安倍総理は、日本をアメリカの従属国にしたいのか。
本来、安倍総理が、いわゆる「集団的自衛権」の行使容認を憲法解釈の変更によって可能にしようとした原点は、日米安保条約の片務性を解消し、双務的関係つまり「いちおう対等な日米関係」に近づけたいという念願にあったと、私は考えていた。
そうした理解の上で、総理の基本的考えは理解できないことはないが、二つの点で無理があると、これまでブログで書いてきた。私のブログが世論を直接左右できるような力はないことは百も承知だが、メディアは私の主張を無視できない状況になっている。それが、「集団的自衛権行使の憲法解釈による限定容認」についての世論調査の結果として現れ始めた。どのメディアの世論調査でも、反対が過半数に達し、賛成は30%以下でしかない。
たとえば朝日新聞が24,25日に行った全国世論調査(電話)の結果では、賛成は29%、反対は55%と倍近くに上回った。さらに憲法改正の手続きを踏まずに内閣の判断で憲法解釈を変えるという安倍総理の方針に対しての国民の拒否反応は強く、「適切だ」とするのが18%、「適切でない」と答えたのが67%に達し、さらに安倍内閣支持層や自民支持層でも「適切でない」としたのが5割前後に達し、公明支持層では8割以上が「適切でない」とした。
安倍総理は5月15日に行った記者会見で、国民に「憲法解釈を変更して集団的自衛権を限定的に行使する」という方針について理解を求めた。その切々とした訴えに対する国民の回答である。
安倍総理の基本的思考法に対する、別の角度からのメッセージがある。ウクライナ紛争に関して日本が対ロ経済制裁を科したことに対するロシアのプーチン大統領の発言だ。「日本は北方領土問題の話し合いも中断するのだろうか」という内容だ。安倍総理が、対ロ制裁に踏み切って以降、プーチン大統領が初めて示した反応である。このことの意味は大きい。はっきり言えば、北方領土問題は完全に白紙に戻ったということだ。なお読売新聞は27日付朝刊でプーチン大統領の発言について「驚いた」という部分しか報じなかった。読売新聞はそこまで安倍総理の走狗(そうく)になったのか。
ウクライナ問題は非常にややこしい側面がある。メディアの報道では「暫定政権」vs「親ロシア派」という対立構造で描かれることがこれまでは多かった。こういう対立は、どう考えても論理的にありえない。「どういう対立なのか」私もメディアの報道ではよく分からない。ウィキペディアで調べても、やはり分からない。で、何度もNHKのふれあいセンターの上席責任者に『クローズアップ現代』で分かりやすく解説してほしいと要請してきた。5月21日(木)にようやく『クローズアップ現代』がウクライナ問題を取り上げた。金・土・日は『クローズアップ現代』は放送しないので、25日(日)に行われるウクライナの大統領選挙の日程から、ギリギリの放送スケジュールだったのだと思う。
そもそも「親ロシア派」とは何を意味する言葉なのか、また「ロシア系住民」とはどういう意味なのか。それがどうしても理解できない。
対立軸の一方が「暫定政権」であるならば、その対立軸にあるのは「前政権派」か、あるいは第三の政治勢力でなければおかしい。そうだとしたら、その対立が突然「国家分裂」に至るのも理解しかねるし、欧米やロシアがウクライナの紛争に内政干渉するのもおかしい。現にタイでも前政権のタクシン派と反タクシン派が対立し、中立的立場をとっていた軍がクーデターによって政権を掌握する事態になっているが、国家分裂に至ることは懸念もされていず、まして他国がタイの紛争に内政干渉に乗り出すような動きも報道されていない。なお軍は反タクシン派色を鮮明にしつつあるようだ。
また対立軸のもう一方を「親ロシア派」とするならば、その対立軸にあるのは「親欧米派」とするのが妥当だろう。そう考えると、「ロシア系住民」とはロシア民族を意味し、「暫定政権派=ウクライナ民族」という民族間の紛争ということになる。ただ、これまで民族間の対立がウクライナでくすぶっていたのかどうかも分からない。経済関係においても外交関係においても、これまで日本とは縁が深いとは言えないウクライナの国内情勢に、メディアがあまり関心を払ってこなかったことは理解できるが、安倍総理がオバマ大統領の恫喝に屈して、「暫定政権」を支持している欧米に足並みをそろえて対ロ制裁に踏み切った以上、メディアはウクライナ紛争の真相を報道する義務がある。
