昨日(2日)の都議選で強烈な風が吹いた。かなりの風が吹くだろうことは予想していたし、都民ファーストの会を立ち上げた小池都政が公明党の協力も得て安定した多数派を形成することは各メディアも予想のうちだった。
が、メディアの事前の世論調査による予測は大きく裏切られた。ほとんどのメディアや政治評論家は自民と都民ファーストがほぼ互角の勝負と見ていた。
結果は都民ファーストが49議席(推薦候補6人を追加公認して55議席)、それに対して自民は都民ファーストの約4割の23議席にとどまった。米大統領選で米メディアの予想が外れたのと同様の結果になった。メディアの世論調査の信頼性が大きく問われる時代になったとも言える。
それにしても、なぜメディアはこれほどの強風を読み誤ったのか。たぶん戦前の世論調査で示された「選挙には大いに関心がある」が、「どの候補者に票を入れるかはまだ決めていない」という無党派層の動向を読み切れなかったからであろう。
小池旋風が吹いたのは、投票率が大幅に向上したからだ。前回の都議選の投票率は43.50%だったのが、今回は51.27%と、8ポイント近くもアップした。
市場調査などで重視されることに「動線」というカテゴリーがある。繁華街などでの通行人の流れを意味する言葉だ。この動線を外れた場所に店を出しても失敗する確率が非常に高いことは市場調査関係者にとっては常識だ。選挙で示される無党派層の動向は、いわばこの動線で示される。
都知事選の世論調査は投票日1週間前の6月24(土)25(日)日の2日にわたって行われた。この時点ですでに自民党には逆風が吹き始めていたのだが、その後の1週間で強まった逆風は大型ハリケーン並みだった。それが選挙の動線を決定づけたのだ。数字が、そのことを明確に物語っている。
都民ファーストは公明党など選挙協力したため公認候補は自民党の60人より10人少ない50人だった。しかも都民ファーストの候補者の大半は政治経験がない、いわば素人であり、さらに自民・公明・民心・共産などのような強力な組織的支持基盤もなかった。普通なら苦戦が予想されても当然だったと思う。
が、公認候補50人のうち49人もが当選してしまった。組織票を期待できない政党としては驚異的な当選率だ。投票日直前に強烈に吹いた風によって動線が形成され、無党派層の流れが一気に固まってしまった。この選挙を各メディアはどう総括したか。全国紙5紙の今日(3日)朝刊の社説(産経は「主張」)で見てみよう。
まず政権べったりの姿勢を貫いてきた読売と産経の社説の見出しはこうだ。
読売『都議選自民大敗「安倍一強」の慢心を反省せよ』
産経『小池勢力圧勝 都政改革の期待に応えよ』
この二紙の主張のポイントはこうだ。
まず読売…「都民ファーストの原動力は、小池氏個人の高い人気だ。公明党との選挙協力も功を奏し、安倍政権に対する批判票の受け皿となった」「加計学園問題を巡る疑惑に安倍政権がきちんと答えなかったことや、通常国会終盤の強引な運営、閉会中審査の拒否などに、有権者が不信感を持ったのは確かだ」「『一強』と評される安倍首相の求心力の低下は避けられまい」「国民の信頼回復には、政権全体の態勢を本格的に立て直す必要がある」小池都知事への注文もこう付けた。「懸念されるのは、小池氏との『近さ』を訴えて当選した新人議員たちが単なる『追認集団』になることである。政治経験に乏しい人が多いだけに、知事にモノを言えない可能性が指摘される」
次に産経…「(選挙の)結果を受け、小池氏は具体的に都政を前に進める大きな責任を負ったともいえる」「自民党の敗因は、一般的には改革姿勢を明確に打ち出せなかった点にある。ただし、国政レベルで相次いだ政権与党内の不祥事が逆風を招いたのは明らかだ」「安倍晋三首相は、政権の立て直しと党の引き締めを急がなければならない」
比較的政権に対して中立的立場をとってきた日経の社説タイトルは『安倍自民は歴史的惨敗の意味を考えよ』だった。
「(自民が大敗したのは)安倍政権の強権的に映る姿勢や閣僚らの度重なる失態への批判の高まりが背景にある」「都民フが『古い勢力』対『改革勢力』という構図を打ち出したのに対し、(自民は)説得力ある争点を最後まで示せなかった」「自民党は全国会で(『テロ等準備罪』や加計学園獣医学部新設問題で)強引な審議方法が目立った。そこに(稲田防衛相や豊田議員の不祥事)が加わった」「順調だった首相の政権運営は曲がり角に差しかかっている」「都政は懸案が多い。…都民フの政党としての政策の肉付けはこれからだ」
