小林紀興の「マスコミに物申す」

第三の権力と言われるマスコミは政治家や官僚と違い、読者や視聴者の批判は一切無視、村社会の中でぬくぬくと… それを許せるか

日本郵政グループは新体制で小泉郵政民営化の「負のレガシー」を根絶できるか?

2020-01-12 06:49:20 | Weblog
 総務省が郵政改革に本腰を入れだしたようだ。「トカゲの尻尾切り」ではなく、郵政グループ3社(日本郵政・かんぽ生命・日本郵便)のトップを総入れ替えするという荒療治に踏み切ったからだ。とくに高市総務大臣は郵政グループの総元締である日本郵政のトップに増田寛也氏(元総務相)を据えた。増田氏は岩手県知事としても地方行政改革に手腕を発揮した。どこまで郵政改革に辣腕を振るうか大いに期待したいが、ことはそう簡単ではない。小泉純一郎元総理が政治生命をかけて断行した郵政民営化の「負のレカシー」に切り込まない限り、かんぽ生保の詐欺まがい商法の根は絶てないからだ。
 小泉元総理が郵政民営化を実現したのは2007年10月。実は民営化法案は2005年に国会に上程されたのだが、衆院では5票差でかろうじて通過したものの参院では否決され、小泉総理が衆院を解散して国民に信を問うという手法に出た。反対派議員を除名したり、立候補しても自民党としては公認せずに「刺客」候補を落下傘的に擁立するという挙に出た。この時メディアは一斉に郵政民営化を支持し、選挙では小泉チルドレンが大量に当選し、小泉派が圧勝した。実は「一強体制」は安倍総理が作ったものではなく、このとき小泉氏が前例を作った。実際、この選挙以降、自民党内に小泉氏に反旗を翻す政治家は皆無になった。私はそろそろ「小選挙区比例代表並立制」という衆院選挙制度そのものも見直すべき時期に来ていると思っている。
 私がブログを書き始めたのは2008年4月。アップルのiPhoneが登場してツイッターやフェイスブックなどのSNSが普及するようになったのは2010年以降である。こういうきわどい時期に郵政民営化がスタートしたのである。「スマホが誕生して、まだ10年しかたっていないの?」とびっくりする人が多いと思うが、そのくらい、この10年でITの世界は劇的に社会のあらゆる仕組みを変えてきた。小泉氏が郵政民営化に血道をあげていた頃、たった10年でSNSが日本の郵便事業を壊滅的な状況に追い込むとは、だれも想像できなかっただろうし、そのことで小泉氏を批判するつもりは私は毛頭ない。が、結果的にはSNSが郵便局員によるかんぽ生保商品の詐欺まがい商法をはびこらせることになった。そのことを私は昨年8月5日にアップしたブログ『日本郵政グループの組織的詐欺事件はなぜ生じたのか? 昨年(※2018年)にNHKが報じていたことを「知らなかった」では済まされない』で検証している。
 NHKは2018年4月24日、郵便局員な内部告発や被害者からの通報を根拠に『クローズアップ現代』で郵便局員によるかんぽ商品の詐欺まがい商法を告発する番組を放送した。クロ現のスタッフはさらに続編の制作を企画して新たに情報提供をネットで広く呼び掛けたようだ(私自身は見ていない)。
 が、それで困ったのは日本郵政。というのは郵政グループの持ち株会社である日本郵政は翌年(2019年)春に大量(全持ち株89%の4分の1)のかんぽ生保株を放出する予定だった(実際、日本郵政はかんぽ生保株が上場以来最高値を付けていた19年4月に放出している)。そのため株を放出する前に詐欺まがい商法が公になるとかんぽ株が暴落して放出できなくなることを恐れた日本郵政が、NHKの経営委委員長を通じてNHKに圧力をかけたと私は推測している。だから、このときかんぽ生保株を高値で買わされた人たちが日本郵政を証取法違反で告訴していないようなのが、私には不思議でならない。実際、私は昨年8月のブログで「おそらくかんぽ生保株を購入した株主からは損害賠償請求の集団訴訟が起こされることは間違いない」と書いた。
 かんぽ生保問題の根っこには日本郵便がそこまでやらないと、郵政民営化の時に義務付けられたユニバーサル・サービスを維持できなくなるという事情があった(そのことも私は昨年8月のブログで書いている)。実際SNSの急速な発達によって郵便事業の柱である郵便物の集配が完全に採算割れになっているはずだからだ。たとえば郵便事業の収益を支えてきた年賀状が、今年は昨年の1割減になったという。ネットニュースの「ニュースィィチ」によれば年賀状の配達数は年々減少し、2008年度は約29億通だったのが18年度は約19億通と、10年で34%も減少したという。年賀状だけではない。普通のはがきや手紙の取扱量はSNSに押されて、もっと減少しているのではないか。そういう状況の中で日本郵便が収益の柱を郵便物の取り扱い以外に求めざるを得なくなった事情がこうして生じた。
 日本郵便の郵便物(ゆうパックなども含め)以外の事業には郵貯とかんぽ生命保険がある。が、郵貯事業はいま日本郵便にとって重荷になりつつある。郵政が民営化される前は郵貯で集めた金は政府が公共事業投資に運用してくれていたからおいしい分野だったが、いまは融資にもリスクが伴うようになったし、アベノミクスの金融緩和政策で民間の銀行と同様、金融事業でのうまみはほとんどなくなった。必然的に儲かる事業はかんぽ生保に頼らざるを得なくなった。郵便局員にのしかかったノルマの厳しさとか、詐欺まがい商法が横行した背景にはそういう事情があった。
 日本郵便にとっては、残された唯一の儲かるビジネスだったかんぽ事業が、いまストップされている。いつ再開できるかの見通しも立たない状況だ。また再開できたとしても、これまでのような不正な販売は不可能になったし、消費者の信頼が根底から崩れてしまった現状を考えると、再開できるようになったとしても営業活動は相当苦しい状況が続くと考えられる。
 郵便事業は欠くことができない重要な通信インフラでもある。同様に重要な通信インフラとして電話がある。NTTがひかり事業に踏み切ったのは電電公社時代の35年ほど前だが、そのときは個々の家庭にまでひかり回線を引く計画はなかった。が、その後、なぜかNTTは個々の家庭にまでひかり回線を引き出した。それがいまNTTにとっては重荷になりつつある。若い人たちが「スマホで十分」と、電話回線を使わなくなったからだ。NTTはいま4Kテレビはひかりで、といったCMに力を入れているが、テレビを見るためだけにひかり回線使用料を支払おうという消費者がどれだけいるか? スマホが登場してからわずか10年の間に、あらゆる通信インフラの在り方が問われるようになっている。
 まだ固定電話の場合はIP電話を除いて通話相手と場所によって料金が変わる仕組みになっているが、手紙やはがきはそういうわけにはいかない。そういう中でかんぽ事業に頼らず郵便事業を維持できるようにするには方法は二つしかない。一つははがき・手紙などの郵便物の料金を、採算がとれるように大幅アップすることだ。もう一つはすでにヨーロッパで行われているように郵便物の集配回数を大幅に減少することだ。そのためには速達を廃止する必要があるが、集配回数を週に1回か2回に減らせば、地方の小さな赤字郵便局は廃止することができる。どうしても廃止できない過疎地の郵便局は多目的局としてコンビニや農協などと統合したらいい。どうやったら小泉郵政改革の「負のレガシー」を根絶できるか、これからが郵政改革の道筋が問われる。

コメントを投稿