が、『クローズアップ現代』は、残念ながら私の期待を裏切った。番組終了後、ふれあいセンターではなく番組担当者に電話をした。「対立軸の一方を親ロシア派とする以上、暫定政権は親欧米派とするのが妥当だ。また国谷氏(キャスター)は放送で2度『民族主義』という言葉を使っている。ウクライナの紛争は民族対立ではないのか」と質問をぶつけた。番組担当者は「スタジオでは親欧米派とすべきだという考えもありましたが、他のメディアも暫定政権vs親ロシア派という対立軸で報道しているので、その方が分かりやすいのではないかという結論になりました。かえって分かりにくくなったというご指摘は今後の番組に生かしたいと思います。また国谷が『民族主義』という言葉を使ったことは事実ですが、その言葉が何を意味するのかは私も分かりません」と答えた。
基本的に国家分裂に至るような国内の紛争は、民族対立か宗教対立しか考えられない。が、近代以降は宗教対立が国家分裂の主要な原因になったケースはないようだ。現代に入って民族対立が大規模な国家分裂に至ったケースとしては、旧ユーゴスラビア連邦共和国があげられよう。旧ユーゴは国名に「連邦」とあるように各共和国の自治権がもともと強く、東欧革命によって共産主義勢力の1党独裁政治が崩壊し、各共和国に民族色の強い政権が生まれた。その後、さまざまな過程を経て旧ユーゴは2006年にスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニアの6か国に分裂した。が、それで民族対立が収まったのかというと、そうではなく2008年にはセルビアの自治州だったコソボが独立を宣言したが、クリミア自治共和国と同様「戦争→独立」といった形ではなく、ある意味では「平和的」に実現した独立であった。が、コソボを独立国家として承認している国は少数のようだ。またボスニア・ヘルツェゴビナにはボシュニャク人(ムスリム人)、セルビア人、クロアチア人がそれぞれ44%、33%、17%という異なる民族の構成になっており、血を血で洗う内戦を生じた。
また中国ではウイグル族が大多数を占める新疆ウイグル自治区での混乱がしばしば報じられている。2013年10月には北京の天安門にガソリンを満載した自動車でウイグル族一家が自動車で突入して自爆した。最近も(5月22日)ウルムチ市の繁華街の朝市でにぎわう人ごみに自動車2台が突っ込み、人ごみに爆発物を投げ数十人の死傷者が出た。中国政府は「イスラム原理主義者によるテロ行為」と断定し、徹底的に弾圧する構えを見せている。ウイグル族の多くはイスラム教徒であることは間違いないが、「イスラム原理主義過激派のテロ」とすると、違和感がある。イスラム原理主義では「自殺による闘争」を正義としており、実際、中東でのイスラム原理主義者のテロは「自爆」が原則である。ウルムチ市の場合、「自爆テロ」ではなく、犯人は爆発物を人ごみに投げたあと逃走している。しかも天安門事件とは異なり、ウイグル族同胞に対するテロ行為である。そういうことがありうるのだろうか。私は新疆ウイグル自治区の共産党指導部が仕組んだ「自作自演」のテロ行為ではないかとみている。少なくとも私はイスラム原理主義者(あるいは過激派)が、同胞を標的にしたテロ行為に走った事件は、寡聞にして知らない。
24日、TBSが『報道特集』でウクライナ問題を取り上げた。TBSは「親ロシア派」とされるウクライナ東部2州(ドネツク州、ルガンスタ州)のウクライナからの分離独立を求めた「親ロシア派」にかなり深く踏み込んだ取材をした。「親ロシア派」のリーダーにインタビューして「我々はロシア民族だ」という主張も紹介した。一方で、一般の女子大生にインタビューして「ロシアのテレビしか見ない父とインターネットで情報を入手している母との意見が対立し、私も困っている」という家族内の複雑の事情も明らかにした。対立軸も、「親欧米派vs親ロシア派」と明確にした。
この放送によって、ようやく私は、暫定政権は親欧米派であり、EUへの加盟を目指しているようだという論理的推測に達することができた(※そんなことは常識だ、というメディア側の反論は認めない)。そのためロシア民族を中心とする「親ロシア派」が住民投票による「平和的独立」を成し遂げ、ヨーロッパの一員になることを拒否したのだろうという結論に達することができた。おそらく、これまではウクライナで民族間の表立った紛争はなかったのだろう。一般的に民族紛争は、多数派民族あるいは少数派でも軍事力を掌握している側が、少数民族あるいは軍事的弱者民族を支配し、明らかな差別をしてきたことに端を発して生じている。ウクライナ政府は、そうした民族紛争の火種となるような差別政策をとってこなかったのだと思う。現に暫定政権の前の政府は親ロシアだったし、ある意味では異なる民族が平和的に共存してきた理想的な国家だったのだろう。