一貫して政権に批判的立場を貫いてきた朝日と毎日の社説タイトルはこうだ。
朝日『都議選、自民大敗 政権のおごりへの審判だ』
毎日『都議選で自民が歴史的惨敗 おごりの代償と自覚せよ』
朝日…「小池百合子都知事への期待が大きな風を巻き起こしたことは間違いない。ただ自民党の敗北はそれだけでは説明できない。安倍政権のおごりと慢心に『NO』を告げる、有権者の審判と見るほかない」「『安倍一強』のゆがみを示す出来事は枚挙にいとまがない」「安倍政権の議論軽視、国会軽視の姿勢は今に始まったものではない」「政権は国民から一時的にゆだねられたものであり、首相の私有物ではない。その当たり前のことが理解できないなら、首相を続ける資格はない」「都政運営の基盤を盤石にした小池知事も力量が問われる」「(小池氏が)『挑戦者』として振る舞える期間は名実ともに終わった。首都を預かるトップとして、山積する課題を着実に解決していかなければならない」
毎日「この選挙結果は『一強』のおごりと慢心に満ちていた政権に対する、有権者の痛烈な異議申し立てと受け止めるべきだろう。それほど自民党への逆風はすさまじかった」「首相は今後、早期の内閣改造で立て直しを図るとともに、謙虚な姿勢のアピールを試みるだろう。しかし、数の力で封じ込めてきた強権的な手法が不信の本質であることをまずは自覚すべきだ」
ざっと5紙の社説のポイントを整理してみた。実は読売と朝日だけが社説スペースをすべて割いたが、他の3紙は読売・朝日の半分のスペースだった。引用した社説記事の分量に多少の差が出たのはそのためで、他意はないことをお断りしておきたい。
5紙に共通して言えることは、私がこのブログの冒頭で書いた「風」と「動線」の視点が完全に欠落していることだ。自民党への逆風は全紙が書いており、逆風が吹いた原因や、無党派層の動向に対しあまりにも鈍感だった「安倍一強政権」の体質を鋭く指摘した社説もあったが、自民党への逆風がなぜ都民ファーストに集中したのかの分析は一切なかった。
そもそも都知事選で、既成政党の包囲網にさらされながら小池氏が圧勝できたのはなぜか。石原・猪瀬・舛添と続いた都政のあり方に、都民が『NO』を突きつけられる候補者は小池氏しかなかったことが、無党派層を動かした最大の風だった。「都知事の給与を半分にする」「海外に行くときはビジネスクラスを使う」など、お金にまつわるクリーンさを前面に打ち出した小池氏の作戦勝ちだった。その手法は小泉氏が総裁選で使ったものと同じだった。
自民党総裁選では、小泉側に田中真紀子氏が応援団長として勝手連的に動いた。1年前の都知事選では自民党の若狭衆院議員が田中氏の役割を果たした。もともと知名度が高かった田中氏と違って、若狭氏は当初全くの無名議員だった。が、あえて自民党の公認候補を応援せず小池氏の応援団長を買って出たことでメディアが一斉に取り上げ、一躍時の人になった。小池氏はメディアの出身だが、そこまで読んで若狭氏に応援団長を依頼したかどうかは分からない。
小池氏も都知事になった時点では、小池(都政)新党を作ることまでは考えていなかったと思う。が、小池都政に第1党の自民都議団が立ちふさがった。テレビの報道番組でキャスターをしていただけに小池氏は舌戦で自民都議団に立ち向かった。この「小池vs自民都議団」の対決は民放のニュースショーの格好の話題となった。そうした中で次第にこの対立が「改革派vs抵抗派」と都民の目にも映るようになっていく。
小泉氏が総理になって演出した手法「私に反対する連中はすべて抵抗勢力だ」というレトリックを、そっくり踏襲したのが今回の都議選における小池氏の手法だった。こうしたレトリック手法は選挙では非常に有利に働く。風を生み、その風が動線を作り、さらに作られた動線が風力を増して動線も太くなっていく。さらに敵失(安倍政権の不祥事連発)が重なり、想定外の結果を生んだのが、今回の都議選だった。
実際には小池知事の都政は連戦連勝ではなかった。ボート競技会場などオリンピックの競技場問題では組織委員会の森会長に押し切られたし、豊洲市場問題では結論を先延ばしにして自民党都議団などから「決められない都知事」と揶揄されることもあった。豊洲市場問題については小池都知事の判断基準は二転三転どころか三転四転してきた。
最初に小池氏が最優先にした判断基準は「安全・安心」だった。
次に経済的合理性を重視する姿勢を見せた。
