2012年4月14日(土) 朝5時過ぎ。 目覚めると、MacBookから買い替えたばかりのMacBookProを立ち上げ、天気予報と波の予報をチェック。
『おお、これは完璧じゃん。 今日は久し振りに島根半島へ行ってくるけん』
私の場合、基本的に漕ぐ場所を決めるのはその日の朝5時過ぎ。 前日夜の予報で、候補を数カ所に絞っておき、朝起きた時の最新の天気予報で最終決定するのである。
今回は、島根半島の波の予報が土日とも1m。 絶好のツーリングコンディションになりそうだ。 今年初めてとなる日本海。 『これは行くしかあるまい』
シーカヤックとMTBを積んで、風向きと波次第で、西へ東へ、南へ北へ。 これが私流の楽しみ方である。
***
キャンプ予定の小波海水浴場に向かう道すがら、久し振りにチェリーロードへ立ち寄ってみた。
桜は満開に近く、日本海の美しい緑とのコントラストが美しい。
桜と海の景色とを堪能しつつ、快適なドライブ。 久し振りとなる島根半島キャンプツーリング、出だしは好調である。
多古に行ってみたが、北東の風がそこそこ吹いており、海は少しザワザワしている。
『まあいいか。 いつも多古の七つ穴ばかりでは面白くないよな。 今日は風裏となる加賀方面に行ってみるか』
***
今日のツーリングの出発地点でもあり、キャンプ地でもある小波海水浴場に到着。
ここで初めて漕いだのは、1996年の事。 海と景色の良さに惚れ込み、毎年通うお気に入りの場所である。
お昼ご飯を簡単に済ませ、シーカヤックを降ろし、ドライスーツを着込んで海に漕ぎ出した。
浅くて透明な海は、まるで沖縄を漕いでいる気分にしてくれる。
少し沖に出て深くなると、透明な海から美しいグリーンの海へと変わる。
岬をまわり、チェリーロード側の海へ。
穏やかな春の日本海を漕ぎながら、海から花見気分のツーリング。
加賀鼻の手前まで漕ぐと、多古鼻を回り込んできた風が抜けており、少し波がザワついている。 ここまでで約1時間。 『ちょうどいい。 ここで引き返すとしよう』
ここからは、陸沿いに漕ぎ進み、湾や岩礁地帯の様子を丹念にチェック。
前日までの雨でできた、海に注ぐ滝。
夏になったらシュノーケリングを楽しみたい様な、静かな湾も沢山ある。
さすが島根半島。 海の透明度は抜群である。
***
さらに引き返し、野波の漁港へ。 ここには、舟屋が残っている。
舟屋の目の前にカヤックを引き揚げ、しばし休憩。 見ると、おばあちゃんが何か採っている様子。
『こんにちは。 これは何が採れるんですか?』 『これはね、”そぞ”いう海藻』
『へえ、”そぞ”ですか。 初めて聞きました』 『まあ、正式な名前は知らんよ。 でも私らには”そぞ”。 私は境港なんじゃけど、最近はなかなかこれがなくて。 それでここまで採りにくるんよ』
『そうなんですか』 『この”そぞ”は、こっちの方の人はあまり食べんいうし、境港の方でも町の方の人は食べん。 私ら浜の方の人間だけよ』
『こりゃあ、どうやって食べるんですか?』 『これはね、さっとお湯で湯掻いてポン酢で食べたり、佃煮を作ったり。 私はこれが大好きで、春になったらこれを食べるんを楽しみにしとるんよ。 もうこの時期になったらソワソワしてくる』
『それなら、私も今日の夜はキャンプの予定なんで、ちょっと採って帰って食べてみますよ』 『湯掻いたら、最初はヨードの強い匂いがするけど、軽く湯掻くだけでええよ』 『はい。 分かりました。 一人なんで、少しだけ採って帰ります』
春の海で、しばし海藻を採取。 おばあちゃんと一緒にきているお孫さん達は、下着姿になって海に浸かって遊んでいる。 『やっぱ子供は元気やなあ』
そのお孫さんが手に何か持って『これ、何て言う名前じゃったっけ? 紫色の汁をだすもん』と聞いてきた。 『お、それはアメフラシよ』と教えてあげると、『そうじゃった、アメフラシ。 あっちにいっぱいおるよ』と言いながら、他の子供達の方へ戻って行く。
