https://society-zero.com/chienotane/archives/8728 略
・自然免疫:先天的に持っている抵抗力。病原体の侵入に対し速やかに生体防御する。
・獲得免疫:後天的に獲得される抵抗力。体外からの病原体に感染して初めて、病原体を攻撃する抗体や特殊なリンパ球が産生される。
「過去の記憶を頼りに」とは、病原体共通の構造パターンを認識する物質が細胞表面上にあり、病原体の感染により、いち早くこの物質が病原体を認識して、攻撃する物質(サイトカイン)を細胞から分泌させる機構が人間に備わっているからです。
ここで獲得免疫が「抗体」とリンクしていて、自然免疫は「抗体」と関係がないことを確認しましょう。略
二つの論文
アメリカ・ラホヤ免疫学研究所では、過去にさかのぼった検体対象から「交差反応」を確認しました。風邪と新型コロナとの間に、です。
新型コロナのパンデミックが始まる前に集めていた、風邪の病原体であったコロナウイルスに感染した11人の血液サンプルを調べました。そうするとその半分(40~60%)から、今年の新型コロナのウイルスを防ぐ免疫作用を持つ「T細胞(免疫システムの中心的な存在)」が検出されたのです。
ドイツ・シャリテ医科大学は現在の検体対象から「交差反応」を確認しました。
新型コロナに感染していない68人を調べたところ、34%から新型コロナに関連する免疫にかかわる「T細胞(免疫システムの中心的な存在)」が見つかった、というのです。
新型コロナは、
A:感染者の8割は無症状~軽度の上気道炎症状で終始し、1週間程度で治癒する感染症であるが、
B:2割において重症化が起こり、うち5%の人が死亡する
C:その重症化は宿主免疫の暴発(サイトカインストーム)であり、その原因は未だ解明されていない
このうちAの現象に多くの医療従事者、研究者が戸惑っていました。が、ふたつの研究により、風邪のウイルスに感染してできた免疫が新型コロナウイルスにも交差的に反応することが、その理由のひとつである可能性が示唆されたと言えます。
つまり、風邪の場合人により家で安静にし3,4日のうちに病状を回復させ普段の生活に戻ります。自己の免疫力で生体防御反応を見せて病気に対処したわけですが、新型コロナでもAの8割の中に、「交差免疫」で似た回復経路をたどる人がいる可能性があるということです。
またSARSを起こすコロナウイルス(SARS-CoV)によく似ていたことから新型コロナのウイルスに「SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)」と命名しました。そこでSARSから対処法を研究するアプローチが行われています。ところがこの研究からはなかなか確たる成果が出ていませんでした。獲得免疫応答(免疫獲得プロセス)がよくわからず、このままではワクチンができないのではないかと悲観する向きさえありました。
が、このふたつの論文から、研究者の間に希望と安心感が生まれているのだそうです。
6.まとめ
これまで、新型コロナの終息には、ふたつの道しかないと言われてきました。すなわち
・ワクチンが開発される
・6割程度の集団免疫が獲得される
ここに、「風邪のウイルスに感染してできた免疫が新型コロナウイルスにも交差的に反応する」道が三番目に現れました。
あるいは、世界の人々が新型コロナについて感染を防ぐ方法に関心を持っています。今のところ、
・手指衛生(自己防衛)と
・social distancing(集団防衛)
のふたつが重要でした。
ここに、「(アジアに固有な)風邪のウイルスに感染して自力で直すこと」が三番目の方法として浮上する、ということなのかもしれません。
そして最後に、日本での新型コロナウイルスの抗体保有率の低さも、「抗体」ができない「自然免疫」ゆえの現象なのかもしれないのです。
つまり、アジアの謎や日本の謎は、「なぜアジア(日本)で感染者数や死者数がすくないのだろう」と疑問を持っていたわけですが、それはPCR検査や抗体検査で計測した「感染者数」と「感染後の死者数」が前提です。
そしてこれらの数値を追いかける目的は、感染状況を把握すると同時に、集団免疫の獲得状況も知りたいという点にもありました。
ここで風邪による「交差免疫」から産生する、新型コロナの免疫獲得がある程度の確度で推測可能なのだとすると、アジアや日本は、新型コロナに対しある程度の集団免疫獲得があらかじめなされていた(自然免疫の「過去の記憶」)がゆえに、死者数が少ないのだと言えるのかもしれません。まだまだ検証すべき点が多い研究成果、論文の内容ではあるでしょうが(例:サンプル数が圧倒的に少ない)、希望が持てる報告ではあります。