が、ウクライナが合法的にEUに加盟するとなると、ロシア民族を中核とする「親ロシア派」にとっては耐え難いことなのかもしれない。いや親ロシア派だけでなく、ヨーロッパ諸国とロシアにとっては、ウクライナの去就に国益がかかってくる。そもそも、少数派の「親ロシア派」が政権の座に就くことができたのも、ロシアが天然ガスのウクライナへの輸出価格を国際市場価格の半分程度に抑えるという政策をとってきたからでもあった。ウクライナとくにクリミアはロシアにとって極めて重要な軍事拠点であり、しかも「ロシア系住民」が6割を占めている。クリミア自治共和国のウクライナからの分離独立とロシアへの編入を、背後でロシア政府が画策した可能性は否定できない。
が、クリミアに続いて東部2州が住民投票でウクライナから分離独立し、ロシアへの編入を求める事態に至るまでは、ロシアも欧米も予想していなかったのだろう。ロシアのプーチン大統領も東部2州の住民投票に対しては遺憾の意を表明したのも、これ以上欧米との軋轢を強めたくないという思惑が働いたのだろうと思う。
『報道特集』によって、ようやくウクライナ紛争の真相に迫れたと思った私は、放送当日NHKふれあいセンターの上席責任者に電話した。「はっきり言って21日放送の『クローズアップ現代』は、今日放送したTBS『報道特集』に完敗した。私がなぜ『クローズアップ現代』が完敗したと判断したのか、『報道特集』を録画でみていただきたい」と申し入れた。
問題はウクライナ問題に対する安倍内閣の対応であった。すでに述べたように、ウクライナがどうなろうと、こうなろうと、日本の国益にとってはどうでもいいことだ。だから、安倍内閣もウクライナ問題をめぐる欧米とロシアの対立には、当初「われ関せず」のスタンスをとっていた。が、オバマ大統領が「日本は西側の一員だろう」と安倍総理を恫喝した(と思う。そうでなければ安倍総理の変心の説明がつかない)。尖閣諸島問題での「借り」がある安倍総理としては、「はい。わかりました。ご主人様のおっしゃる通りにします」と、欧米に足並みをそろえて対ロ制裁に踏み切った。日本がアメリカの従属国であることを、総理自身が認めた瞬間である。過去の日本政府には、こうしたことはなかったからである。
実は前にブログでも書いたが、アメリカにとっても米ソが対立していた冷戦時代が終わった今日、ウクライナがどうなろうとアメリカにとってもさしたる影響はない。が、アメリカはEU諸国の多くと同盟関係にあり、EU加盟国の多くにとってはウクライナの分裂は国益を左右する重要な関心事にならざるを得ない。EUがウクライナ紛争に内政干渉したのも、自分たちの国益がかかっていたからである。
一方、ウクライナの動向が直接国益を左右するとは考えにくいアメリカにとっては、EUにこの際「貸し」を作っておくことが将来の「国益」につながる可能性が高い。アメリカは「人種のるつぼ」と呼ばれるほどの多民族国家である。当然宗教問題が頻発してもおかしくないのだが、アングロサクソン民族が長い間政治的支配権を掌握してきた過程で、アフリカ系黒人の多くもキリスト教に改宗してきた。初の黒人系大統領のオバマ氏もキリスト教徒である。
アメリカでは、ベトナム戦争の敗北で徴兵制が撤廃されて以降徴兵制はなくなったが、徴兵制時代でも宗教上の理由で徴兵義務を拒否する権利を国民に認めていた。日本でも大きな人気を集めていた世界最強のプロ・ボクサーだったモハメッド・アリが、イスラム教徒に改宗して徴兵を拒否したことで、「偽装改宗ではないか」と疑った米政府に訴訟を起こされたが、長期にわたる裁判の結果、アリが無罪になったという経緯もある。
基本的には宗教に対しては寛容なアメリカだが、イスラム原理主義者に対しては厳しい態度をとってきた。アメリカにとって唯一といってもいい「頭が痛い」問題はイスラエルである。世界中のどの国に対しても膝を屈することがないアメリカだが、イスラエルにだけは頭が上がらないようだ。「核不拡散条約」についても、イランや北朝鮮に対しては厳しい姿勢で臨んでいるアメリカだが、事実上核保有国とみられているイスラエルには、国連による調査に対しても拒否権を発動してイスラエルの防波堤になっている。では、イスラエルがアメリカの戦争行為に、イギリスのように同調するかといえば、「アメリカが勝手にやっている戦争だ」と言わんばかりに知らんぷりを決め込んでいる。アメリカが日本に君臨しているように、イスラエルはアメリカに君臨できる世界唯一の国なのかもしれない。