『どれどれ』と俺も海に入り(残念ながらドライスーツだが)、磯でアメフラシ探し。 『ここに居るで!』と捕まえてみせると、『あー、それ大きい。 ○○ちゃん、それもらってきて』 取りにきた子供に『ほれ』と手渡し、次を探す。
しばし、海藻採りとアメフラシ探しで、春の日本海を楽しんだ。
***
ふと舟屋の方を見ると、一艘の漁船にロープを掛けておられた。
『こんにちは。 これ、舟屋に収められるんですか?』 『いいやあ、そこのペンキを塗り直そうと思うて、少し浜に揚げるんよ』
『冬は、この舟屋に収められるんですよね』 『昔はそうじゃったけど、ここの防波堤ができてからは、冬でも舟屋に揚げんでもようなった』 『そうなんですか』
『あっちの舟屋には、木造船がありますね』 『うん、あれはもう大分古いよ。 30年以上前の船じゃろう』
『ありゃあ、手漕ぎ舟ですか?』 『いいや、エンジンを付けて使いよっちゃったよ』
石畳の浜には、船を引き揚げるために板が敷いてある。 コロとなる丸太も準備され、手巻きのウインチで引き揚げるシステム。
『この前の大波で、板が一枚流されとるわ』 『えー、波がここまで来たんですか!』 『そう、この前の大風。 台風なら一日で逃げるが、あの時は三日吹き続けて大変じゃった』
そう、先日の爆弾低気圧である。 防波堤があるのに、この舟屋まで波が来るとは! 驚きのパワー。
『毎年春には、ペンキを塗られるんですか』 『そう。 見てみんさい。 船底に貝がいっぱい付いて、スピードが出んわい。 ほんとなら、もっと早うやるんじゃが、今年は遊んどって遅うなった』
『漁師さんなんですよね?』 『今は、ちょっと海で遊んどるだけ』 『何が釣れるんですか?』 『鯛よタイ。 今から桜鯛よ』
***
久し振りに訪れた野波漁港。 おばあちゃんに海藻採りを教えていただき、子供達とアメフラシ探しで遊び、漁師さんには舟屋に漁船を引き揚げるところを見せていただいた上に、お話も伺うことができた。
今年初めての島根半島ツーリングは、様々な出会いに恵まれているなあ!
『今日は小波でキャンプなんです。 そろそろ戻ります』と、おばあちゃんと漁師さんに挨拶し、再び海に漕ぎ出した。
少し風が強くなり始めた海を漕ぎ戻り、シーカヤックを浜に揚げた。
道具を片付けていると、一人のおじいさんが浜に散歩に来て、建物の隅に座って海を眺め始められた。
『こんにちは』と近付いて行くと、『おお、あれで漕いできたんか』 『ええ、そうなんです。 今日は、加賀の岬の方まで漕いで、さっき野波に寄って来たんですよ』
『どこから来られた?』 『はい、広島の呉です』
私もおじいさんの斜め前に座り込む。
『呉から。 わしは呉じゃなかったが、広島の大竹に居ったことがある。 潜水艦の特攻隊で、訓練を受けよった』 『あ、大竹には、特殊潜航艇の学校があったと聞いた事がありますよ』 『おお、それじゃ』
『大竹じゃあ訓練で鍛えられたが、横須賀に移ってからは、何もすることないまま、飲んで喰ってじゃったなあ』 『それは、特攻待ちということですか?』
『ほうよ。 でも、戦争に負けて、ここに戻ってきた』
『ここに戻ってからは何されよったんですか』 『鰯漁』 『ここらのイワシは有名ですよね』 『網で獲って、ここの浜に干して、それで境港の方へ売りに行きよった。 人手が足らん時には、多古の集落の人らにも手伝ってもらいよった』
『境港へは、どうやって持って行くんですか』 『船よ』
『冬は漁はできんでしょう』 『うん、じゃけえ、牛飼いもしよったよ』 『牛ですか?』
するとおじいさんは山の上を指差し、『あそこ。 あの所で牛を何頭も買いよった。 島根和牛いうたら、わしらが育てよったんよ』
『牛飼いを習うのに、日本中を廻ったもんじゃった』 『え、そうなんですか。 スゴいですね』 『牛で、ええ儲けになった時期があったのう』
『ええ時期じゃったですね』 『でも、人によるで。 儲かるやつもおりゃあ、儲からんやつもおる。 やっぱり違うんもんよ』 特攻隊上がりで、漁師もし、牛飼いを始めるために各地を廻って牛飼いのノウハウを学んだというこのおじいさん。 こういう人達が、かつての日本の浦々を支え、興していたのだろう。
