2012年12月7日(金) 久し振りに有給休暇がとれたこの週末。 天気予報をチェックすると、土日は風が強く気温も低い予報。
外遊びが楽しめるのは金曜日一日だけになりそうだが、せっかくだからゆっくりと楽しみたい。 久し振りに、岡村島で一泊してのんびりカヤック&バイクを楽しむとしようか。
キャンプ道具一式を積んで島渡りでのキャンプツーリングではニンバスのニヤックを使うのだが、日帰りツーリングやベースキャンプ方式でのキャンプツーリングにはこれと決めているウイルダネスシステムズのケープホーンと、旅する折り畳み自転車『Dahon Speed TR』を積んで、とびしま海道へ。
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いつもの浜に到着し、積みっぱなしにしてあったシーカヤックのコックピットカバーを外すと、氷の固まりが落ちてきた。 『えー、なんやこれ』
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クルマの外気温計では1℃。 『おー、寒ッ』
冬のツーリングにはこれしかないという、昨年手に入れたコーカタットのドライスーツを着込み、準備完了。
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今年は検診で指摘を受けた事を切っ掛けに9kgの減量に成功し、現在も体重を維持。 そのせいで、ありとあらゆる服のサイズが合わなくなり、スーツや普段着、アウトドアウエアなども買い替えているのだが、さすがに10万円を越えるドライスーツをそう簡単に買い替える訳にはいかない。
運転してきたジャージの上下のまま、ドライスーツを着込み、ウエストの調整用バンドをギュッと引き締める。 『うん、なんとかいけそうだ』
***
『ようし、出発だ』
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お気に入りのエリアを、手に馴染んだ名パドル、ワーナーの『アークティックウインド』でお散歩である。
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まだこのエリアでは、紅葉の名残が。
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ここは、二つの橋の眺めがお気に入りの、『とびしま海道』らしい景色が楽しめるコース。
ミカンで有名な大長のすぐ傍であり、蜜柑用の農作業小屋も立派である。
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今日の夕方から荒れてくるとの事だが、今は絶好のツーリング日和。
***
しばらく進むと、海岸際の急斜面に石積みでつくられた畑が見えてきた。
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ほんと、この景色はいつ見ても感心する。 あれだけの畑を作るために、どれだけの力が注がれたのだろうか。 昔の人は凄いなあ。
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石積みを眺めながら水路を漕ぎ進んでいると、道路のすぐ上の崖で何か作業している人が見えた。 どうやら、崖の斜面を削っておられるようだ。
『こんにちは。 これは何をやっておられるんですか?』 『こりゃあ、石積みのここの道に泥を詰めよう思うて』
『ここの道は、わしが石を積んでつくったんよ』 『えー! 凄いですね。 さっきあっちの方から、この石積みはスゴいなあって思いながら眺めてたんですよ』
『雨が降ったら泥が流れる。 じゃけえ、雨の後はこうやって時々泥を入れて、歩き易いようにしよるんよ』
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『この道、作るのにどれくらい掛かったんですか?』 『ほうじゃのう、だいたい10年くらい掛かったかの』
『この先に、うちの畑がある。 そこまで道をつけてくれんか、いうて役場に頼んだんじゃが、作ってくれんけえ、自分で石を積んだ』 『この道は、わしが畑に行くだけじゃのうて、釣りをする人も使いよる』
『わしは、小学校3年の頃から石を積みよる。 この前、その3年生の時に積んだ石垣を見に行ったら、イノシシに壊されてしもうとった』
『昔は蜜柑も作りよった。 この辺りだけじゃのうて、横島や大横島の方にも船で通うて蜜柑を作りよったんよ』 『昔は、まだ動力船じゃなかったけえ、櫓を漕いでのう。 だいたい片道4時間くらい櫓を押して島に通いよった』 『そうなんですか! 横島や大横島の方には、私も時々カヤックで遊びに行くんですよ。 それにしても4時間言うたら、まだ暗いうちに家を出んといけませんね』
『そうよ。 それに櫓を4時間も押すんじゃけえ、昔は力も強かった。 セメント袋を3つ担いで50mくらい歩いた事もある。 またこの辺りで腕相撲大会があった時には、8人連続で勝ったもんよ』 『じゃが、8人続けてやったらさすがに疲れて、その後は負けてしもうた。 まあ、強いもんから順番に8人どんどん勝負じゃけんのう』と笑う。
『蜜柑もえっと担いで急斜面を登りよった』 『昔は、蜜柑がえらい景気が良かったらしいですね』 『ほうよ。 昔はえかった』
『今年は蜜柑が少のうて』 『裏年なんですか?』 『いいや、そうじゃないが。 春に蜜柑の花が落ちて、少ないんよ』 『なるほど』
***
『それにしても、この石はどこから持ってくるんですか?』 『この石は持ってくるじゃないんよ。 ここの崖を崩して、出てきた石を積んでいくんじゃ』
『そうなんですか!』 『ここの所は、何年か前の台風で崩れたんよ。 下に大きな石があって、仕方のう、その石の上に積んどったんじゃが、やっぱり大きな力が掛かったらズレて崩れてしもうた。 じゃけえ、その後は一番下の大きな石の所にコンクリートを打って、土台をしっかり作ってから積んだんじゃ』
『いろいろと工夫が要るんですね』 『そうよ。 家でもそうじゃが、なんでも基礎が大事じゃ』 『人間も一緒ですね』 『ほんまよのう』と笑い合った。
『ところでおいくつなんですか?』 『80じゃ』 『若う見えますね』
『わしも、もうここ2、3年が山じゃと思うとる。 まあ、わしが死んでもこの石積みは残ってくれる』
決して大柄ではないのだが、服の上からも筋肉質の体である事が分かる。 とても80歳には見えない、仕事で鍛え上げられた見事な体。 自分が畑に行くだけではなく、釣りをする人も歩き易いようにと、雨の後は流れた泥を時々入れるという心遣い。 自分が居なくなっても残るものを、根気よく、工夫し、そして楽しみながら自分の手でコツコツと造り上げていく。
