。とくに安倍総理は国会で、「もし私が加計学園のために便宜を図ったとしたら、総理の座にはいられないし、議員もやめる」とまで言い切っていた。
官邸としては安倍総理を守るために、何が何でも前川証言を「でっち上げ」にしてしまう必要があった。そういう状況に官邸は追い込まれていたのだ。だから菅官房長官は前川氏に対して「文科省職員の天下り問題が明らかになっても任期満了まで事務次官の椅子に恋々としがみつこうとしていた」(前川氏によれば事実無根のようだが)、「いかがわしい場所に連日通い詰めていたような人物を信用できるか」などと個人攻撃を繰り返し、前川証言の信ぴょう性を真っ向から否定しようとしてきた。
が、いまとなっては自らまいた種とはいえ、菅官房長官がニッチもサッチもいかない状況に追い詰められてしまった。実際前川氏が証言した文書の存在が明らかになれば(実際再調査の結果、文書の存在が確認された)、「あったこと、ないこと」含めて前川氏に対する名誉棄損にすら相当しかねない個人攻撃を繰り返してきた官房長官を、果たして総理の女房役でありスポークスマンとして、これからも記者会見などでの発言を信用しろと言っても、それは無理な話ということになるだろう。
官邸の話が長くなりすぎた。読売の「スクープ」記事の話に戻る。
官邸からリークされたとしても、読売社会部の記者は出会い系バーに前川氏が出入りしていたことまでは取材でつかんだが、前川氏が出会い系バーから若い女性と連れ立ってどこに行ったのかの取材はしていない。情報をリークされた時点では、前川氏は出会い系バー通いをやめていたからだ。もしフライデーやフラッシュなどの写真週刊誌だったら、前川氏が女性とラブホテルに入るところまで追いかけて、決定的な証拠写真を抑えない限り記事にはしない。たとえ一流芸能人や有名スポーツ選手であっても、決定的な証拠をつかめない限り記事にはできない。
が、読売はそのタブーを無視してしまった。前川氏が出会い系バーにしばしば出入りしていたことまでは、バーの店員や常連客から聞き出していたようだが、女性と店を出てからの行動について、肝心の女性から証言も取らなかった。そのうえで、前川氏があたかも買春のために出会い系バー通いをしていたかのような「印象操作」(安倍総理が野党に質問をはぐらかすために多用する表現)を読者におこなったと糾弾されてもやむを得ない記事を掲載してしまったのだ。読売に対する批判が殺到したのもむべなるかなである。
ところが読売は6月3日の朝刊に原口隆則・東京本社社会部長の署名入り記事を掲載し、前川氏のプライベートな行動について、スクープ扱いの記事を掲載した理由について「公共性・公益性がある」と、完全に居直った反論と主張を始めたのだ。
まず記事に対する批判に対して「不公正な報道であるかのような批判が出ている。こうした批判は全く当たらない」としたうえで、「一般読者の感覚に照らしても、疑念を生じさせる不適切な行為であることは明らかである」「次官在職中の不適切な行動についての報道は、公共の関心事であり、公益目的にもかなうものだと考える」と居直った。
しかし、繰り返すが、読売は前川氏の出会い系バー通いを報じた3日後に前川氏が行った記者会見で、「官邸によって行政が歪められた」として「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」と、官邸による教育行政に対する不当な介入・圧力についての証言は全く無視した。記者会見に出席した読売の記者が一切記事を書かなかったのか、それとも書いた記事を読売の上層部がボツにしたのか。
確かに教育行政の事務方トップがいかがわしい場所に、目的の是非はさておいても出入りしていたことは不謹慎だとは私も思う。だが、実際に買春などの違法行為があったのかどうかのウラもとらずに、「そういう店に出入りすること自体、買春が目的だったのだろう」と読者を印象操作することを目的にしたと思われても仕方がないような報道には「公共性・公益性がある」と主張し、内部告発に踏み切った前川氏の証言には「公共性・公益性がない(と上層部が判断したのだろう)」として記事にしなかった読売ははたして「公共性・公益性」を重視するメディアと言えるだろうか。
テレビで弁護士が「読売の前川氏のプライバシーに関する報道は名誉棄損になる可能性がある」としていることについて、読売の広報部は「記事の内容は真実であり、公共性・公益性があることも明らかなので、名誉棄損に当たるとは考えていない」とうそぶいているようだが、では記者会見のとき「守秘義務違反ではないか」と前川氏を追及した読売の記者はどういう感覚を持っているのか。その記者の感覚が正しいと考えるなら、読売は「前川氏、守秘義務違反のデマ内部告発」と大々的に報じるべきだったのではないか。もはや読売は、メディアとして死んだとしか私には思えない。
※12日の民放テレビの報道で、「最初から加計ありき」ではなかったのかという疑問を裏付ける事実が判明した。昨年9月6日に加計学園の加計理事長が、その前月に文科相に就任したばかりの松野氏と大臣室で会っていたというのである。そのこと自体はすでに公になっており、国会でも「最初から加計ありきではなかったのか」と野党が松野氏を追及した。
その追求に対して松野氏は「大臣就任のあいさつに来られただけで、獣医学部の話は一切出なかった」と答弁したが、同席していた加計学園の元幹部が、加計氏が大臣に「今度四国に考えているので、よろしく」と明らかに根回しととれる話をしていたことを明らかにした。この元幹部の証言が事実であれば、松野氏の国会答弁は偽証に相当し、引責辞任は免れないだろう。
ただメディアもだらしがないのは、加計氏が松野氏の大臣就任に際しあいさつのために表敬訪問するようなことが、獣医学部新設の根回し以外にありうるのかという取材を怠ってきたことだ。もし本当に文科相が交代するたびに加計氏が新大臣を表敬訪問していたとしたら、松野氏の答弁も信用できただろうが、そうした裏付けをどのメディアも取っていない。だいいち教育機関のトップが、加計氏に限ったことではなく、大臣が変わるたびに新大臣を表敬訪問するといった習慣が文科省と教育機関の間に根付いていたのだろうか。
いや文科省だけでなく、例えば経産省や財務省、厚労省などでも大臣が交代するたびに、経産省なら主要な産業界のトップが、財務省なら金融機関のトップ、厚労省なら医療機関や製薬メーカーのトップが表敬訪問するといった習慣が霞が関には根付いていたのか。もしそうだとしたら、この習慣は官民癒着の温床を意味し、文科省官僚の天下りが舞台裏で続いていたのも当然だっただろうし、他の役所でも行われているはずだ。そういう疑問を即座に抱いて裏付け取材に走るのがジャーナリスに求められる感性のはずだ。読売を批判したメディアの記者たちも、自分たちの取材活動の手抜きを反省してもらいたい。