『いやあ、いろいろとありがとうございました。 ところで、ここにはお店はないですかね』 『ここにはないのう。 野波にいきゃあある』
急遽、海藻料理をすることになり、ポン酢が必要になったが、今日は持ってきていない。 野波の集落には何軒か商店があるとのことなので、自転車で散歩がてら買い出しに行く事に。 『じゃあ、行ってきます』
***
自転車で野波に行き、日御碕神社を見学。 ゆっくりと集落を廻るには、自転車が最適である。
この神社。 小さいのだが、狛犬が大きくて立派である。
JAでポン酢を買い、小波に戻ると、潮抜きのためお風呂へ。
ゆっくりとお風呂に浸かり、楽しかった一日を振り返る。 『いやあ、それにしても本当に楽しい一日やった。 ほんま、日本海のキャンプツーリングはええのう』
小波までの帰り道、日が傾き、日本海の景色がまたいい雰囲気。
シーカヤックでゆっくり遊んでみたい入り江が沢山ある。
***
小波に戻ると、日没前。 テントを張ると、ベンチに陣取り、夕食の準備を開始。
今日は、スーパーで買い込んで来た『割り子そば』と、どちらも新鮮な『そぞ&わかめ』、そして豆腐。
この割り子そばは、日本海ツーリングでスーパーで見つけたら絶対買い込む、お気に入りの一品。
海に沈み行く夕日を眺めながら、ビールをプシュリ。 『いただきます、ゴクッ、ゴクッ、ゴクーリ』 『うーん、最高!』
『そぞ』をお湯でシャブシャブし、ポン酢でいただく。 『おお、これはイケル! シャキシャキ感がなんとも良い感じ』
『そぞ』をパクリ。 ビールをグビリ。 新鮮ワカメも美味いし、割り子そばもおいしい。 いやあ、これぞキャンプツーリングの楽しみである。
***
ここからは、サンセットをつまみにビールがすすむ。
雲がない水平線に、まさにここしかないという目の前の海にゆっくりと沈んでゆく太陽。
まさに、『完璧なサンセット!』 こんなに美しい日没を見たのは、いつ以来だろうか? 『ああ、特等席での最高の夕食!』
これぞ、キャンプツーリングの醍醐味である。
***
2012年4月15日(日) いつものように、朝5時に目が覚める。 テントの外は穏やかな雰囲気。
ゆっくりと起き出し、朝ご飯の準備。 今日は、ワカメ蕎麦。
さすが島根県。 スーパーでも一人分の生蕎麦麺が売られており、昨日買い込んでおいたのだ。
ストームクッカーでこの生麺を茹で、これまた買い込んでおいたそばつゆ、そして昨日のうちに湯掻いておいた新鮮ワカメで、島根半島ツーリングらしい朝食である。
湯掻いた蕎麦をざるで湯切りし、あたためておいたそばつゆに入れて、ワカメを載せると出来上がり。 『いただきまーす』 ズル、ズル、ズルリ。 つゆをゴクリ。
『ごちそうさまでした』 あー、美味かった。
***
コーヒーを飲み、ツーリングに持って行くためのコーヒーをポットに準備して、テントと道具を片付け、ドライスーツに着替えると、朝のお散歩ツーリングへ出発だ。
少し風と雲があるが、快適な朝の海。
昨日は加賀方面だったので、今日は多古鼻方面へ。
瀬戸内とは違う、日本海らしいダイナミックな景色を楽しみながら漕ぎ進む。
岬を廻ると、ロックガーデン。
ロックガーデンを抜けると、多古鼻の北側は、東の風が抜けている。 ようし、ここから引き返そうか。
小波の浜近くまで戻り、いつも訪れる小さく静かな入江に入ってしばし休憩。 朝ポットに詰めてきた、熱々ドリップコーヒーを取り出し、ゴクリ。
これまた完璧なモーニングコーヒーである。 最高の贅沢。
1時間ほどで浜に戻り、シーカヤックと道具を潮抜きし、荷物を片付ける。
『ああ、ほんまにええ二日間やった』
桜を楽しみ、久し振りの穏やかな日本海を楽しみ、おばあちゃんに海藻採りを教えてもらい、漁師さんには舟屋について教えていただいた。 特攻隊上がりの漁師&牛飼いおじいさんにも昔の話が聞けたし、自転車も漕いで、完璧なサンセットを最高の特等席でビールを飲みながら眺め、朝のお散歩ツーリングでは最高のモーニングコーヒーを堪能した。
島根半島、やっぱええところや。 また近いうちに遊びにくるでえ!