それはともかく日本の外交は、しばしば「対米追随だ」とメディアからも批判されてきた。が、少なくともこれまでは、日本の重要な「国益」に反するような対米追随をアメリカから強いられることはなかった。湾岸戦争のときも「日本は金だけ出して血を流そうとしなかった」と欧米から厳しい批判を浴び、以降日本は軍事行動を伴わないPKO(国連平和維持活動)には積極的に貢献することにした。PKOの予算は国連加盟国が分担しているが、途上国に負担軽減を認める一方で、安保理常任理事国には加重負担を求めることに一応なっている。日本は拒否権を行使できる常任理事国ではないが、分担金はアメリカに次ぐ大金を負担している。なおアメリカは未払いを続けているが、日本は律儀に支払っている。
これまでは、日本の外交政策がアメリカの言いなりだったとしても、それが国益を大きく損ねるということはなかった。が、日本にとってどうでもいいウクライナの問題で、オバマ大統領に膝を屈して対ロ制裁に踏み切り、プーチン大統領から「日本は北方領土問題の話し合いも中断するのだろうか」とカードを切られてしまった。「これとそれとは別の問題」とは、いくら厚顔無恥な安倍総理も言えまい。もう日本政府は後が引けなくなった。核大国のロシアに対して「宣戦布告」をして北方四島を取り返すか、「もう北方領土問題は二度と口にしません。日本は領有権を放棄します」と言うか。あるいは、ひざを屈しついでに安倍総理がオバマ大統領に土下座して「ご主人様におっしゃる通り対ロ制裁に踏み切ったのですから、北方領土問題の解決のためにアメリカの核の力を貸してください」と願い出るか。ま、無駄だろうけどね。
実はこのブログ原稿は25日から26日にかけて書いたものに今日多少手を加えた。25日に行われたウクライナの大統領選挙の結果は最初から火を見るより明らかだったし、私には憲法解釈の変更による集団的自衛権行使容認についての世論調査の結果が明らかになったことで、安倍総理が執念とも言える対米追随政策を、世論に逆らってまで強行するかどうかの方がはるかに重大な関心事であった。
が、26日のNHK『ニュース7』を見ていてびっくりした。ウクライナの大統領選挙で決選投票を待たずにいきなり1回目の投票で過半数を獲得して新大統領の椅子を獲得したポロシェンコ氏に対して「親欧米派」と呼んだからだ。さらに、そのニュースのあとでフランスの議会選挙で極右政党の「国民戦線」が大躍進し、EUの方向性を左右するヨーロッパ議会の選挙でも極右政党の議席が増大しているというニュースを流した。NHKはウクライナ問題とヨーロッパにおける極右政党の台頭を関連付けてはいなかったが、無関係ということはありえない。
またロシアの軍事的後ろ盾への期待が薄らいだドネツク州の「親ロシア派」が、空港を武力制圧して気勢を上げた。それに対して暫定政権は数日中に誕生する新政権の意向を先取りして武力弾圧に乗り出し、数百人の犠牲者を出したようだ。プーチン大統領が東部2州の「親ロシア派」勢力を軍事的に支援することはもはやありえない、と暫定政権は読んだのだろう。一方、ヨーロッパで台頭しつつある極右勢力が、ウクライナ内紛に乗じてどういう行動に出るか、ウクライナ情勢はさらに混迷の度を高めつつある。その場合、オバマ大統領が安倍総理にどういう命令を下すだろうか。安倍内閣は、対ロ制裁に踏み切ったとはいえ、欧米のような厳しい経済制裁(資産凍結)には至っていない。オバマ大統領にとっては極めて不満のようだ。
さらに降ってわいたようなベトナムと中国の争いが生じた。日本にとって、経済的には中国ともベトナムとも関係が深い。昨日両国の漁船同士が衝突し、ベトナム漁船が沈没した事件について、ベトナム政府は中国漁船が突っ込んできたと抗議し、中国政府はベトナム漁船が突っ込んできたと正反対の声明を出した。真相はおそらく今日中に映像で流れると思うが、昨日のNHKのニュースでは、小野寺防衛相が「中国漁船がベトナム漁船に衝突した」と明確に中国側の比をコメントしたのに対して、政府の公的スポークスマンである菅官房長官は国名を一切出さず、きわめて歯切れの悪い声明を発表した。中国に対する配慮というより、オバマ大統領の意向を見極めてからにしようという姿勢が見え見えの発表だった。
歴代総理の中でも比較的長期にわたって高い支持率を維持してきた安倍内閣だが、国民の総意に逆らって憲法解釈の変更による集団的自衛権の限定行使容認を閣議決定に強引に踏み出したら、支持母体の創価学会の意向に逆らってまで安倍政権の補完的役割をはたしてきた山口公明党も、自民党とたもとを分かたざるをえなくなる。安倍政権の足元がぐらつきだした。
読売新聞は、安倍総理と墓場まで手をつないで行くつもりなのだろうか。
