あれはもう30年ほど前になりますか。京都にある母校の大学で演劇部の新作(自作)の秋公演の準備をしていた時のことでした。大道具の階段を作製するため、一晩だけ大学の学生会館に泊まり込んでおりました。夏の、ちょうど今頃でした。三階建ての細長い会館には学生の姿も少なく、二階に映研の部員が僅かにいるだけで、ほとんど無人の状態でした。狭い階段を三階まで上りつめ、廊下のどん突きの左側に我らが演劇部の部室がありました(一階は小ホール、二階と三階に各九部屋ずつ部室が入っていました)。廊下の突きあたりには小窓がひとつ。部室は西日の入る角部屋でした。
作業は夕方から始めて、あっという間に夜になりました。深夜ラジオを聞きながらなぐりを振っていると、真夜中を過ぎた頃でしたか、誰かが廊下を歩いてきます。階段からこちらに向かって。誰だろう?スリッパか何か、摺るような足音です。映研の人かな?と思って気にしていると、足音は演劇部のドアの前でぴたっと止まりました。「なんだよ、入って来いよ。」仕方なくドアを開けてみますと・・・。そこには、誰もおりません。向かいの部屋に入ったのかな?と見てみましたが、他の部屋はみんな外から鍵がかかっておりました。廊下はどん詰まりです。袋小路。 私はゾッとして、慌てて二階の映研の部室へ走って行きました。「どうしたん?」1年先輩の彼は眠そうに聞きます。「で、出た。」「あぁ、やっぱりなぁ。軽音のKさんなんか着物の子供に『あそぼ』て言われたらしいで。」「ゲロゲロ!」 京都は町中でもこの手の話はよくありまして、いちいち気にしてはおれんのです。ひとしきり喋った私は仕方なく部室に戻り、朝まで階段を作り続けました。言うまでもなく、ラジオは大音量で鳴りっぱなしでした。
・・・あれは草履だったのかな? ずいぶん昔のお話です。
作業は夕方から始めて、あっという間に夜になりました。深夜ラジオを聞きながらなぐりを振っていると、真夜中を過ぎた頃でしたか、誰かが廊下を歩いてきます。階段からこちらに向かって。誰だろう?スリッパか何か、摺るような足音です。映研の人かな?と思って気にしていると、足音は演劇部のドアの前でぴたっと止まりました。「なんだよ、入って来いよ。」仕方なくドアを開けてみますと・・・。そこには、誰もおりません。向かいの部屋に入ったのかな?と見てみましたが、他の部屋はみんな外から鍵がかかっておりました。廊下はどん詰まりです。袋小路。 私はゾッとして、慌てて二階の映研の部室へ走って行きました。「どうしたん?」1年先輩の彼は眠そうに聞きます。「で、出た。」「あぁ、やっぱりなぁ。軽音のKさんなんか着物の子供に『あそぼ』て言われたらしいで。」「ゲロゲロ!」 京都は町中でもこの手の話はよくありまして、いちいち気にしてはおれんのです。ひとしきり喋った私は仕方なく部室に戻り、朝まで階段を作り続けました。言うまでもなく、ラジオは大音量で鳴りっぱなしでした。
・・・あれは草履だったのかな? ずいぶん昔のお話です。