『おお、これは完璧じゃん。 今日は久し振りに島根半島へ行ってくるけん』
私の場合、基本的に漕ぐ場所を決めるのはその日の朝5時過ぎ。 前日夜の予報で、候補を数カ所に絞っておき、朝起きた時の最新の天気予報で最終決定するのである。
今回は、島根半島の波の予報が土日とも1m。 絶好のツーリングコンディションになりそうだ。 今年初めてとなる日本海。 『これは行くしかあるまい』
シーカヤックとMTBを積んで、風向きと波次第で、西へ東へ、南へ北へ。 これが私流の楽しみ方である。
***
キャンプ予定の小波海水浴場に向かう道すがら、久し振りにチェリーロードへ立ち寄ってみた。
桜は満開に近く、日本海の美しい緑とのコントラストが美しい。
桜と海の景色とを堪能しつつ、快適なドライブ。 久し振りとなる島根半島キャンプツーリング、出だしは好調である。
多古に行ってみたが、北東の風がそこそこ吹いており、海は少しザワザワしている。
『まあいいか。 いつも多古の七つ穴ばかりでは面白くないよな。 今日は風裏となる加賀方面に行ってみるか』
***
今日のツーリングの出発地点でもあり、キャンプ地でもある小波海水浴場に到着。
ここで初めて漕いだのは、1996年の事。 海と景色の良さに惚れ込み、毎年通うお気に入りの場所である。
お昼ご飯を簡単に済ませ、シーカヤックを降ろし、ドライスーツを着込んで海に漕ぎ出した。
浅くて透明な海は、まるで沖縄を漕いでいる気分にしてくれる。
少し沖に出て深くなると、透明な海から美しいグリーンの海へと変わる。
岬をまわり、チェリーロード側の海へ。
穏やかな春の日本海を漕ぎながら、海から花見気分のツーリング。
加賀鼻の手前まで漕ぐと、多古鼻を回り込んできた風が抜けており、少し波がザワついている。 ここまでで約1時間。 『ちょうどいい。 ここで引き返すとしよう』
ここからは、陸沿いに漕ぎ進み、湾や岩礁地帯の様子を丹念にチェック。
前日までの雨でできた、海に注ぐ滝。
夏になったらシュノーケリングを楽しみたい様な、静かな湾も沢山ある。
さすが島根半島。 海の透明度は抜群である。
***
さらに引き返し、野波の漁港へ。 ここには、舟屋が残っている。
舟屋の目の前にカヤックを引き揚げ、しばし休憩。 見ると、おばあちゃんが何か採っている様子。
『こんにちは。 これは何が採れるんですか?』 『これはね、”そぞ”いう海藻』
『へえ、”そぞ”ですか。 初めて聞きました』 『まあ、正式な名前は知らんよ。 でも私らには”そぞ”。 私は境港なんじゃけど、最近はなかなかこれがなくて。 それでここまで採りにくるんよ』
『そうなんですか』 『この”そぞ”は、こっちの方の人はあまり食べんいうし、境港の方でも町の方の人は食べん。 私ら浜の方の人間だけよ』
『こりゃあ、どうやって食べるんですか?』 『これはね、さっとお湯で湯掻いてポン酢で食べたり、佃煮を作ったり。 私はこれが大好きで、春になったらこれを食べるんを楽しみにしとるんよ。 もうこの時期になったらソワソワしてくる』
『それなら、私も今日の夜はキャンプの予定なんで、ちょっと採って帰って食べてみますよ』 『湯掻いたら、最初はヨードの強い匂いがするけど、軽く湯掻くだけでええよ』 『はい。 分かりました。 一人なんで、少しだけ採って帰ります』
春の海で、しばし海藻を採取。 おばあちゃんと一緒にきているお孫さん達は、下着姿になって海に浸かって遊んでいる。 『やっぱ子供は元気やなあ』
そのお孫さんが手に何か持って『これ、何て言う名前じゃったっけ? 紫色の汁をだすもん』と聞いてきた。 『お、それはアメフラシよ』と教えてあげると、『そうじゃった、アメフラシ。 あっちにいっぱいおるよ』と言いながら、他の子供達の方へ戻って行く。
『どれどれ』と俺も海に入り(残念ながらドライスーツだが)、磯でアメフラシ探し。 『ここに居るで!』と捕まえてみせると、『あー、それ大きい。 ○○ちゃん、それもらってきて』 取りにきた子供に『ほれ』と手渡し、次を探す。