本来、安倍総理が、いわゆる「集団的自衛権」の行使容認を憲法解釈の変更によって可能にしようとした原点は、日米安保条約の片務性を解消し、双務的関係つまり「いちおう対等な日米関係」に近づけたいという念願にあったと、私は考えていた。
そうした理解の上で、総理の基本的考えは理解できないことはないが、二つの点で無理があると、これまでブログで書いてきた。私のブログが世論を直接左右できるような力はないことは百も承知だが、メディアは私の主張を無視できない状況になっている。それが、「集団的自衛権行使の憲法解釈による限定容認」についての世論調査の結果として現れ始めた。どのメディアの世論調査でも、反対が過半数に達し、賛成は30%以下でしかない。
たとえば朝日新聞が24,25日に行った全国世論調査(電話)の結果では、賛成は29%、反対は55%と倍近くに上回った。さらに憲法改正の手続きを踏まずに内閣の判断で憲法解釈を変えるという安倍総理の方針に対しての国民の拒否反応は強く、「適切だ」とするのが18%、「適切でない」と答えたのが67%に達し、さらに安倍内閣支持層や自民支持層でも「適切でない」としたのが5割前後に達し、公明支持層では8割以上が「適切でない」とした。
安倍総理は5月15日に行った記者会見で、国民に「憲法解釈を変更して集団的自衛権を限定的に行使する」という方針について理解を求めた。その切々とした訴えに対する国民の回答である。
安倍総理の基本的思考法に対する、別の角度からのメッセージがある。ウクライナ紛争に関して日本が対ロ経済制裁を科したことに対するロシアのプーチン大統領の発言だ。「日本は北方領土問題の話し合いも中断するのだろうか」という内容だ。安倍総理が、対ロ制裁に踏み切って以降、プーチン大統領が初めて示した反応である。このことの意味は大きい。はっきり言えば、北方領土問題は完全に白紙に戻ったということだ。なお読売新聞は27日付朝刊でプーチン大統領の発言について「驚いた」という部分しか報じなかった。読売新聞はそこまで安倍総理の走狗(そうく)になったのか。
ウクライナ問題は非常にややこしい側面がある。メディアの報道では「暫定政権」vs「親ロシア派」という対立構造で描かれることがこれまでは多かった。こういう対立は、どう考えても論理的にありえない。「どういう対立なのか」私もメディアの報道ではよく分からない。ウィキペディアで調べても、やはり分からない。で、何度もNHKのふれあいセンターの上席責任者に『クローズアップ現代』で分かりやすく解説してほしいと要請してきた。5月21日(木)にようやく『クローズアップ現代』がウクライナ問題を取り上げた。金・土・日は『クローズアップ現代』は放送しないので、25日(日)に行われるウクライナの大統領選挙の日程から、ギリギリの放送スケジュールだったのだと思う。
そもそも「親ロシア派」とは何を意味する言葉なのか、また「ロシア系住民」とはどういう意味なのか。それがどうしても理解できない。
対立軸の一方が「暫定政権」であるならば、その対立軸にあるのは「前政権派」か、あるいは第三の政治勢力でなければおかしい。そうだとしたら、その対立が突然「国家分裂」に至るのも理解しかねるし、欧米やロシアがウクライナの紛争に内政干渉するのもおかしい。現にタイでも前政権のタクシン派と反タクシン派が対立し、中立的立場をとっていた軍がクーデターによって政権を掌握する事態になっているが、国家分裂に至ることは懸念もされていず、まして他国がタイの紛争に内政干渉に乗り出すような動きも報道されていない。なお軍は反タクシン派色を鮮明にしつつあるようだ。
また対立軸のもう一方を「親ロシア派」とするならば、その対立軸にあるのは「親欧米派」とするのが妥当だろう。そう考えると、「ロシア系住民」とはロシア民族を意味し、「暫定政権派=ウクライナ民族」という民族間の紛争ということになる。ただ、これまで民族間の対立がウクライナでくすぶっていたのかどうかも分からない。経済関係においても外交関係においても、これまで日本とは縁が深いとは言えないウクライナの国内情勢に、メディアがあまり関心を払ってこなかったことは理解できるが、安倍総理がオバマ大統領の恫喝に屈して、「暫定政権」を支持している欧米に足並みをそろえて対ロ制裁に踏み切った以上、メディアはウクライナ紛争の真相を報道する義務がある。
