この間頂いた書籍群の中から「切腹の美学」(八切止夫著・昭和46年初版発行・発行所(株)秋田書店)という一冊を読んだ。内容を要訳し感想を書く。八切止夫(やぎり とめお)‥変わった名前だ。
この「切腹の美学」という本は今まで読んだ切腹研究の書とは少し違っている。まず始めに著者はこの本の発行のきっかけになった三島由紀夫の切腹についての考察を書いている。その中で新渡戸稲造著作のかの有名な「武士道」は新渡戸のカナダ人の妻が書いたものだと述べている。英文で書かれた実物草稿は、著者曰く達筆で癖のある女文字だったそうだ。「武士道」の序文には、‥これは妻から日本の風習について聞かれそれについて説明している内に出来たようなものである‥、と書いてあるらしい。
「武士道」は最初アメリカで発行され、その後和訳されて日本で発行されている。しかし和訳したのは著者のはずの新渡戸稲造ではなく別の人物であるらしい。母国語に翻訳するのなら新渡戸本人がすればいいものを、だ。「武士道」の文面も、著者曰く「持って廻ったような舌足らずで日本人には読み辛く、外国人受けは良い」ものだそうだ。
僕が「武士道」を読んだことがあれば、少なくとも訳された文面の雰囲気を伝えることができたかも知れないが、残念ながら読んだことはない。
著者曰く「武士道」は発刊以来、日露戦争から太平洋戦争までの戦意高揚に大きな役割を果たしている。「武士道」に書かれた生き方死に方を手本にした軍人(さらには日本男子)は多いだろう、と書く。その名著が実は一外国人婦人が書いたものだとしたら‥
こういう書き出しから始まり、著者自身が今までに書いた小説を全文または切腹の場面を特に抜粋したものを七編ほど載せている。これらの小説はどれも「アンチ切腹の美学」と言ってもいいほど酷く悲惨で時には滑稽な切腹の姿を描いている。
最後に著者は、―どうか今後は、切腹の本質をよく見極めて、美化することのないよう、やたらと模倣せぬことを切に祈るものである―、と結んでいる。この一文に、著者が言いたかったことは集約されていると思う。この本は美化された切腹へのアンチテーゼなのだ。
現在一般的な「切腹」の姿とは少なからず美化されてきたものであり、「切腹の歴史」自体もそれが拠り所とする史料とされるものがもともと怪しいからあてにはならない。後の世に書かれた軍記物や講談話に出てくる切腹の場面など所詮お客が楽しんでなんぼのファンタジーである。しかし、それを真に受けて美化された切腹を実行してしまった、またその武士道精神に感銘を受けた日本男子は数知れない。
―「切腹論考」(著者が三島事件前に出した切腹研究書)を三島氏が読んでいたらしいだけに、この間のことは残念でならない―と著者は書く。
「切腹」が持つ美化されがちな精神性に否定的な立場からの切腹研究書というのは初めて読んだので面白かった。「切腹」というのはもともと仏教系(渡来系・弥生系)勢力が、被占領民である神道系(原住民系・縄文系・東国武士など)勢力に課した過酷な刑罰であった‥それを武士が自らのアイデンティティーに組み込み、後に誇り高い死に方とされるように変遷していった、という説も、今まで聞いたことのないものだった。
ちなみに八切というのは「切腹」の別名らしい。ペンネームにまでメッセージが込められているんだろうか??
読み物としての面白さ ☆☆☆☆★
新情報度 ☆☆☆☆☆
資料の貴重度 ☆☆☆☆★
切腹フェチの満足度 ☆★★★★
総合点 ☆☆☆☆★
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/b4/4294dec5a23fb326bd7b48f0f78ae255.jpg)
20代・8位△ イラスト・58位△
この「切腹の美学」という本は今まで読んだ切腹研究の書とは少し違っている。まず始めに著者はこの本の発行のきっかけになった三島由紀夫の切腹についての考察を書いている。その中で新渡戸稲造著作のかの有名な「武士道」は新渡戸のカナダ人の妻が書いたものだと述べている。英文で書かれた実物草稿は、著者曰く達筆で癖のある女文字だったそうだ。「武士道」の序文には、‥これは妻から日本の風習について聞かれそれについて説明している内に出来たようなものである‥、と書いてあるらしい。
「武士道」は最初アメリカで発行され、その後和訳されて日本で発行されている。しかし和訳したのは著者のはずの新渡戸稲造ではなく別の人物であるらしい。母国語に翻訳するのなら新渡戸本人がすればいいものを、だ。「武士道」の文面も、著者曰く「持って廻ったような舌足らずで日本人には読み辛く、外国人受けは良い」ものだそうだ。
僕が「武士道」を読んだことがあれば、少なくとも訳された文面の雰囲気を伝えることができたかも知れないが、残念ながら読んだことはない。
著者曰く「武士道」は発刊以来、日露戦争から太平洋戦争までの戦意高揚に大きな役割を果たしている。「武士道」に書かれた生き方死に方を手本にした軍人(さらには日本男子)は多いだろう、と書く。その名著が実は一外国人婦人が書いたものだとしたら‥
こういう書き出しから始まり、著者自身が今までに書いた小説を全文または切腹の場面を特に抜粋したものを七編ほど載せている。これらの小説はどれも「アンチ切腹の美学」と言ってもいいほど酷く悲惨で時には滑稽な切腹の姿を描いている。
最後に著者は、―どうか今後は、切腹の本質をよく見極めて、美化することのないよう、やたらと模倣せぬことを切に祈るものである―、と結んでいる。この一文に、著者が言いたかったことは集約されていると思う。この本は美化された切腹へのアンチテーゼなのだ。
現在一般的な「切腹」の姿とは少なからず美化されてきたものであり、「切腹の歴史」自体もそれが拠り所とする史料とされるものがもともと怪しいからあてにはならない。後の世に書かれた軍記物や講談話に出てくる切腹の場面など所詮お客が楽しんでなんぼのファンタジーである。しかし、それを真に受けて美化された切腹を実行してしまった、またその武士道精神に感銘を受けた日本男子は数知れない。
―「切腹論考」(著者が三島事件前に出した切腹研究書)を三島氏が読んでいたらしいだけに、この間のことは残念でならない―と著者は書く。
「切腹」が持つ美化されがちな精神性に否定的な立場からの切腹研究書というのは初めて読んだので面白かった。「切腹」というのはもともと仏教系(渡来系・弥生系)勢力が、被占領民である神道系(原住民系・縄文系・東国武士など)勢力に課した過酷な刑罰であった‥それを武士が自らのアイデンティティーに組み込み、後に誇り高い死に方とされるように変遷していった、という説も、今まで聞いたことのないものだった。
ちなみに八切というのは「切腹」の別名らしい。ペンネームにまでメッセージが込められているんだろうか??
読み物としての面白さ ☆☆☆☆★
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