しばし、海藻採りとアメフラシ探しで、春の日本海を楽しんだ。
***
ふと舟屋の方を見ると、一艘の漁船にロープを掛けておられた。
『こんにちは。 これ、舟屋に収められるんですか?』 『いいやあ、そこのペンキを塗り直そうと思うて、少し浜に揚げるんよ』
『冬は、この舟屋に収められるんですよね』 『昔はそうじゃったけど、ここの防波堤ができてからは、冬でも舟屋に揚げんでもようなった』 『そうなんですか』
『あっちの舟屋には、木造船がありますね』 『うん、あれはもう大分古いよ。 30年以上前の船じゃろう』
『ありゃあ、手漕ぎ舟ですか?』 『いいや、エンジンを付けて使いよっちゃったよ』
石畳の浜には、船を引き揚げるために板が敷いてある。 コロとなる丸太も準備され、手巻きのウインチで引き揚げるシステム。
『この前の大波で、板が一枚流されとるわ』 『えー、波がここまで来たんですか!』 『そう、この前の大風。 台風なら一日で逃げるが、あの時は三日吹き続けて大変じゃった』
そう、先日の爆弾低気圧である。 防波堤があるのに、この舟屋まで波が来るとは! 驚きのパワー。
『毎年春には、ペンキを塗られるんですか』 『そう。 見てみんさい。 船底に貝がいっぱい付いて、スピードが出んわい。 ほんとなら、もっと早うやるんじゃが、今年は遊んどって遅うなった』
『漁師さんなんですよね?』 『今は、ちょっと海で遊んどるだけ』 『何が釣れるんですか?』 『鯛よタイ。 今から桜鯛よ』
***
久し振りに訪れた野波漁港。 おばあちゃんに海藻採りを教えていただき、子供達とアメフラシ探しで遊び、漁師さんには舟屋に漁船を引き揚げるところを見せていただいた上に、お話も伺うことができた。
今年初めての島根半島ツーリングは、様々な出会いに恵まれているなあ!
『今日は小波でキャンプなんです。 そろそろ戻ります』と、おばあちゃんと漁師さんに挨拶し、再び海に漕ぎ出した。
少し風が強くなり始めた海を漕ぎ戻り、シーカヤックを浜に揚げた。
道具を片付けていると、一人のおじいさんが浜に散歩に来て、建物の隅に座って海を眺め始められた。
『こんにちは』と近付いて行くと、『おお、あれで漕いできたんか』 『ええ、そうなんです。 今日は、加賀の岬の方まで漕いで、さっき野波に寄って来たんですよ』
『どこから来られた?』 『はい、広島の呉です』
私もおじいさんの斜め前に座り込む。
『呉から。 わしは呉じゃなかったが、広島の大竹に居ったことがある。 潜水艦の特攻隊で、訓練を受けよった』 『あ、大竹には、特殊潜航艇の学校があったと聞いた事がありますよ』 『おお、それじゃ』
『大竹じゃあ訓練で鍛えられたが、横須賀に移ってからは、何もすることないまま、飲んで喰ってじゃったなあ』 『それは、特攻待ちということですか?』
『ほうよ。 でも、戦争に負けて、ここに戻ってきた』
『ここに戻ってからは何されよったんですか』 『鰯漁』 『ここらのイワシは有名ですよね』 『網で獲って、ここの浜に干して、それで境港の方へ売りに行きよった。 人手が足らん時には、多古の集落の人らにも手伝ってもらいよった』
『境港へは、どうやって持って行くんですか』 『船よ』
『冬は漁はできんでしょう』 『うん、じゃけえ、牛飼いもしよったよ』 『牛ですか?』
するとおじいさんは山の上を指差し、『あそこ。 あの所で牛を何頭も買いよった。 島根和牛いうたら、わしらが育てよったんよ』
『牛飼いを習うのに、日本中を廻ったもんじゃった』 『え、そうなんですか。 スゴいですね』 『牛で、ええ儲けになった時期があったのう』
『ええ時期じゃったですね』 『でも、人によるで。 儲かるやつもおりゃあ、儲からんやつもおる。 やっぱり違うんもんよ』 特攻隊上がりで、漁師もし、牛飼いを始めるために各地を廻って牛飼いのノウハウを学んだというこのおじいさん。 こういう人達が、かつての日本の浦々を支え、興していたのだろう。