が、『クローズアップ現代』は、残念ながら私の期待を裏切った。番組終了後、ふれあいセンターではなく番組担当者に電話をした。「対立軸の一方を親ロシア派とする以上、暫定政権は親欧米派とするのが妥当だ。また国谷氏(キャスター)は放送で2度『民族主義』という言葉を使っている。ウクライナの紛争は民族対立ではないのか」と質問をぶつけた。番組担当者は「スタジオでは親欧米派とすべきだという考えもありましたが、他のメディアも暫定政権vs親ロシア派という対立軸で報道しているので、その方が分かりやすいのではないかという結論になりました。かえって分かりにくくなったというご指摘は今後の番組に生かしたいと思います。また国谷が『民族主義』という言葉を使ったことは事実ですが、その言葉が何を意味するのかは私も分かりません」と答えた。
基本的に国家分裂に至るような国内の紛争は、民族対立か宗教対立しか考えられない。が、近代以降は宗教対立が国家分裂の主要な原因になったケースはないようだ。現代に入って民族対立が大規模な国家分裂に至ったケースとしては、旧ユーゴスラビア連邦共和国があげられよう。旧ユーゴは国名に「連邦」とあるように各共和国の自治権がもともと強く、東欧革命によって共産主義勢力の1党独裁政治が崩壊し、各共和国に民族色の強い政権が生まれた。その後、さまざまな過程を経て旧ユーゴは2006年にスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニアの6か国に分裂した。が、それで民族対立が収まったのかというと、そうではなく2008年にはセルビアの自治州だったコソボが独立を宣言したが、クリミア自治共和国と同様「戦争→独立」といった形ではなく、ある意味では「平和的」に実現した独立であった。が、コソボを独立国家として承認している国は少数のようだ。またボスニア・ヘルツェゴビナにはボシュニャク人(ムスリム人)、セルビア人、クロアチア人がそれぞれ44%、33%、17%という異なる民族の構成になっており、血を血で洗う内戦を生じた。
また中国ではウイグル族が大多数を占める新疆ウイグル自治区での混乱がしばしば報じられている。2013年10月には北京の天安門にガソリンを満載した自動車でウイグル族一家が自動車で突入して自爆した。最近も(5月22日)ウルムチ市の繁華街の朝市でにぎわう人ごみに自動車2台が突っ込み、人ごみに爆発物を投げ数十人の死傷者が出た。中国政府は「イスラム原理主義者によるテロ行為」と断定し、徹底的に弾圧する構えを見せている。ウイグル族の多くはイスラム教徒であることは間違いないが、「イスラム原理主義過激派のテロ」とすると、違和感がある。イスラム原理主義では「自殺による闘争」を正義としており、実際、中東でのイスラム原理主義者のテロは「自爆」が原則である。ウルムチ市の場合、「自爆テロ」ではなく、犯人は爆発物を人ごみに投げたあと逃走している。しかも天安門事件とは異なり、ウイグル族同胞に対するテロ行為である。そういうことがありうるのだろうか。私は新疆ウイグル自治区の共産党指導部が仕組んだ「自作自演」のテロ行為ではないかとみている。少なくとも私はイスラム原理主義者(あるいは過激派)が、同胞を標的にしたテロ行為に走った事件は、寡聞にして知らない。
24日、TBSが『報道特集』でウクライナ問題を取り上げた。TBSは「親ロシア派」とされるウクライナ東部2州(ドネツク州、ルガンスタ州)のウクライナからの分離独立を求めた「親ロシア派」にかなり深く踏み込んだ取材をした。「親ロシア派」のリーダーにインタビューして「我々はロシア民族だ」という主張も紹介した。一方で、一般の女子大生にインタビューして「ロシアのテレビしか見ない父とインターネットで情報を入手している母との意見が対立し、私も困っている」という家族内の複雑の事情も明らかにした。対立軸も、「親欧米派vs親ロシア派」と明確にした。
この放送によって、ようやく私は、暫定政権は親欧米派であり、EUへの加盟を目指しているようだという論理的推測に達することができた(※そんなことは常識だ、というメディア側の反論は認めない)。そのためロシア民族を中心とする「親ロシア派」が住民投票による「平和的独立」を成し遂げ、ヨーロッパの一員になることを拒否したのだろうという結論に達することができた。おそらく、これまではウクライナで民族間の表立った紛争はなかったのだろう。一般的に民族紛争は、多数派民族あるいは少数派でも軍事力を掌握している側が、少数民族あるいは軍事的弱者民族を支配し、明らかな差別をしてきたことに端を発して生じている。ウクライナ政府は、そうした民族紛争の火種となるような差別政策をとってこなかったのだと思う。現に暫定政権の前の政府は親ロシアだったし、ある意味では異なる民族が平和的に共存してきた理想的な国家だったのだろう。