さらに「築地ブランド」を持ち出した。
そして最後に「豊洲も築地も」とした。言っておくが、この「豊洲も築地も」はまだスローガンでしかない。財源を含む青写真は全くないし、「築地ブランド」を残すために築地を再開発するという「食をテーマにしたテーマパーク」構想は思い付き程度の発想でしかない。私は成功する可能性は低いと思う。
ただ小池氏の政治上手なことは「豊洲も築地も」という最終的な判断をするにあたって、記者会見で「明日、築地に謝罪に行きます。安全を確約できなかったことはやはり謝るのが都知事としての筋だと思います」とにこやかに宣言して、かえって自分への好感度を作り出すことに成功したことだ。
おそらく、この小池手法を真似て好感度回復を狙ったのが、国会閉会翌日の安倍総理の謝罪記者会見だったのではないか。が、安倍総理の場合はかえって逆効果になった。真摯に説明責任を果たすと約束しながら、その後にも噴出した政権の不祥事に対して野党が臨時国会を要求しても、まったく応じようとしない。一体あの謝罪記者会見はなんだったのか。国民の安倍政権への不信感はかえって増幅した。6月に入ってからの内閣支持率急降下の原因は安倍総理自身の不誠実さにあったといえるだろう。
ただ一部のメディアが危惧している「小池一強」体制は小池氏自身が作らないだろう。まず小池氏が「見える化」つまり情報公開を進めることを公約にしているから、独裁都政は作れない。また、政治には素人でも、弁護士や公認会計士など高度な専門職に就いている人たちを公認して議員に当選させてきたことから、「都民ファーストの会の内部にチェック機能を作る」という公約はおそらく実現するだろう。また当選した新人議員たちもテレビのインタビューで「小池チルドレンにはならない」と発言しており、それなりにプライドを持った人たちのようだから期待してもいいだろう。
いずれにせよ自民党の当選議員はわずか23人に激減した。小池都政に対する抵抗勢力にもなりえない状態になった。小池氏がよほどの失政を犯さない限り、都議会はオール与党になってしまいかねない。
それを防ぐ方法が一つだけある。
重要な問題については、ただ情報公開するだけでなく公聴会を開いて都民の声が直接議会に届く機会を増やすことだ。小池氏がそういう姿勢で都政に臨めば、都民が寄せた信頼が揺らぐことはない。
が、メディアの事前の世論調査による予測は大きく裏切られた。ほとんどのメディアや政治評論家は自民と都民ファーストがほぼ互角の勝負と見ていた。
結果は都民ファーストが49議席(推薦候補6人を追加公認して55議席)、それに対して自民は都民ファーストの約4割の23議席にとどまった。米大統領選で米メディアの予想が外れたのと同様の結果になった。メディアの世論調査の信頼性が大きく問われる時代になったとも言える。
それにしても、なぜメディアはこれほどの強風を読み誤ったのか。たぶん戦前の世論調査で示された「選挙には大いに関心がある」が、「どの候補者に票を入れるかはまだ決めていない」という無党派層の動向を読み切れなかったからであろう。
小池旋風が吹いたのは、投票率が大幅に向上したからだ。前回の都議選の投票率は43.50%だったのが、今回は51.27%と、8ポイント近くもアップした。
市場調査などで重視されることに「動線」というカテゴリーがある。繁華街などでの通行人の流れを意味する言葉だ。この動線を外れた場所に店を出しても失敗する確率が非常に高いことは市場調査関係者にとっては常識だ。選挙で示される無党派層の動向は、いわばこの動線で示される。
都知事選の世論調査は投票日1週間前の6月24(土)25(日)日の2日にわたって行われた。この時点ですでに自民党には逆風が吹き始めていたのだが、その後の1週間で強まった逆風は大型ハリケーン並みだった。それが選挙の動線を決定づけたのだ。数字が、そのことを明確に物語っている。
都民ファーストは公明党など選挙協力したため公認候補は自民党の60人より10人少ない50人だった。しかも都民ファーストの候補者の大半は政治経験がない、いわば素人であり、さらに自民・公明・民心・共産などのような強力な組織的支持基盤もなかった。普通なら苦戦が予想されても当然だったと思う。
が、公認候補50人のうち49人もが当選してしまった。組織票を期待できない政党としては驚異的な当選率だ。投票日直前に強烈に吹いた風によって動線が形成され、無党派層の流れが一気に固まってしまった。この選挙を各メディアはどう総括したか。全国紙5紙の今日(3日)朝刊の社説(産経は「主張」)で見てみよう。