『いやあ、いろいろとありがとうございました。 ところで、ここにはお店はないですかね』 『ここにはないのう。 野波にいきゃあある』
急遽、海藻料理をすることになり、ポン酢が必要になったが、今日は持ってきていない。 野波の集落には何軒か商店があるとのことなので、自転車で散歩がてら買い出しに行く事に。 『じゃあ、行ってきます』
***
自転車で野波に行き、日御碕神社を見学。 ゆっくりと集落を廻るには、自転車が最適である。
この神社。 小さいのだが、狛犬が大きくて立派である。
JAでポン酢を買い、小波に戻ると、潮抜きのためお風呂へ。
ゆっくりとお風呂に浸かり、楽しかった一日を振り返る。 『いやあ、それにしても本当に楽しい一日やった。 ほんま、日本海のキャンプツーリングはええのう』
小波までの帰り道、日が傾き、日本海の景色がまたいい雰囲気。
シーカヤックでゆっくり遊んでみたい入り江が沢山ある。
***
小波に戻ると、日没前。 テントを張ると、ベンチに陣取り、夕食の準備を開始。
今日は、スーパーで買い込んで来た『割り子そば』と、どちらも新鮮な『そぞ&わかめ』、そして豆腐。
この割り子そばは、日本海ツーリングでスーパーで見つけたら絶対買い込む、お気に入りの一品。
海に沈み行く夕日を眺めながら、ビールをプシュリ。 『いただきます、ゴクッ、ゴクッ、ゴクーリ』 『うーん、最高!』
『そぞ』をお湯でシャブシャブし、ポン酢でいただく。 『おお、これはイケル! シャキシャキ感がなんとも良い感じ』
『そぞ』をパクリ。 ビールをグビリ。 新鮮ワカメも美味いし、割り子そばもおいしい。 いやあ、これぞキャンプツーリングの楽しみである。
***
ここからは、サンセットをつまみにビールがすすむ。
雲がない水平線に、まさにここしかないという目の前の海にゆっくりと沈んでゆく太陽。
まさに、『完璧なサンセット!』 こんなに美しい日没を見たのは、いつ以来だろうか? 『ああ、特等席での最高の夕食!』
これぞ、キャンプツーリングの醍醐味である。
***
2012年4月15日(日) いつものように、朝5時に目が覚める。 テントの外は穏やかな雰囲気。
ゆっくりと起き出し、朝ご飯の準備。 今日は、ワカメ蕎麦。
さすが島根県。 スーパーでも一人分の生蕎麦麺が売られており、昨日買い込んでおいたのだ。
ストームクッカーでこの生麺を茹で、これまた買い込んでおいたそばつゆ、そして昨日のうちに湯掻いておいた新鮮ワカメで、島根半島ツーリングらしい朝食である。
湯掻いた蕎麦をざるで湯切りし、あたためておいたそばつゆに入れて、ワカメを載せると出来上がり。 『いただきまーす』 ズル、ズル、ズルリ。 つゆをゴクリ。
『ごちそうさまでした』 あー、美味かった。
***
コーヒーを飲み、ツーリングに持って行くためのコーヒーをポットに準備して、テントと道具を片付け、ドライスーツに着替えると、朝のお散歩ツーリングへ出発だ。
少し風と雲があるが、快適な朝の海。
昨日は加賀方面だったので、今日は多古鼻方面へ。
瀬戸内とは違う、日本海らしいダイナミックな景色を楽しみながら漕ぎ進む。
岬を廻ると、ロックガーデン。
ロックガーデンを抜けると、多古鼻の北側は、東の風が抜けている。 ようし、ここから引き返そうか。
小波の浜近くまで戻り、いつも訪れる小さく静かな入江に入ってしばし休憩。 朝ポットに詰めてきた、熱々ドリップコーヒーを取り出し、ゴクリ。
これまた完璧なモーニングコーヒーである。 最高の贅沢。
1時間ほどで浜に戻り、シーカヤックと道具を潮抜きし、荷物を片付ける。
『ああ、ほんまにええ二日間やった』
桜を楽しみ、久し振りの穏やかな日本海を楽しみ、おばあちゃんに海藻採りを教えてもらい、漁師さんには舟屋について教えていただいた。 特攻隊上がりの漁師&牛飼いおじいさんにも昔の話が聞けたし、自転車も漕いで、完璧なサンセットを最高の特等席でビールを飲みながら眺め、朝のお散歩ツーリングでは最高のモーニングコーヒーを堪能した。
島根半島、やっぱええところや。 また近いうちに遊びにくるでえ!