が、ウクライナが合法的にEUに加盟するとなると、ロシア民族を中核とする「親ロシア派」にとっては耐え難いことなのかもしれない。いや親ロシア派だけでなく、ヨーロッパ諸国とロシアにとっては、ウクライナの去就に国益がかかってくる。そもそも、少数派の「親ロシア派」が政権の座に就くことができたのも、ロシアが天然ガスのウクライナへの輸出価格を国際市場価格の半分程度に抑えるという政策をとってきたからでもあった。ウクライナとくにクリミアはロシアにとって極めて重要な軍事拠点であり、しかも「ロシア系住民」が6割を占めている。クリミア自治共和国のウクライナからの分離独立とロシアへの編入を、背後でロシア政府が画策した可能性は否定できない。
が、クリミアに続いて東部2州が住民投票でウクライナから分離独立し、ロシアへの編入を求める事態に至るまでは、ロシアも欧米も予想していなかったのだろう。ロシアのプーチン大統領も東部2州の住民投票に対しては遺憾の意を表明したのも、これ以上欧米との軋轢を強めたくないという思惑が働いたのだろうと思う。
『報道特集』によって、ようやくウクライナ紛争の真相に迫れたと思った私は、放送当日NHKふれあいセンターの上席責任者に電話した。「はっきり言って21日放送の『クローズアップ現代』は、今日放送したTBS『報道特集』に完敗した。私がなぜ『クローズアップ現代』が完敗したと判断したのか、『報道特集』を録画でみていただきたい」と申し入れた。
問題はウクライナ問題に対する安倍内閣の対応であった。すでに述べたように、ウクライナがどうなろうと、こうなろうと、日本の国益にとってはどうでもいいことだ。だから、安倍内閣もウクライナ問題をめぐる欧米とロシアの対立には、当初「われ関せず」のスタンスをとっていた。が、オバマ大統領が「日本は西側の一員だろう」と安倍総理を恫喝した(と思う。そうでなければ安倍総理の変心の説明がつかない)。尖閣諸島問題での「借り」がある安倍総理としては、「はい。わかりました。ご主人様のおっしゃる通りにします」と、欧米に足並みをそろえて対ロ制裁に踏み切った。日本がアメリカの従属国であることを、総理自身が認めた瞬間である。過去の日本政府には、こうしたことはなかったからである。
実は前にブログでも書いたが、アメリカにとっても米ソが対立していた冷戦時代が終わった今日、ウクライナがどうなろうとアメリカにとってもさしたる影響はない。が、アメリカはEU諸国の多くと同盟関係にあり、EU加盟国の多くにとってはウクライナの分裂は国益を左右する重要な関心事にならざるを得ない。EUがウクライナ紛争に内政干渉したのも、自分たちの国益がかかっていたからである。
一方、ウクライナの動向が直接国益を左右するとは考えにくいアメリカにとっては、EUにこの際「貸し」を作っておくことが将来の「国益」につながる可能性が高い。アメリカは「人種のるつぼ」と呼ばれるほどの多民族国家である。当然宗教問題が頻発してもおかしくないのだが、アングロサクソン民族が長い間政治的支配権を掌握してきた過程で、アフリカ系黒人の多くもキリスト教に改宗してきた。初の黒人系大統領のオバマ氏もキリスト教徒である。
アメリカでは、ベトナム戦争の敗北で徴兵制が撤廃されて以降徴兵制はなくなったが、徴兵制時代でも宗教上の理由で徴兵義務を拒否する権利を国民に認めていた。日本でも大きな人気を集めていた世界最強のプロ・ボクサーだったモハメッド・アリが、イスラム教徒に改宗して徴兵を拒否したことで、「偽装改宗ではないか」と疑った米政府に訴訟を起こされたが、長期にわたる裁判の結果、アリが無罪になったという経緯もある。
基本的には宗教に対しては寛容なアメリカだが、イスラム原理主義者に対しては厳しい態度をとってきた。アメリカにとって唯一といってもいい「頭が痛い」問題はイスラエルである。世界中のどの国に対しても膝を屈することがないアメリカだが、イスラエルにだけは頭が上がらないようだ。「核不拡散条約」についても、イランや北朝鮮に対しては厳しい姿勢で臨んでいるアメリカだが、事実上核保有国とみられているイスラエルには、国連による調査に対しても拒否権を発動してイスラエルの防波堤になっている。では、イスラエルがアメリカの戦争行為に、イギリスのように同調するかといえば、「アメリカが勝手にやっている戦争だ」と言わんばかりに知らんぷりを決め込んでいる。アメリカが日本に君臨しているように、イスラエルはアメリカに君臨できる世界唯一の国なのかもしれない。