まず政権べったりの姿勢を貫いてきた読売と産経の社説の見出しはこうだ。
読売『都議選自民大敗「安倍一強」の慢心を反省せよ』
産経『小池勢力圧勝 都政改革の期待に応えよ』
この二紙の主張のポイントはこうだ。
まず読売…「都民ファーストの原動力は、小池氏個人の高い人気だ。公明党との選挙協力も功を奏し、安倍政権に対する批判票の受け皿となった」「加計学園問題を巡る疑惑に安倍政権がきちんと答えなかったことや、通常国会終盤の強引な運営、閉会中審査の拒否などに、有権者が不信感を持ったのは確かだ」「『一強』と評される安倍首相の求心力の低下は避けられまい」「国民の信頼回復には、政権全体の態勢を本格的に立て直す必要がある」小池都知事への注文もこう付けた。「懸念されるのは、小池氏との『近さ』を訴えて当選した新人議員たちが単なる『追認集団』になることである。政治経験に乏しい人が多いだけに、知事にモノを言えない可能性が指摘される」
次に産経…「(選挙の)結果を受け、小池氏は具体的に都政を前に進める大きな責任を負ったともいえる」「自民党の敗因は、一般的には改革姿勢を明確に打ち出せなかった点にある。ただし、国政レベルで相次いだ政権与党内の不祥事が逆風を招いたのは明らかだ」「安倍晋三首相は、政権の立て直しと党の引き締めを急がなければならない」
比較的政権に対して中立的立場をとってきた日経の社説タイトルは『安倍自民は歴史的惨敗の意味を考えよ』だった。
「(自民が大敗したのは)安倍政権の強権的に映る姿勢や閣僚らの度重なる失態への批判の高まりが背景にある」「都民フが『古い勢力』対『改革勢力』という構図を打ち出したのに対し、(自民は)説得力ある争点を最後まで示せなかった」「自民党は全国会で(『テロ等準備罪』や加計学園獣医学部新設問題で)強引な審議方法が目立った。そこに(稲田防衛相や豊田議員の不祥事)が加わった」「順調だった首相の政権運営は曲がり角に差しかかっている」「都政は懸案が多い。…都民フの政党としての政策の肉付けはこれからだ」
一貫して政権に批判的立場を貫いてきた朝日と毎日の社説タイトルはこうだ。
朝日『都議選、自民大敗 政権のおごりへの審判だ』
毎日『都議選で自民が歴史的惨敗 おごりの代償と自覚せよ』
朝日…「小池百合子都知事への期待が大きな風を巻き起こしたことは間違いない。ただ自民党の敗北はそれだけでは説明できない。安倍政権のおごりと慢心に『NO』を告げる、有権者の審判と見るほかない」「『安倍一強』のゆがみを示す出来事は枚挙にいとまがない」「安倍政権の議論軽視、国会軽視の姿勢は今に始まったものではない」「政権は国民から一時的にゆだねられたものであり、首相の私有物ではない。その当たり前のことが理解できないなら、首相を続ける資格はない」「都政運営の基盤を盤石にした小池知事も力量が問われる」「(小池氏が)『挑戦者』として振る舞える期間は名実ともに終わった。首都を預かるトップとして、山積する課題を着実に解決していかなければならない」
毎日「この選挙結果は『一強』のおごりと慢心に満ちていた政権に対する、有権者の痛烈な異議申し立てと受け止めるべきだろう。それほど自民党への逆風はすさまじかった」「首相は今後、早期の内閣改造で立て直しを図るとともに、謙虚な姿勢のアピールを試みるだろう。しかし、数の力で封じ込めてきた強権的な手法が不信の本質であることをまずは自覚すべきだ」
ざっと5紙の社説のポイントを整理してみた。実は読売と朝日だけが社説スペースをすべて割いたが、他の3紙は読売・朝日の半分のスペースだった。引用した社説記事の分量に多少の差が出たのはそのためで、他意はないことをお断りしておきたい。
5紙に共通して言えることは、私がこのブログの冒頭で書いた「風」と「動線」の視点が完全に欠落していることだ。自民党への逆風は全紙が書いており、逆風が吹いた原因や、無党派層の動向に対しあまりにも鈍感だった「安倍一強政権」の体質を鋭く指摘した社説もあったが、自民党への逆風がなぜ都民ファーストに集中したのかの分析は一切なかった。
そもそも都知事選で、既成政党の包囲網にさらされながら小池氏が圧勝できたのはなぜか。石原・猪瀬・舛添と続いた都政のあり方に、都民が『NO』を突きつけられる候補者は小池氏しかなかったことが、無党派層を動かした最大の風だった。「都知事の給与を半分にする」「海外に行くときはビジネスクラスを使う」など、お金にまつわるクリーンさを前面に打ち出した小池氏の作戦勝ちだった。その手法は小泉氏が総裁選で使ったものと同じだった。