カッコええなあ。 俺も、こんなジイさんになりたいものである。
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『ありがとうございました。 えっと、ええ話を聞かせてもろうて』 『いやあ、こっちこそありがとう』
***
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水路を南下し、御手洗経由で出発した浜に戻る。
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約1時間半のお散歩ツーリング。
シーカヤックを引き揚げ、ドライスーツを脱ぐと、岡村島で定宿にしている施設を借りる手続きをし、カヤックと道具を潮抜きして着替え、クルマから『Dahon Speed TR』を引っ張り出す。
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ようし、昼飯を喰いにいくか!
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海沿いの道を走り、
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県境を越え、
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いくつもの橋を渡り、
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御手洗へ。
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御手洗では、いつも立ち寄る『みはらし食堂』さんへ。
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今日は、お気に入りの『中華そば』
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『いただきます』 まずはスープをゴクリ。 『おー、この味この味』
麺をズルリ。 スープをゴクリ。 メンマをサクリ。 スープは最後の一滴まで飲み干し、『ごちそうさまでした』 いやあ、美味かった。
しばし御手洗を散策。
大長も散策。
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宿泊施設に戻ると、風呂に湯を張り、カヤックと自転車の汗を流し、冷えた体を暖める。 『あー、さっぱりしたあ。 ホンマ、気持ちええなあ』
風呂から上がると、もちろんビールである。
今日は、最近入手した秘密兵器を持ってきた。
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キャンプツーリング用に購入した『バカラ(Baccarat)』である。
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大好きなエビスビールをバカラに注ぐ。 『いやあ、いつもより何倍も美味そうだなあ』
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『ゴクッ、ゴクッ、ゴクリ』 『プハーッ。 いやあ、こりゃ堪らん』
バカラのズシリと手にくる重さも新鮮な感覚で、ビールを飲む時に、口や喉の楽しみに加え、手の楽しみも味わえるのが素晴らしい。
シーカヤックと自転車を楽しんだ後、瀬戸内の景色を眺めながらバカラで飲むエビスビール。 これ以上、何が要る?
ビールを飲んでしばし休憩した後は、ちょっとお散歩。
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急斜面をゼイゼイ言いながら登る。
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蜜柑がつやつやと美しい。
散歩の目的地は展望台。
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ここからの眺めが好きなのだ。
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傾いていく夕日に海が輝く。
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いやあ、登って来てよかった。
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晩ご飯は鍋。
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食後は、バカラにワインを注いで、冬の岡村島をたっぷりと堪能。
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2012年12月8日(土) 朝起きると、スゴい風の音。 天気予報通りである。
うどんの朝食を済ませ、朝風呂で体を伸ばした後は、海を眺めながらコーヒーを楽しむ。
鍵を返し、家路に。
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すごい西風で、普段は穏やかな瀬戸内海も白波で、あちらこちらに兎が跳んでいる。
帰りは大長に立ち寄り、家族へのお土産に蜜柑を購入。
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『これ、食べてみんさい』 『お、これ美味いですね』 おばあちゃんと話しながらおススメを聞き、『じゃあこれ下さい。 5キロ、お願いします』
『二級品にする、それとも一級品?』 『せっかくだから、一級品で』
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『いしじ蜜柑』と言うそうである。 なにやら高級品だそうな。 店で買うと、10kgで6千円を越えることもあるそうだ。
『こりゃあ、まだもぎたてじゃけえね』 『少し置いておいた方が甘くなりますか?』 『そりゃそうよ』 なるほど、完熟を待つのも楽しみだ。
途中、高台に立ち寄り、初冬の嵐が吹き荒れる瀬戸内の景色を堪能した。
地元、とびしま海道でのカヤック&バイクを、ゆっくり泊付きで楽しむことができた。 その上、カッコイイじいさんに石積みの話も伺うことができたし、おいしい蜜柑も手に入れた。
いやあ、今回も『芸予諸島スタイル』らしい外遊びで、なかなかええ週末やったなあ!