それはともかく日本の外交は、しばしば「対米追随だ」とメディアからも批判されてきた。が、少なくともこれまでは、日本の重要な「国益」に反するような対米追随をアメリカから強いられることはなかった。湾岸戦争のときも「日本は金だけ出して血を流そうとしなかった」と欧米から厳しい批判を浴び、以降日本は軍事行動を伴わないPKO(国連平和維持活動)には積極的に貢献することにした。PKOの予算は国連加盟国が分担しているが、途上国に負担軽減を認める一方で、安保理常任理事国には加重負担を求めることに一応なっている。日本は拒否権を行使できる常任理事国ではないが、分担金はアメリカに次ぐ大金を負担している。なおアメリカは未払いを続けているが、日本は律儀に支払っている。
これまでは、日本の外交政策がアメリカの言いなりだったとしても、それが国益を大きく損ねるということはなかった。が、日本にとってどうでもいいウクライナの問題で、オバマ大統領に膝を屈して対ロ制裁に踏み切り、プーチン大統領から「日本は北方領土問題の話し合いも中断するのだろうか」とカードを切られてしまった。「これとそれとは別の問題」とは、いくら厚顔無恥な安倍総理も言えまい。もう日本政府は後が引けなくなった。核大国のロシアに対して「宣戦布告」をして北方四島を取り返すか、「もう北方領土問題は二度と口にしません。日本は領有権を放棄します」と言うか。あるいは、ひざを屈しついでに安倍総理がオバマ大統領に土下座して「ご主人様におっしゃる通り対ロ制裁に踏み切ったのですから、北方領土問題の解決のためにアメリカの核の力を貸してください」と願い出るか。ま、無駄だろうけどね。
実はこのブログ原稿は25日から26日にかけて書いたものに今日多少手を加えた。25日に行われたウクライナの大統領選挙の結果は最初から火を見るより明らかだったし、私には憲法解釈の変更による集団的自衛権行使容認についての世論調査の結果が明らかになったことで、安倍総理が執念とも言える対米追随政策を、世論に逆らってまで強行するかどうかの方がはるかに重大な関心事であった。
が、26日のNHK『ニュース7』を見ていてびっくりした。ウクライナの大統領選挙で決選投票を待たずにいきなり1回目の投票で過半数を獲得して新大統領の椅子を獲得したポロシェンコ氏に対して「親欧米派」と呼んだからだ。さらに、そのニュースのあとでフランスの議会選挙で極右政党の「国民戦線」が大躍進し、EUの方向性を左右するヨーロッパ議会の選挙でも極右政党の議席が増大しているというニュースを流した。NHKはウクライナ問題とヨーロッパにおける極右政党の台頭を関連付けてはいなかったが、無関係ということはありえない。
またロシアの軍事的後ろ盾への期待が薄らいだドネツク州の「親ロシア派」が、空港を武力制圧して気勢を上げた。それに対して暫定政権は数日中に誕生する新政権の意向を先取りして武力弾圧に乗り出し、数百人の犠牲者を出したようだ。プーチン大統領が東部2州の「親ロシア派」勢力を軍事的に支援することはもはやありえない、と暫定政権は読んだのだろう。一方、ヨーロッパで台頭しつつある極右勢力が、ウクライナ内紛に乗じてどういう行動に出るか、ウクライナ情勢はさらに混迷の度を高めつつある。その場合、オバマ大統領が安倍総理にどういう命令を下すだろうか。安倍内閣は、対ロ制裁に踏み切ったとはいえ、欧米のような厳しい経済制裁(資産凍結)には至っていない。オバマ大統領にとっては極めて不満のようだ。
さらに降ってわいたようなベトナムと中国の争いが生じた。日本にとって、経済的には中国ともベトナムとも関係が深い。昨日両国の漁船同士が衝突し、ベトナム漁船が沈没した事件について、ベトナム政府は中国漁船が突っ込んできたと抗議し、中国政府はベトナム漁船が突っ込んできたと正反対の声明を出した。真相はおそらく今日中に映像で流れると思うが、昨日のNHKのニュースでは、小野寺防衛相が「中国漁船がベトナム漁船に衝突した」と明確に中国側の比をコメントしたのに対して、政府の公的スポークスマンである菅官房長官は国名を一切出さず、きわめて歯切れの悪い声明を発表した。中国に対する配慮というより、オバマ大統領の意向を見極めてからにしようという姿勢が見え見えの発表だった。
歴代総理の中でも比較的長期にわたって高い支持率を維持してきた安倍内閣だが、国民の総意に逆らって憲法解釈の変更による集団的自衛権の限定行使容認を閣議決定に強引に踏み出したら、支持母体の創価学会の意向に逆らってまで安倍政権の補完的役割をはたしてきた山口公明党も、自民党とたもとを分かたざるをえなくなる。安倍政権の足元がぐらつきだした。
読売新聞は、安倍総理と墓場まで手をつないで行くつもりなのだろうか。
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