自民党総裁選では、小泉側に田中真紀子氏が応援団長として勝手連的に動いた。1年前の都知事選では自民党の若狭衆院議員が田中氏の役割を果たした。もともと知名度が高かった田中氏と違って、若狭氏は当初全くの無名議員だった。が、あえて自民党の公認候補を応援せず小池氏の応援団長を買って出たことでメディアが一斉に取り上げ、一躍時の人になった。小池氏はメディアの出身だが、そこまで読んで若狭氏に応援団長を依頼したかどうかは分からない。
小池氏も都知事になった時点では、小池(都政)新党を作ることまでは考えていなかったと思う。が、小池都政に第1党の自民都議団が立ちふさがった。テレビの報道番組でキャスターをしていただけに小池氏は舌戦で自民都議団に立ち向かった。この「小池vs自民都議団」の対決は民放のニュースショーの格好の話題となった。そうした中で次第にこの対立が「改革派vs抵抗派」と都民の目にも映るようになっていく。
小泉氏が総理になって演出した手法「私に反対する連中はすべて抵抗勢力だ」というレトリックを、そっくり踏襲したのが今回の都議選における小池氏の手法だった。こうしたレトリック手法は選挙では非常に有利に働く。風を生み、その風が動線を作り、さらに作られた動線が風力を増して動線も太くなっていく。さらに敵失(安倍政権の不祥事連発)が重なり、想定外の結果を生んだのが、今回の都議選だった。
実際には小池知事の都政は連戦連勝ではなかった。ボート競技会場などオリンピックの競技場問題では組織委員会の森会長に押し切られたし、豊洲市場問題では結論を先延ばしにして自民党都議団などから「決められない都知事」と揶揄されることもあった。豊洲市場問題については小池都知事の判断基準は二転三転どころか三転四転してきた。
最初に小池氏が最優先にした判断基準は「安全・安心」だった。
次に経済的合理性を重視する姿勢を見せた。
さらに「築地ブランド」を持ち出した。
そして最後に「豊洲も築地も」とした。言っておくが、この「豊洲も築地も」はまだスローガンでしかない。財源を含む青写真は全くないし、「築地ブランド」を残すために築地を再開発するという「食をテーマにしたテーマパーク」構想は思い付き程度の発想でしかない。私は成功する可能性は低いと思う。
ただ小池氏の政治上手なことは「豊洲も築地も」という最終的な判断をするにあたって、記者会見で「明日、築地に謝罪に行きます。安全を確約できなかったことはやはり謝るのが都知事としての筋だと思います」とにこやかに宣言して、かえって自分への好感度を作り出すことに成功したことだ。
おそらく、この小池手法を真似て好感度回復を狙ったのが、国会閉会翌日の安倍総理の謝罪記者会見だったのではないか。が、安倍総理の場合はかえって逆効果になった。真摯に説明責任を果たすと約束しながら、その後にも噴出した政権の不祥事に対して野党が臨時国会を要求しても、まったく応じようとしない。一体あの謝罪記者会見はなんだったのか。国民の安倍政権への不信感はかえって増幅した。6月に入ってからの内閣支持率急降下の原因は安倍総理自身の不誠実さにあったといえるだろう。
ただ一部のメディアが危惧している「小池一強」体制は小池氏自身が作らないだろう。まず小池氏が「見える化」つまり情報公開を進めることを公約にしているから、独裁都政は作れない。また、政治には素人でも、弁護士や公認会計士など高度な専門職に就いている人たちを公認して議員に当選させてきたことから、「都民ファーストの会の内部にチェック機能を作る」という公約はおそらく実現するだろう。また当選した新人議員たちもテレビのインタビューで「小池チルドレンにはならない」と発言しており、それなりにプライドを持った人たちのようだから期待してもいいだろう。
いずれにせよ自民党の当選議員はわずか23人に激減した。小池都政に対する抵抗勢力にもなりえない状態になった。小池氏がよほどの失政を犯さない限り、都議会はオール与党になってしまいかねない。
それを防ぐ方法が一つだけある。
重要な問題については、ただ情報公開するだけでなく公聴会を開いて都民の声が直接議会に届く機会を増やすことだ。小池氏がそういう姿勢で都政に臨めば、都民が寄せた信頼が揺らぐことはない。